女性ホルモンの増加で体が劇的に変化する「思春期(8~18歳)」
2022.02.28 更新
子どもから大人へと成長していく移行期間を「思春期」といいます。多くは8~9歳から女性ホルモンのエストロゲンが徐々に分泌され始め、体が大きく変化します。約40年にわたる女性ホルモンとのお付き合いの始まりです。ただ、この時期は成長の途上にあり、月経周期が不安定だったり、月経痛が重かったり、心身の負担が大きくなりがちです。まさに女性ホルモンの“大波”に揺さぶられる時期。周囲の大人たちが必要な助言や手助けをしながら、成長を温かく見守ることが重要です。
「思春期」とは、第2次性徴の出現から初経を経て月経周期が確立するまでの時期で、年齢的には8~9歳から17~18歳までの約10年間を指します。この期間は、子どもが成長し大人になっていく過程で、心身ともに変化する時期で、女の子の場合、妊娠・出産が可能な大人の女性の体へと変わります。この変化は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用によるものです。
「思春期になると卵巣を刺激するホルモンが脳から分泌され、それを受けてエストロゲンの分泌量がだんだんと増えていきます。エストロゲンは血流に乗って体のいろいろな部分に働きかけ、その結果、乳房がふくらむ、陰毛やわき毛が生える、皮下脂肪がついて丸みを帯びた体つきになる、初経が起こるなど、体に劇的な変化が起こります」と、よしかた産婦人科分院綱島女性クリニック院長の粒来拓先生は説明します。
参考:エストロゲンが描く“一生の波”がもたらす女性の成熟と老化
初めての月経は「初経」と呼ばれ、平均で12歳ごろに訪れます。もちろん個人差があり、小学生で始まる場合もあれば、高校生になってようやく始まる場合もあります。
注意したいのは、15歳以上になっても初経が来ない場合です。日本産科婦人科学会では従来、18歳になっても初経が来ないことを「原発性無月経」と定義していましたが、2018年に用語改訂を行い、「15歳以上18歳未満で初経の発来していないもの」を「初経遅延」と定めました※1。
「月経は、単なる子宮からの出血という現象ではなく、健康的なホルモン状態のサインです。つまり、初経が始まらないということは、エストロゲンが十分に分泌されていないことを意味します。エストロゲンは前述の通り、女性の性成熟にとって非常に重要な役割を担っているとともに、骨量を増やしたり、将来の生活習慣病のリスクを下げたりするなど、様々な役割を担っています。月経が来ない原因を考え、必要があれば治療も考えなくてはいけません。しかし、そのような対策の開始が18歳になってからでは遅いということで、15歳以上が初経遅延と定義されたわけです。
親御さんにはお子さんの初経年齢に注意していただき、もし中学校を卒業した段階でも初経が来ないようなら、婦人科での相談を検討してください」と粒来先生は助言します。
初経の初来には様々な要因が関与しますが、その一つに体脂肪率が関係していることがわかっています。脂肪細胞から分泌されるホルモンが脳に働いて、卵巣からのエストロゲン分泌が促されるからです。このため、やせていると初経が遅くなりがちだといわれています。
※1 産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版(2018年)
思春期の月経は、初経から数年間は周期が乱れがちで、毎月規則的に月経がやって来るケースはむしろ少数派です。正常な月経周期は25~38日とされていますが、24日以内に来る「頻発月経」や39日以上来ない「稀発月経」になるケースも珍しくありません。また、月経持続期間も3~7日が目安とされていますが、8日以上ダラダラ出血し続けることもあります。一方で、なかなか次の月経が来ないと思っていたら、突然多量の出血があり、貧血を起こし倒れたりすることもあります。
「初経が来ることと月経周期が確立することはイコールではなく、初経発来後数年は未熟さゆえに無排卵でくる月経も多いとされています。月経不順を心配して相談される親御さんも多いですが、ほとんどの場合、成長とともに自然と改善していくことが多く、思春期の特性の一つとして過度に不安にならなくてもよいことを伝えるようにしています」と粒来先生は話します。
ただし、「いったん周期的になった月経が止まってしまう場合には注意が必要です」と粒来先生は警鐘を鳴らします。月経が止まる原因は様々ですが、中でも心配なのが過度なダイエットによる体重減少だといいます。
「体重が急激に減ると、月経は簡単に止まってしまいます。脳が飢餓状態に陥ったと判断して、卵巣からのエストロゲン分泌を休ませてしまうためです。月経の意義は排卵とその先にある妊娠といえますが、脳が命を授かる余裕はないと判断して省エネモードになるわけです。この影響を最も強く受けるのが、骨の成長。骨量はエストロゲンの分泌に連動して思春期にグンと増え、18歳ごろに最大量に達します※2。その後は横ばいになりますから、思春期にどれだけ骨量の貯金ができるかが、その後の人生での骨の健康を左右するのです。思春期は体重のことを気にしてダイエットをする子も少なくありません。けれども過度なダイエットで月経が止まると骨量の低下を招き、将来、骨粗鬆症になるリスクも高くなるので注意が必要です。もしダイエットをきっかけに月経が3カ月以上来ないときは、早めに婦人科を受診してほしいです」と粒来先生は話します。
骨量が最大になる20歳までに骨量を増やしておくと、閉経後に骨粗鬆症になりにくくなる。(出典:日本骨粗鬆症学会 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版より)
※2 J Bone Miner Metab. 2009; 27 : 698-704
月経の期間は以下のように分類されています。
月経周期とは、月経の開始日から次の月経開始の前日までの期間を指します。思春期には多少のずれがあり、周期が一定でないことも珍しくありません。
思春期には、強い月経痛で日常生活に支障を来す「月経困難症」も多く見られます。そもそも毎月、月経が起こるのは、妊娠が成立しなかった結果。妊娠準備のために厚くなった子宮内膜が、妊娠が成立しなかった結果としてはがれて、血液と一緒に体外に出るのが月経です。
月経時には子宮内膜から分泌されるプロスタグランジンという痛み物質が子宮の筋肉を収縮させて、はがれた子宮内膜を体外へと押し出します。ところが、思春期には子宮の出口が狭いなど子宮自体が未熟なため、はがれた内膜が出にくく、それに対応して子宮が過剰に収縮して子宮内膜を押し出そうとします。その結果、痛みがひどくなるのです。
女性のための統合ヘルスクリニック イーク表参道副院長の高尾美穂先生は次のように話します。
「思春期の月経困難症は、原因となる病気が見当たらない『機能性月経困難症』がほとんどです。ただし、月経痛が重い状態が続くと、将来、子宮内膜症にかかりやすいことがわかっています※3。また子宮内膜症があると不妊のリスクが上がったり※4、卵巣がんになるリスクも上がる※5ことがわかっています。重い月経痛(月経困難症)が、お子さんのその後の健康や人生にも大きく関わってくるという事実を、親御さんにはぜひ知っておいていただきたいと思います。
親御さん世代は『月経痛は我慢するもの』と考えがちですが、月経に対する常識は変わりつつあります。月経痛は決して我慢するものでも、痛いのが当たり前のものでもなく、しかるべき治療が大切です。親御さんには、お子さんと一緒に改めて月経のことを学んでいただけたらと思います」。
参考:月経の痛みを我慢しない!生理痛(月経痛)は将来の病気のリスクにも
月経痛に対しては、セルフケアや日常生活での注意も大切です。お腹や腰回りを温める、湯船にゆっくりと浸かる、軽いストレッチをするなどして、血行をよくしましょう。また、ストレスをためないことも大事です。「ストレスが原因で月経痛が重くなったり、止まったりすることもあります。勉強や部活などで過度なストレスがたまっていないか、親御さんにはお子さんの様子を日頃から気にかけておいてほしいですね。朝なかなか起きられなかったり、起きても元気がなかったりするようなときは要注意です」と高尾先生は話します。
月経痛には鎮痛薬を上手に使うことで症状が和らぐことがあります。「使い方のコツは痛みがひどくなる前に早目に飲むこと」だと、粒来先生は話します。
「鎮痛薬は“痛み止め”というよりは“痛み成分の合成阻害剤”です。痛み成分が体の中で合成されきってからでは効果を十分に得られません。普段から鎮痛薬を持参しておき、痛みの予兆を感じたら、すぐに内服するように患者さんには説明しています。
また、毎回、月経痛がひどい方は月経開始と同時に飲んでもかまわないと説明しています。飲むのが遅れると、痛み成分が体内でどんどん合成されて薬が効きにくくなり、結果として何度も痛み止めを服用して使用量が多くなることにつながるからです」。
市販の鎮痛薬には成人(15歳以上)用と小児用があるので注意が必要です。15歳未満の小児が飲めるのはアセトアミノフェンやイソプロピルアンチピリン(IPA)という成分のもので、配合量にも制限があります。ロキソプロフェンやイブプロフェンなどが入った“大人用”の薬を飲めるのは15歳以上です。成人も小児も飲める薬を常備している場合は、記載された用量を毎回確認し、必ず守るようにしましょう。
【第一三共ヘルスケアの該当製品】
服用可能年齢 | 製品 |
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15歳以上 |
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8歳以上 (8~14歳は1/2量) |
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市販の鎮痛薬やセルフケアで改善しない場合や、ほかの原因があるかどうかが心配な場合は、医療機関での受診も選択肢に入れたいものです。「思春期のお子さんでは、内診台に上げられてしまうのではないかということが気になって、婦人科での相談にハードルがあると思われている親御さんもいらっしゃると思います。必要な場合は、問診時に素直にその旨を伝えて確認いただくといいでしょう。
思春期のお子さんの場合、どうしても必要がある特殊な場合以外には、原則として内診台で診察するようなことはしません」と粒来先生。
月経痛の治療には、低用量ピルなどのホルモン剤、子宮の過度な収縮を和らげる鎮痙剤、血液の巡りをよくする漢方薬などが用いられます。
なお、受験やスポーツ大会などの行事と月経が重ならないよう、月経日を調整することも可能です。「月経に関連した症状が重い場合は、直前に月経日を移動させるのは副作用によるデメリットもあるので、受験や大会の数カ月以上前から低用量ピルで月経をコントロールしておくのが理想的です。
月経痛が軽くなり、女性ホルモンの波によるイライラもなくなるので、本番の日だけでなく、日ごろの勉強やスポーツのパフォーマンスも上がる可能性があります。月経痛や月経時期の調整は、十分な実力を発揮するための力になります」と粒来先生は話します。
思春期は更年期と並び、女性の一生の中で最も女性ホルモンの波を受けやすい時期です(更年期についてはこちら)。
月経不順や月経痛だけでなく、月経前にイライラやむくみ、頭痛などの症状が現れる「PMS(月経前症候群)」や、感情のコントロールが難しくなる「月経前不快気分障害(PMDD)」も起こりやすく、精神的にも不安定になりがちです。体の変化への戸惑い、月経痛のつらさ、月経に連動して起こる心身の不調……思春期には初めてのことがたくさん起こります。
だからこそ、親御さんをはじめとした周囲の大人がそのつらさを十分に理解し、必要に応じて手助けしながら成長を温かく見守ることがとても重要です。粒来先生は「月経の悩みについては、ぜひ我々婦人科医も味方につけてほしい」と話します。専門家の力も借りて、思春期ならではの女性ホルモンの大波を無事に乗り切りたいものです。
上記のうち、一つでも当てはまるものがあれば、受診を検討しましょう。(監修:よしかた産婦人科分院綱島女性クリニック院長・粒来拓先生)
※3 Treloar SA, et al. Am J Obstet Gynecol. 2010; 202(6) : 534. e1-6
※4 Hum Reprod. 2016; 31(7) : 1475-1482
※5 Int J Gynecol Cancer. 2007; 17(1) : 37-43
思春期にできやすいニキビ(尋常性ざ瘡)には、女性ホルモンの一つであるプロゲステロン(黄体ホルモン)が関係しているといわれます。プロゲステロンには皮脂の分泌を促す作用があるため、過剰な皮脂が毛穴に詰まってニキビができやすくなるのです。プロゲステロンは排卵後から月経前にかけて分泌量が増えますから、この時期はニキビにご用心。バランスのよい食事を心がける、十分な睡眠をとる、ストレスをためないなど規則正しい生活習慣と毎日のスキンケアで予防したいものです。
【第一三共ヘルスケアの該当製品】