女性ホルモン分泌量が“大きく揺らぎ”ながら低下する「更年期(45~55歳)」
2022.02.28 更新
「更年期」は、女性の体が生殖期から非生殖期に移行する期間で、閉経をはさんだ前後5年の合計10年間を指します。卵巣からの女性ホルモンの分泌が完全に止まり、思春期、性成熟期と続いてきた約40年間の女性ホルモンとのお付き合いが終了します。この時期は女性ホルモン分泌量の“大きな揺らぎ”に心と体が乱されるため、様々な不調に見舞われますが、治療やセルフケアなどの対策があります。一人で我慢せず、医療機関に相談したり、家族と話し合ったりして、つらさを和らげましょう。
「更年期」は女性の体が大きく変化する時期。それまで体と心を守ってきた女性ホルモンのエストロゲンが激減し、それに伴って様々な不調が現れやすくなります。更年期の10年間は、卵巣からのエストロゲン分泌が途絶えるという体内環境の大変化に体が慣れるための期間なのです。日本人の平均的な閉経年齢(閉経年齢中央値)は約52.1歳※1とされており、一般に45〜55歳くらいが更年期に相当します。もちろん、40代前半に閉経を迎える人もいれば、50代半ばで迎える人もいて、更年期の時期にも個人差があります。
閉経に至るプロセスも人それぞれです。比較的多いのは規則的だった月経周期が短くなり、続いて徐々にまばらになったり長くなったりして、やがて閉経に至るというパターンです。経血量も少なくなったかと思えば、いきなり多量に出血したりして、見通しが立てづらくなります。このような不順な状態が2〜3年ほど続き、月経が来ない状態が1年間続いた場合に閉経と判断します。
更年期には月経の変化とともに、倦怠感、イライラ、ホットフラッシュなどの不調が起こる人が増えます。ではなぜ、この時期にこうした症状が出てくるのでしょうか。
その原因となっているのが脳の混乱です。「エストロゲンを出して」と指令を出す脳の働きに卵巣が応えられなくなって、すれ違いが生じるためです。
そもそも女性ホルモンは卵巣から分泌されますが、その命令を発しているのは脳です。脳の視床下部から「性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)」が分泌されると、視床下部のすぐ下にある下垂体から性腺刺激ホルモンである「卵胞刺激ホルモン(FSH)」と「黄体形成ホルモン(LH)」が分泌されます。そして、これらのホルモンは血流に乗って卵巣に運ばれ、卵巣を刺激します。この結果、卵巣からエストロゲンとプロゲステロンが分泌されます。
ところが、更年期には加齢によって卵巣の働きが低下しており、脳がFSHを分泌して「エストロゲンを出して」と指令を伝えても、以前のようには応えられません。そこで脳はFSHの分泌量を増やし「もっと出して!」と命令を出し続けます。卵巣も自らに鞭打ってなんとかがんばろうとしますが、やがて力尽きてエストロゲンを分泌できなくなってしまいます。
「例えばガソリンが足りなくなった車のアクセルを踏むと、急発進したり、止まったりを繰り返しますね。これと同じようなことが更年期の体の中でも起こっています。FSHが増えると卵巣はそれに応えようとして過剰反応でエストロゲンを必要以上に多く分泌したり、逆に少ししか分泌できなかったりを繰り返します。その結果、エストロゲンの分泌量が増えたり減ったりと大きく乱高下することになります。この“揺らぎ”が、ホットフラッシュやめまい、不眠、憂うつなどの更年期症状を引き起こすのです。エストロゲンが減るからというよりも、大きく揺らぎながら減っていくことで様々な更年期症状が現れる。これが更年期の大きな特徴です」と東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授の寺内公一先生は説明します。
視床下部はホルモンの司令塔であると同時に自律神経の中枢でもあるため、この女性ホルモンの乱れによって自律神経も混乱し、様々な自律神経失調症状が現れてくるわけです。このように、更年期は長年出ていた女性ホルモンの分泌が止まるという大きな体の環境の変化に、脳と卵巣が慣れるための期間ということもできます。
一方、閉経後にはエストロゲンの「欠乏」が原因で様々な症状や疾患が現れます。揺らぎによる症状は閉経前後に出現しやすいですが、欠乏による症状や病気は主に閉経後に現れてきます。代表的なものは、膣炎や性交痛、尿失禁、動脈硬化、高血圧、狭心症などの心臓疾患、骨量の低下、関節痛など。また、エストロゲンの欠乏と加齢などが相まって、歯周病や抜け毛、肌のシワやたるみなどの美容上の悩みも増えてきます。更年期以降は体調管理がますます重要になるというわけです。ちなみに、同様にエストロゲン量が大きく変化するために、思春期や妊娠期にも歯周病になりやすいので注意しましょう。
市販薬をうまく使って、頭痛や肩こりなどのつらい症状を早めに抑えながら、気になる症状が長く続く場合は、更年期以外の原因も見逃さないために、専門医の受診もお勧めします。
【第一三共ヘルスケアの該当製品】
更年期には、卵巣から分泌されるエストロゲン量が乱高下する“揺らぎ”のため、様々な症状が現れる。(監修:東京医科歯科大学 寺内公一先生)
エストロゲンが欠乏すると、高コレステロール血症や骨粗鬆症などの様々な疾患が現れる。(監修:東京医科歯科大学 寺内公一先生)
※1 Yasui T. et al. Maturitas Vol. 72, Issue3, 249-255, 2012
更年期症状には、のぼせやほてり、発汗などのホットフラッシュ、めまい、頭痛、肩こり、腰痛、手足のしびれ、疲れやすさ、睡眠障害、憂うつ、緊張、やる気の低下、物忘れなど、実に多彩な症状があります。症状の程度は個人差が大きく、ほぼ毎日起こることもあれば、月に1回程度だけということも。女性労働協会が行った「働く女性の健康に関する実態調査」(2004年)では、更年期症状の疑いが強い人は、45歳以上の女性労働者の約34%で、その内訳は、45~50歳未満では25%、50~55歳未満では約38%、55歳以上では約45%と、年齢が上がるほど更年期症状の経験度合いが増えています※2。
また、複数の症状が重なって起こることもあれば、徐々に症状が変わっていく人もいます。中には生活に支障を来すほどつらい場合もあります。一方で、更年期の年代であってもさほどつらい症状に悩まずに過ごせる人も少なくありません。
「更年期症状は卵巣から分泌されるエストロゲン量の変動や減少だけでなく、加齢やご本人の性格、子育てや夫婦関係、介護、職場の人間関係などの心理社会的な要因も影響するため、個人差が非常に大きいものです。またPMS(月経前症候群)がひどかったり、産後うつ病を発症したりした方は、更年期症状が重くなりやすい傾向もあります」(寺内先生)。
東京医科歯科大学病院周産・女性診療科更年期外来の受診者345人を対象に更年期症状とその頻度を調べた※3。
※2 「働く女性の健康に関する実態調査」(女性労働協会)、2004年
※3 Terauchi M, et al. Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine. Volume 2014, Article ID 593560, 8 pages
これまで説明したように、更年期症状が現れるかどうか、現れた場合どのような症状なのか、そしてその程度は人により違います。けれども、もし、つらい症状や気になる体調の変化があれば、一人で悩まず、医師に相談すると安心です。受診すべきかどうか迷う場合は、下の「簡易更年期指数(SMI)」※4でチェックしてみるといいでしょう。50点以上の場合は婦人科の受診が推奨されています。
なお、婦人科では問診や内診、血液検査などを行い、更年期かどうかを総合的に判断します。血液検査ではエストロゲン値(E2)やFSH値などを測定します。ホルモンの値を測定すればすぐに更年期かどうかわかると思っている方も多いようですが、実はそう簡単ではありません。ホルモン値は常に変動していますから1回の検査では診断が難しく、2回以上の検査が一般的です。そのため、ホルモン値だけでなく、自覚症状や子宮や卵巣の様子など、複数の情報から更年期に入っているかどうかを判断するわけです。
各症状の程度の点数を加算して、更年期症状のレベルを確認します。症状の程度は、次の通りです。強:日常生活に差し障りがあるほどつらい、中:我慢できなくはないが、なんとかしたい、弱:症状はあるが、我慢できる程度、無:ほとんど感じたことがない
更年期症状に対する治療の2本柱は、「ホルモン補充療法(HRT)」と「漢方治療」で、両者を一緒に用いることも少なくありません。また、うつ症状がひどい場合は抗うつ薬を用いることもあります。
「HRT」は、減少したエストロゲンを補う治療法です。補充するエストロゲンの量は、月経困難症治療や避妊に使う低用量ピルに含まれる量よりもかなり少ないですが、更年期症状の改善に効果を発揮します。特にホットフラッシュに切れ味よく効き、腟萎縮、性交痛の改善にも効果的です。また、閉経時には急激に骨量が減るため、その後の骨粗鬆症による骨折が心配されますが、エストロゲンを補うことでこの骨量減少を抑えられるので、更年期症状を抑えながら骨粗鬆症予防になる利点があります。
女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道副院長の高尾美穂先生は次のように話します。「更年期には中途覚醒が増えて睡眠の質が低下する方が多いですが、これには睡眠中に起こるホットフラッシュが原因になっていることがあります。HRTでホットフラッシュが改善すると、中途覚醒も減って睡眠の質が良くなり、十分な睡眠がとれると気分の落ち込みなどのメンタル面の不調も改善する、というように、いくつかの症状が連動して良い方向に向かう可能性もあります。誰もが経験する更年期症状だから、と我慢する方もいらっしゃいますが、婦人科で相談をしてほしいですね」。
参考:女性はホルモンのゆらぎが眠りを妨げることも(睡眠コラム4)
なお、更年期症状とよく似た症状を呈する他の病気もありますから、注意が必要です。例えば、月経異常、物忘れ、だるさや倦怠感、ホットフラッシュ、冷えなどは甲状腺機能亢進症や低下症などの甲状腺の病気、指のこわばりは関節リウマチ、気分の落ち込みはうつ病、不正出血は子宮がんの可能性もあります。
「更年期だから」と自己判断せず、まず医療機関を受診してしかるべき検査などを受け、こうした病気のせいで更年期のような症状が出ているのではないことを確認しましょう。
「漢方治療」は、なんとなくつらいという“不定愁訴”に対してよく用いられます。一つの漢方薬で複数の症状を同時に改善することが期待できますから、心身の不調が重なる更年期症状には特に有用です。漢方薬はその人の体質に応じて選択されますが、よく使われているのは“婦人科3大処方”とも呼ばれる「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」「加味逍遙散(かみしょうようさん)」「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」です。これらの漢方薬は市販もされていますから、セルフケアとして用いることもできます。「3カ月程度飲んでみて、その漢方薬が自分に合っているか、効果があるかを判断するといいでしょう。改善しない場合は、医療機関の受診を」と寺内先生はアドバイスします。
漢方のほかにも更年期に着目した成分があります。例えば、エストロゲンに似た作用があるといわれている「大豆イソフラボン※5」や、大豆イソフラボンが腸内細菌に分解されてできる「エクオール※6」、ブドウの種子から抽出される「ブドウ種子ポリフェノール※7」などを含有しているものが注目され、更年期症状に着目した研究などもなされています。
※4 小山嵩夫、産婦人科治療 2003; 87, 266-270
※5 Taku K, et al. : Menopause 2012; 19 : 776-790 PMID : 22433977(I)
※6 Aso T, et al. : J Womens Health (Larchmt)2012; 21 : 92-100 PMID : 21992596(I)
※7 Terauchi M, et al. : Menopause 2014; 21 : 990-996 PMID : 24518152(I)
食事でも豆腐や納豆などの大豆製品を積極的にとって、大豆イソフラボンを補うのもお勧めです。「食事や運動、睡眠などに気をつけて生活習慣を整えることは、更年期の様々な不調を改善する最大のポイントです」と高尾先生は強調します。「不規則で不健康な生活習慣では、どんな治療を受けても根本的な解決は期待できません。朝食を抜いたり、ランチは菓子パンだけだったりということはありませんか? 糖質、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミン・ミネラルをバランスよく補う食事をきちんと3食とって、ウォーキングやヨガ、筋トレといった運動も習慣化しましょう。何を食べ、どう体を動かし、どう眠るか、今実践していることのすべてが20年後、30年後の自分を決めます。不調を我慢し続けるのは、あまりにもったいない。できることがあれば前向きにトライし、医療の助けも借りて、“我慢しない自分”で更年期を過ごしていただきたいですね」と高尾先生は話します。
(監修:女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道副院長 高尾美穂先生)
また、孤軍奮闘はストレスのもと。家族やパートナー、友人、同僚など周囲の人たちにもつらさを伝え、相談して、一人で抱え込みすぎないようにしましょう。更年期は女性ホルモンの“大きな揺らぎ”に翻弄される時期ですが、やがて必ず終わりが来ます。周囲の人たちもそのことを理解し、つらいときには共感をもって寄り添い、早めに受診を勧めましょう。