女性ホルモンと上手に付き合いたい「性成熟期(19~44歳)」
2021.12.24 更新
女性ホルモンの分泌が安定し、分泌量も増加する時期を「性成熟期」といいます。10代後半~40代前半ごろまでの性成熟期は、思春期には不安定になりがちだった月経周期も整い、自分のリズムをつかんで過ごしやすくなってきます。また、妊娠・出産を経験する人が増える時期でもあります。
ただその一方で、女性ホルモンが影響して起こる不調や病気のリスクが高まり、つらい症状に悩む女性も多くなります。症状がある人は放置せず、医療機関の受診など、しっかり対処することが大切です。
月経に伴う不調の代表として挙げられるのが「月経前症候群(PMS)」と「月経痛」を含む「月経困難症」です。これらの症状(月経随伴症状)に苦しむ女性は多く、仕事などのパフォーマンス低下につながることも珍しくありません。実際、月経随伴症状による労働損失は年間約5000億円、またはそれ以上ともいわれています。
まずはPMSについて見ていきましょう。PMSでは、月経が始まる3~10日ほど前からむくみや乳房の張りなどの身体的症状や、イライラ、気分の落ち込みといった精神的な症状が現れます。これらの症状は月経が始まるとスーッと消えたり、軽くなったりするのが特徴です。
「PMSの主な原因は、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)の変動です。もともと女性ホルモンの揺らぎを感じやすい体質に、ストレスなどの要因が加わると症状が出やすくなると考えられます。PMSの症状が重い人は更年期症状も強くなりやすいという報告もあります※1」と東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科教授の寺内公一先生は話します。
なおPMSのうち、精神症状が主体で、かつ症状が重いものを、「月経前不快気分障害(PMDD)」といいます。月経前になると人が変わったように情緒不安定になったり、攻撃的になったりして、社会生活に支障をきたすことも少なくありません。
(監修:東京医科歯科大学大学院・寺内公一先生)
過去3回以上の連続した月経周期において、月経開始前3〜10日の間に上のような精神的・身体的症状が1つ以上出現し、月経が始まると症状は軽快、もしくは消失するならPMSかもしれません。また、☆に該当する場合は、PMSの重症型のPMDDである可能性があります。
PMSかどうかを知るには、症状と月経周期との間に関係性がありそうかを判断する必要があります。いつ、どんな症状が出て、どのくらいつらいのか、「症状日記」をつけましょう。自分のリズムがわかれば心構えができますし、気分転換をしたり、仕事などの大事な予定を調整したりして対処することもできます。それでも改善されない場合は、我慢せずに婦人科に相談を。漢方薬やホルモン剤などの治療が受けられます。PMDDに対しては、抗うつ薬が用いられることもあります。
※1 Obstet Gynecol; 103, 960-966, 2004
月経がある女性の7割以上が経験しているといわれる「生理痛(月経痛)」。月経痛とは、月経時に起こる下腹部の痛みのことです。月経痛が辛く、日常生活などに支障をきたす場合を「月経困難症」といいます。
月経困難症は月経痛だけでなく、腰痛や腹部膨満感、吐き気、頭痛、疲労・脱力感、食欲不振、イライラ、下痢などの症状も伴います。また、月経困難症には、子宮内膜症などが原因の「器質性月経困難症」と、特定の病気が原因ではない「機能性月経困難症」があります。
セルフケアとして鎮痛薬や漢方薬を使うことで症状が軽減することがありますが、改善が見られない場合や原因が気になる場合には医療機関での治療も視野に入れましょう。
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「月経痛がひどくて鎮痛薬を飲んでいる人も多いでしょう。痛みをコントロールすることは大切です。ただし、『誰もが経験する当たり前の痛み』と我慢せずに、少なくとも一度は婦人科を受診して、異常がないかどうか調べてもらうようにしてください。ご自分で月経痛がつらければ、それは程度に関係なく『月経困難症』として治療の対象になります。月経困難症の方は、既に子宮内膜症などの病気が起こっていることが原因で月経痛がひどくなっている場合もあると思いますが、そうでなくても将来、子宮内膜症などの病気にかかりやすいこともわかっています※2。月経は決して『痛いのが当たり前』ではないのです。また、子宮内膜症があると、不妊のリスクが上がったり※3、卵巣がんになるリスクも上がる※4という報告があるので、注意が必要ですから、『このくらいの痛さで受診していいのかしら?』などとためらわずに、つらい人は受診してみてください」と東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座准教授の甲賀かをり先生は話します。
医療機関での治療には鎮痛薬や低用量ピル、漢方薬などの服用のほか、黄体ホルモンを持続的に放出する器具を子宮内に装着する方法があります。
月経直前~月経時に下腹部痛や腰痛、頭痛などで
(監修:東京大学・甲賀かをり先生)
心当たりのある人は一度婦人科の受診を
※2 Treloar SA, et al : Am J Obstet Gynecol. 2010; 202(6) : 534. e1-6
※3 Hum Reprod. 2016; 31(7) : 1475-1482
※4 Int J Gynecol Cancer. 2007; 17(1) : 37-43
ここまではPMS、月経痛・月経困難症といった月経に伴って起こるつらい症状について紹介してきました。このほかにも、性成熟期には、女性ホルモンの影響で発症する病気も増えてきます。
「性成熟期に気をつけたい女性ホルモンに関わる病気の代表は子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症などです。実は、現代女性はライフスタイルの多様化による晩婚化や晩産化などによって、月経回数がかつてないほど多くなりました。それに伴い、こうした病気を発症する人が増えているのです。そして性成熟期は、病気自体も進行していく時期。例えば、子宮内膜症は妊娠時のトラブルや不妊、卵巣がん、さらには狭心症や脳卒中などの心血管系疾患の発症リスクにつながるという報告もあります※5。きちんと診断をつけて早く治療を始めることが重要です。なにより治療をすればつらさも軽減します」と甲賀先生。
晩婚化や晩産化、少産化など、女性のライフスタイルが変化した結果、現代女性が生涯に経験する月経回数は昔の女性に比べ10倍多くなったとの報告もあります※6。月経回数が大幅に増えたことで、月経困難症や子宮内膜症になるリスクも増加。子宮内膜症は、不妊や産科合併症、卵巣がん、心血管系疾患を発症するリスクが高いとの報告もあります。(図監修:東京大学・甲賀かをり先生)
では、女性ホルモンに関わる主な病気の特徴と対処法を見てみましょう。
これら3つの病気は、自身の健康や日常生活への困難に関わるだけでなく、不妊の原因になることもあります。早い段階で検査を行い、医師と一緒に主体的に治療方法を検討し取り組むことが大切です。
※5 Circ Cardiovasc Qual Outcomes. 2016; 9(3) : 257-264
※6 Hilary O. D. Critchley, et al : Am J Obstet Gynecol 2020; 624-664
※7 「子宮内膜症Fact Note」日本子宮内膜症啓発会議(JECIE)
※8 「女性医学ガイドブック 思春期・性成熟期編2016年度版」
女性ホルモンに関わる病気では、ホルモン剤の「低用量ピル」がよく用いられます。実はこれには“OC(Oral Contraceptives)”と“LEP(Low dose Estrogen Progestin)”の2種類があるのをご存知でしょうか。OCは経口避妊薬で、LEPは「低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬」のこと。実はこれらは同じ作用の薬なのですが、使用目的が異なります。
「OCは避妊目的で使うため健康保険が利きませんが、LEPは月経困難症や子宮内膜症などの治療に用いるので健康保険が利きます。どちらも排卵を一時的に抑えるので、避妊効果もありかつ月経痛などの改善効果もあります。OCは避妊用ピル、LEPは治療用ピルというふうに理解するとわかりやすいですね」(甲賀先生)。
また、「2つの違いがどうであれ、『ピルを飲むことは特別なこと』だと考える人がまだまだ少なくないのも事実です。周囲の方がこうした考えをお持ちの場合には、女性の健康のために必要な薬であるという正しい知識を得てもらうことが大切です。月経回数増加による卵巣や子宮への負担が高まり、社会的にも忙しい現代女性は、『低用量ピル』を生活に取り入れることでQOL向上につながる場合もあります」と甲賀先生。
「まず婦人科で気軽に相談を」という甲賀先生の言葉は、当事者の女性だけではなく、周りで気づかう家族に向けても有用なアドバイスとなります。
これまで見てきた通り、月経の状態は、いわば健康のバロメーター。月経痛だけでなく、月経不順にも気をつけたいものです。月経周期が乱れたり、月経が止まったりするような場合は、過度なダイエットやストレス、睡眠不足、疲労などが影響しているかもしれません。その場合にはぜひ生活の見直しを。もちろん、それでも改善しない場合は必ず婦人科を受診しましょう。月経不順の原因の一つには、卵胞が十分に育たないために排卵が起こらない「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」もあります。これは不妊原因にもなる病気です。
また両頬骨に沿って左右対称性にできやすい「肝斑(かんぱん)」という薄茶色のシミも、月経不順などがきっかけでできることがあります。女性ホルモンはいろいろな体調の変化に影響を及ぼしているのですね。肝斑ができたときは、トラネキサム酸の内服薬で改善することができますが、シミ対策に合わせて、女性ホルモンのバランスが乱れている影響が他にないか、自分の体調と向き合うことも大切かもしれません。
このように、女性ホルモンは、女性を助けてくれる面と不調を引き起こす面をあわせ持つため、性成熟期はその恩恵を最大限に受けていきいき過ごしつつ、同時に体が発するサインにも注意を払い、未来の自分にツケやリスクを押し付けることにならないよう気をつけましょう。つらい症状を「女性だから」と受け止めてがまんするのではなく、少しでも気になることがあれば婦人科に相談して、ご自身の状況や必要な対処を知ることが重要です。