番外編 病院での治療方法

不眠を治療するなら

セルフケアで対処できないときのメディカルケア

こんなときには医療機関を受診

ここまで挙げたようなセルフケアを実践してみても眠りの悩みが改善されないときには、医療機関を受診しましょう。

眠れない、という程度で受診していいの?と躊躇するかもしれませんが「夜眠れず、日中眠くて仕事にならない、など仕事や学業などに支障が出るようなら、医療機関を受診してください。眠りに関するつらさは人それぞれですが、2~3週間ほど不眠が続いているといった理由でクリニックを受診する方もたくさんいらっしゃいます」と、睡眠総合ケアクリニック代々木理事長の井上雄一先生はアドバイスします。

医学的分類によると、眠りに問題が生じる睡眠障害には90種類以上もあるとのことですが(睡眠障害国際分類第3版:ICSD-3,2014による)、主には次のようなものがあります。

  • 不眠症(夜の寝付きが悪く、途中で目が覚める、朝早く目覚めるなどの症状が続く)
  • 睡眠時無呼吸症候群(睡眠中に繰り返し呼吸が止まる、大きないびきをかく)
  • 過眠症(夜十分に睡眠をとっても日中眠く居眠りしてしまう)
  • 概日リズム睡眠障害(体内の睡眠と覚醒のリズムがずれて、朝起きられないなど日常生活に支障をきたす)
  • 睡眠中の異常行動(睡眠中に寝ぼけて歩く、会話する、寝ている間に食べてしまうなど)
  • 睡眠中の異常運動(眠っている間に脚がぴくぴく動く、夜横になると脚に不快な感覚が生じる)

では、眠りに関する治療を受けたい場合、どの診療科に行けばいいのでしょう。「まずは普段受診しているかかりつけの内科に相談してください。必要に応じて睡眠薬などの薬を処方してもらえます。それでも改善せず、明らかな不眠症の兆候が認められたり、うつ病や睡眠時無呼吸症候群、概日リズム睡眠障害などの病気を併発している場合は、睡眠外来や精神科など、専門的な治療が受けられる病院やクリニックを紹介してもらいましょう。睡眠外来などでは、薬だけでは治療がうまくいかないときに認知行動療法を併用することもあります」(井上先生)。

薬物治療

医療機関の治療では、問診や検査で症状を把握した上で、適切な薬剤が処方されます。
不眠症の場合、睡眠を促すために使われるのは、(1)脳の神経活動を抑えるリラクゼーション効果と催眠作用がある薬、(2)脳内で睡眠の調整に関わるホルモンに働きかけ、覚醒と睡眠のスイッチの入れ替えをアシストする薬、(3)体内時計を調整するとともに、入眠を促す作用がある薬の3種類です。「多くの場合、いずれの薬も効果は1週間以内で表れます。翌朝に眠気の持ち越しやふらつきなどが起こった場合は、薬の量を減らしたり飲むタイミングを1~2時間早めるなどして調整します。不眠症状が軽くなっても、焦って減薬や休薬をせずに長い目で見ながら治療を行います」(井上先生)。

認知行動療法

睡眠薬を飲んでも眠れない、不眠に対する考え方や思い入れが強くなることで不眠がなかなか改善しない、昼夜逆転してしまっているといった悩みがある場合の治療法に、「認知行動療法」があります。これは、医師や認知行動療法士がカウンセリングするものです。「認知行動療法では、まず不眠に対する自分の考えや思い入れに気づいてもらい、これまでと違う考え方や眠り方のパターンを探り是正していきます」(井上先生)。

不眠症に対する認知行動療法の有効性を解析した研究により、認知行動療法は寝付きや睡眠中の覚醒、睡眠の質などを改善する効果的な治療法として確立されています※。最近では認知行動療法を取り入れている睡眠外来も増えているので、ホームページなどでチェックしてみましょう。

※ Sleep Biol Rhythms.2018;16:21-35.

睡眠の乱れに潜む病気

"悪い眠り"には、思わぬ病気が隠れていることがあります。その代表的なものが、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」と「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」です。
思い当たる症状が続いていたら、受診して調べてもらいましょう。

「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」

睡眠中に1時間あたり5回以上(1回10秒以上)呼吸が止まる「無呼吸」や、呼吸が弱くなる「低呼吸」を繰り返した場合に睡眠時無呼吸症候群と診断されます。多くの場合、大きないびきを伴います。無呼吸状態の睡眠が妨げられ、日中に眠くなります。「この病気があると、眠りの質が悪くなり、日中に眠くなります。また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病、心筋梗塞や脳梗塞などの虚血性疾患、認知症の発症や悪化のリスクが高くなります」(中村先生)。

睡眠時無呼吸症候群になりやすいのは、肥満、顔が小さくあごが小さい、扁桃腺肥大がある、内分泌疾患(先端巨大症、甲状腺機能低下症)がある、閉経後女性などです。「CPAP:シーパップ」という鼻マスクを睡眠時に装着して気道の閉塞を広げたり、マウスピースをつけて気道を広げたりする治療を行います。

いびきをかいて寝ている人

「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」

夕方から夜間、座ったり横になったりしているときに、足を中心にむずむず感がある、痛い、かゆいなどの不快感が生じて寝付けなくなる病気です。足を動かしたりマッサージしたりすると不快感は楽になります。男性より女性に多く、鉄不足や貧血、カフェインやニコチン、アルコールの摂取などが原因になることがあります。また、足以外にも腕や腰回りにも同じような不快感が生じることも。生活習慣の改善や薬物治療で症状が改善されます。

対策・セルフケア方法は本編(後編)、原因・リスク(影響)は前編へ

専門家プロフィール(あいうえお順)

井上雄一先生
東京医科大学睡眠学講座教授。睡眠総合ケアクリニック代々木理事長。日本睡眠学会理事。
鳥取大学大学院医学研究科博士課程修了。鳥取大学医学部附属病院講師、順天堂大学医学部精神医学講師、公益財団法人神経研究所研究部部長などを経て2008年より現職。
中村真樹先生
青山・表参道睡眠ストレスクリニック院長。日本睡眠学会専門医。東北大学医学部卒・東北大学大学院医学研究科修了後、東北大学病院精神科で助教、外来医長を務める。睡眠総合ケアクリニック代々木院長を経て、2017年より現職。公益財団法人神経研究所附属睡眠学センター研究員、東京医科大学睡眠学講座客員講師。
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