通院が必要な睡眠障害との見極めも
2021.08.06 更新
寝不足や睡眠リズムの乱れは、学習や仕事のパフォーマンスに悪影響を及ぼすだけでなく心身の健康を悪化させます。休日の寝だめや寝付きを良くするための飲酒など、良かれと思っていることが、眠りを悪化させる原因になることも。良い眠りに導くためのセルフケア方法を知っておくとともに、自力で改善しないときには専門医を訪ねることも大切。睡眠障害に関する医療機関での治療についてもご紹介します。
あなたは自分の睡眠に満足できていますか。
前編の「5人に1人が睡眠不足。あなたの睡眠は大丈夫?寝不足を続けるとどんなリスク(影響)があるの?」でご紹介したように、睡眠は心身の健康のみならず、勉強や仕事のパフォーマンスにも大きく影響することがわかっています。眠りの悩みが慢性化しないうちに、日常のセルフケアで良い睡眠へと立て直したいものです。
「人間の体内には、夜になると眠くなり、朝になると目覚める、という睡眠と覚醒のリズムが備わっています。ところが、夜の眠りを妨げる生活習慣やストレスが続くと、寝付きが悪くなり、スッキリ起きられないといった睡眠の乱れも常態化します。体内時計に合わせた光の刺激、食事、活動を心がけることによって、夜に自然と寝付けるようにしていくことが大切です」と、青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長の中村真樹先生は話します。
眠りの悩みが慢性化して日常生活に明らかに支障が出てしまう前に、ぜひ実践したいセルフケアの方法を、1日の流れに沿って紹介します。
睡眠と覚醒のリズムを作るために最優先したいのが、朝の「体内時計のリセット」です。体内時計は、人間の体に備わった体のリズムを刻むシステムで、ホルモンの分泌や体温など体の基本的機能をコントロールしています。体内時計には、体全体のリズムを整える脳にある「中枢時計」と、臓器など体中の細胞が持つ「末梢時計」があります。これらの体内時計の周期は概ね24時間周期リズムを刻むので概日リズム(サーカディアンリズム)ともいわれます。ただし、この体内時計の周期は24時間よりも少しだけ長いため、体内時計の1日を地球の1日に合わせるには、1日1回リセットする必要があるのです。「中枢時計のリセットで重要なのが朝に太陽光を浴びること。目から入った光の刺激で眠気をもたらすメラトニンの分泌が抑えられ、体が活動モードになります。さらにその約14時間後にはメラトニンの分泌が増えて眠気が起きるという自然のリズムが刻まれます」(中村先生)。夜に強い光やブルーライトを浴びることは、この朝日を浴びるのと同じ作用があり、メラトニンの分泌が妨げられるのです。
規則正しくリズムを刻むことは安定した眠りにつながります。平日も休日も、できるだけ決まった時間に起き、光を浴びて「時計合わせ」をしましょう。「光のレベルは、晴れた日にカーテンを開けたときの明るさ程度で十分です。通勤や通学がなく家で過ごす人は、ベランダや窓際で光を感じるといいでしょう」(中村先生)。
体内時計は光だけでなく、食事の影響も受けています。起床後に光を浴びることでリセットされるのは体内時計の「中枢時計」ですが、食事は「末梢時計」をリセットします。「血糖値が上がると分泌されるインスリンというホルモンが、末梢時計のリセットに役立つことがわかっています。血糖値を上げる炭水化物を含む朝食をとると体内時計が正常に働きます。最近では朝食を抜く人がいますが、ジュースでも良いので朝の起きがけに血糖値を上げましょう」と中村先生。最近では、たんぱく質も末梢時計をリセットするという報告もあり※1、炭水化物やたんぱく質を含む朝食を欠かさないことが大切です。
※1 EBioMedicine.2018 Feb;28: 210-224.
頑張って起きたけれど、ぼんやりして体が目覚めない…、というときもあるでしょう。「その場合、熱めのシャワーを浴びると体を活動モードにする交感神経の働きが高まり、脳を目覚めさせることができます」と中村先生。
リモートワークやリモート学習が多くなっていることで、運動不足が定常化している人も多いでしょう。「体を動かしたときの適度な疲労は良い睡眠のもとです。また、天気の良い日の散歩は気持ちをリフレッシュさせ、睡眠にも良い影響をもたらします」(中村先生)。
睡眠に問題がない健康な成人男性9人が最大酸素摂取量の60%のつらくない程度の運動を1時間行ったところ、深い睡眠の指標となる脳波が増加したという研究もあります※2。
※2 Sci Rep. 2021 Feb 24;11(1):4410.
昼食後に眠くなるのは誰もが経験すること。これは人間に備わった自然なリズムです。「睡眠に問題がなくても、昼食後の14時から16時の間は眠気が起こりやすい時間帯です。そんなときにおすすめなのが、15~20分の昼寝です。眠気がとれてスッキリし、作業効率も上がります。昼寝の取り方のポイントは、長く寝過ぎないことと、夕方以降に昼寝はしないこと。長く寝過ぎたり16時以降に昼寝をしたりすると、肝心の夜に眠れなくなってしまいます。また、昼寝からスッキリ起きるために、仮眠前にカフェインの入った飲み物を飲むのも一法です」(中村先生)。
日中の眠気が我慢できないとき、カフェインは味方になってくれます。ただし、その効果が夜にまで続くと睡眠が妨げられてしまいます。「カフェインが完全に代謝、排出されるには8時間ほどかかります。夜の睡眠に影響を与えないためには、カフェインの摂取は16時までにしたほうがいいですね」と中村先生は助言します。
カフェインはコーヒーや緑茶だけでなく、チョコレートやココアにも含まれています。また、市販のエナジードリンクや眠気覚ましのガムにも入っているので、口にする前に商品の表示をチェックしてみましょう。
リモートワークやリモート学習では、昼と夜のメリハリがつきにくくなってリズムが乱れ、夜型生活になっている人も多いようです。「そうした状況を改善するには、いかに気持ちを切り替えるかが重要です。それには、服装を変えることも有効です。例えば朝起きたら外出用の服に着替え、仕事や勉強が終わったら普段着に着替えるだけでもメリハリがつきやすくなります」(中村先生)。
「遅い夕食は、睡眠リズムに影響を与えてしまい、寝付きが悪くなります。良い睡眠のためには、就寝時刻の3時間前までに食事をすませたいもの。残業などで夜の食事が遅くなる場合は、夕方におにぎりやサンドイッチなどを食べておき、帰宅後の食事はスープなど軽いものにするといいでしょう」(中村先生)。
朝の光は体内時計を早めますが、夕方以降に浴びる光、特にパソコンやスマートフォンのLEDディスプレーから発せられるブルーライトは体内時計を遅らせるとする指摘があります。「22時を過ぎたら、パソコンやスマートフォン、テレビは控えめにして、ブルーライトをなるべく浴びないようにしましょう。就寝1時間ほど前からは室内の照明も、ブルーライトを多く含む青白い蛍光灯ではなく電球色に。調光できるなら、光の量も落とすと自然な眠気がもたらされます」(中村先生)。
「良い睡眠のために、入浴タイムを積極的に活かしてください」と、アオハルクリニック院長の小柳えりこ先生。一度上がった深部体温が下がるときに、眠気が起こりやすくなります。そのため、入浴で体温を上昇させると眠りに入りやすいのです。「その際は、眠りたい時間の1~2時間前に、ぬるめのお湯にゆっくりつかりましょう。高温のお風呂は体を目覚めさせてしまうので逆効果です。お風呂では好みの香りの入浴剤を用いると、リラクゼーション効果も高まります」(小柳先生)。
【第一三共ヘルスケアの該当製品】
寝る直前の激しい運動は避けましょう。交感神経の働きが高まり、覚醒モードになってしまうからです。「筋トレなどの強度の高い運動は、就寝から2~3時間前までにすませましょう」(中村先生)。
ただし、寝る前でもリラクゼーション効果の高いヨガやストレッチなどのゆったりした運動はおすすめ。40歳以上の女性176人を対象に、就寝前に5~10分のヨガストレッチ体操を3週間毎日実施するプログラムを実施したところ、寝付きまでの時間が有意に短縮したという研究もあります※3。
※3 体力研究.2008;106:1-8.
眠れないとき、お酒の力を借りる人もいるでしょう。けれども、飲酒は睡眠に悪影響を及ぼします。「お酒を飲むと眠気が高まり、寝付きが良くなると感じるかもしれません。しかし、飲酒後数時間経つと眠りが浅くなり、夜間に何度も目覚めるなど睡眠の質が悪化することがわかっています※4。睡眠前の習慣としての『寝酒』は避けましょう。また、タバコのニコチンにも覚醒作用があるため、就寝する1時間前からの喫煙は避けるようにしましょう」と中村先生。
※4 J Clin Psychopharmacol. 1996 Dec;16(6):428-36.
寝る前の自分なりのリラックス法をルーティン化するのも良い睡眠につながります。「もう寝る時間だ」と心身が反応し、スムーズに眠りにつきやすくなるからです。例えば、ストレッチをして体の緊張をほぐしたり、アロマを部屋に香らせたりするのも一つの手です。「ラベンダー、カモミール、スギ、ヒノキの香りには鎮静作用があります。ただし、香りには好みに個人差があるので、実際に試してリラックスできる香りを選ぶといいでしょう」と小柳先生。
「寝不足を実感していると、眠らなければ、と思うあまりに、早い時間から寝床に入り、『眠れない』とさらに目がさえてしまう人がいます。特に高齢の方は、早く寝床に入りすぎる人が多いようです」と中村先生。眠るために寝床に入るのではなく、眠くなってから入るようにしましょう。「ただし若い世代の人は、眠くなってから寝床に、と思うと夜更かししてしまう傾向があるため、"○時までに寝る"と時間を決めるといいでしょう」(中村先生)。
日中の緊張が残っている人やストレスがある人は、布団に入ると「眠れないかも」と焦りを感じてしまうことも。「そのようなときは、ゆっくり深呼吸を繰り返しながらその回数を数えることに集中すると、緊張や不安がほぐれて寝付きやすくなります」(中村先生)。
「1年の中でも、夏の熱帯夜は誰もが寝苦しく、睡眠の質が悪くなりがちです。高温環境では、睡眠途中で目覚める"中途覚醒"が増える傾向にあります。エアコンや寝具で暑さをコントロールしましょう。寝ている間にエアコンをつけているのを好まない場合には、寝る前に部屋をしっかり冷やしておくと、寝付きも良くなります」(中村先生)。
眠りを改善する市販薬や漢方薬、「眠りの質を高める」と表示されたサプリメントなどが市販されています。中村先生は、「睡眠に悩んだときに一時的に試してみても良いかもしれません。1~2週間経っても効果を実感できないときには使用を中止し、必要に応じて医療機関を受診してください」と助言します。
ここまで挙げたようなセルフケアを実践してみても眠りの悩みが改善されないときには、医療機関を受診しましょう。
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<番外編>不眠を治療するなら(病院での治療方法)
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