市販の解熱鎮痛薬を賢く活用しよう
2022.12.28 更新
薬局やドラッグストアにはさまざまな解熱鎮痛薬が並んでいます。パッケージには、発熱、頭痛、生理痛(月経痛)、歯痛、などの文字。それを見て、「月経痛に効くとあるけれど、発熱にも効くの?」「発熱にと書いてあるけれど、頭痛は?」などと思ったことはないでしょうか。また、「ロキソプロフェン」「イブプロフェン」「アセトアミノフェン」など成分もさまざま。各成分の特徴を知ることで、自分に合ったものを見つけやすくなるかもしれません。
ここでは、解熱鎮痛薬の種類や選び方、上手な使い方を紹介します。
一口に解熱鎮痛薬といっても、いろいろな種類があります。大きく分けると「ステロイド性抗炎症薬」と「非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:NSAIDs)」。このうち市販の解熱鎮痛薬に使われているのは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs=エヌセイズ)です。ステロイド性抗炎症薬は抗炎症作用が強力で、内服薬としてのステロイド剤は医療用でのみ用いられています。
前編でも紹介したように、「発熱や痛みは、体内で作られるプロスタグランジンという生体物質によって引き起こされます。NSAIDsには、このプロスタグランジンが作られる過程で関与する酵素(シクロオキシゲナーゼ)の作用を阻害する働きがあります。プロスタグランジンの生成を抑える結果、熱を下げ、炎症を鎮め、痛みを改善します」と薬剤師の三上彰貴子先生は説明します。
つまり、解熱鎮痛薬はプロスタグランジンの生成を抑制することで、解熱作用、抗炎症・鎮痛作用を発揮するわけです。
NSAIDsの中にもいろいろな成分があります。ロキソプロフェンやアスピリンなどの名前を耳にしたことがあるのではないでしょうか。
三上先生によると「NSAIDsには、鎮痛作用が強く日本では2011年に医療用医薬品から市販薬に転用されるようになった『ロキソプロフェン』、解熱鎮痛薬としての歴史が非常に長い『アスピリン』、日本では1985年に医療用医薬品から転用され、解熱鎮痛薬だけでなく総合感冒薬にも配合されている『イブプロフェン』、他の解熱鎮痛成分と一緒に総合感冒薬などに用いられることが多い『エテンザミド』や『イソプロピルアンチピリン(IPA)』などがあります。
また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で話題になった『アセトアミノフェン』は、脳に直接作用して痛みや熱を抑える作用があり、NSAIDsと同様にステロイドではありませんが、日本ペインクリニック学会ではNSAIDsとは異なる分類になっています」。
覚えておきたいのは、これらの成分のうち15歳未満でも使えるのは、アセトアミノフェンとイソプロピルアンチピリンのみだということです。また子どもが使える成分でも、配合量や他の配合成分によって使える年齢が変わることもあるので、よく確認してください。
「アセトアミノフェンは、抗炎症作用はマイルドですが、安全性が高いとされています。ただし、肝臓が悪い方は肝機能を悪化させるおそれがありますから使用を控えてください。
安全性が高い=誰でも安全に使えることを保証するものではありませんので、使用上の注意を読んでからご使用ください。
またイソプロピルアンチピリンはピリン系の薬剤です。人によっては“ピリン疹”と呼ばれる薬疹が出ることがあります。以前にこの薬剤を使用してピリン疹が出たことのある方は必ず薬剤師に相談をして、別の薬を選ぶようにしてください」と三上先生。
成分名 | 子どもの服用 | 特記事項 |
---|---|---|
アセトアミノフェン |
|
比較的安全な薬だが、肝障害に注意し、脂肪肝など肝障害がある方にはおすすめしない。胃腸障害が少ない |
イソプロピルアンチピリン (IPA) |
|
ピリン系。発疹(ピリン疹)に注意 |
ロキソプロフェン | × | 15歳未満は禁忌。胃腸障害が比較的少ない |
イブプロフェン | × | 15歳未満は禁忌。胃腸障害が比較的少ない |
アスピリン (アセチルサリチル酸) |
× | 15歳未満は禁忌。アスピリン喘息がある人は注意。胃腸障害に注意 |
エテンザミド | × | 15歳未満は禁忌。アスピリン喘息がある人は注意 |
※同じ成分、同じ用量が配合されていても、市販薬ごとに子どもが服用できる年齢が異なるので、説明書きを読んだ上で服用してください。また、喘息などの既往があり、市販の解熱鎮痛薬の服用が初めての人は、一度医師や薬剤師に相談してください。
(監修:薬剤師・三上彰貴子先生)
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解熱・鎮痛効果を発揮するIPA(イソプロピルアンチピリン)を配合。1/2錠なら8歳から服用可能。
NSAIDsを配合した解熱鎮痛薬の中から、自分に合ったものを選ぶコツはあるでしょうか。
「最近の解熱鎮痛薬は、製剤としていろいろな工夫が凝らされていますから、1つの成分だけの効き目を考えるよりも、むしろさまざまな成分を配合した“製剤”としてどんな特長があるかを判断材料にするとよいでしょう。
例えば、服用すると胃痛や胃もたれなどの副作用が出やすい方は、胃を守る成分が入ったものを、頭痛や月経痛の際にイライラしやすいという方は、鎮静成分がプラスされたものを、また服用時に眠気が出やすいという方は、逆に鎮静成分は含まないもので、カフェインが配合されたものを選ぶといった選択です。
薬剤師や登録販売者に相談をして、ご自身に合った解熱鎮痛薬を選んでいただきたいと思います。
もちろん、以前から使っているお薬で相性のよいものがあれば、それを使うのもおすすめです」と三上先生はアドバイスします。
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頭痛や月経痛、歯痛、けがによる痛み…。つらい痛みは早く和らげたいもの。まずは多くの人を悩ます痛みの代表、頭痛の場合をご紹介します。
頭痛にもNSAIDsを配合した解熱鎮痛薬が頼りになります。特に市販の解熱鎮痛薬が効果的なのは、筋肉の緊張などが原因で起こる緊張型頭痛や、軽い片頭痛。
牧田産婦人科院長の牧田和也先生は、「女性の場合、片頭痛発作は月経前後に起こりやすく、女性ホルモンのバランスが崩れる更年期に頭痛が出やすくなる方が多いようです。解熱鎮痛薬を効かせるコツは、まだ痛みが軽いうちに服用することです」とアドバイスします。
三上先生も「早めにのむのが肝心。痛みの元になるプロスタグランジンや発痛物質のブラジキニンなどが体内でたくさん作られてしまってからでは痛みが治まるのに時間がかかることも。痛くなりそうだなと感じたときに飲めば薬の効果を感じやすくなると思います」と話します。
このように「まだ痛みが軽いうちに服用する」という大切な飲み方を、実はよく知らない方が多いようです。
第一三共ヘルスケアが行った、頭痛と月経痛に対してどのタイミングで解熱鎮痛薬を使用するかを尋ねたアンケート結果によると、「痛みを感じたら服用する」という人は頭痛で35%、月経痛で38%。一方、「痛みが強くなってきたら」「我慢できない痛みの時に」など、適切とはいえないタイミングで服用している人がいずれの場合も6割以上を占めていました。その理由として64.6%の人が「耐性がつき、本当に痛いときに効かなくなりそうだから」と回答していました。
「痛みを感じたら早めにのむ、これが解熱鎮痛薬を効かせるポイントだということをぜひ知っておいてください。用法用量を守って正しく服用すれば、効きにくくなるということはありません。」と牧田院長。
出典:「20代~50代男女約800名に聞く、頭痛・生理痛に関する調査」(第一三共ヘルスケア/2021年実施)
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なお、妊娠中の女性の頭痛は、病院で相談することをおすすめしますが、その際にはアセトアミノフェンがよく処方されます。
牧田先生は「他に漢方薬を使うこともあります。体が冷えて片頭痛のある方には呉茱萸湯(ごしゅうとう)、むくみやすい方の頭痛には五苓散(ごれいさん)、緊張型頭痛には釣藤散(ちょうさんとう)などが向いています」と話します。
症状の重い片頭痛や男性に多い群発頭痛は、一般に、市販の解熱鎮痛薬で対処するのではなく早めに医療機関を受診し、治療するのがよいでしょう。
また頭痛の場合、背後に深刻な病気が隠れていることもあります。
「いつもとは違う頭痛や、突然の激しい痛みの場合は、くも膜下出血や脳腫瘍、髄膜炎などの重い病気が原因のことがありますから、躊躇せずに一刻も早く医療機関へ。
またご高齢の方では、転倒して少しでも頭を打った場合には、しばらくしてから頭痛が出てくる慢性硬膜下血腫という病気もあります。特にワルファリンなどの血液をサラサラにするお薬を飲んでいる人は出血しやすく、転倒時の脳内出血のリスクが高くなるので気をつけてください」と三上先生は注意を促します。
解熱鎮痛薬の使い方の2つめは、女性の大きな悩みの1つ、月経について。子宮内膜から分泌されるプロスタグランジンの量が多いほど、子宮の収縮が強くなり、月経痛もひどくなります。NSAIDsを配合した解熱鎮痛薬は、このプロスタグランジンの生成を抑えて、月経痛を和らげる働きがあります。
牧田先生は、「月経痛を訴える患者さんにはNSAIDsの解熱鎮痛薬をよく処方します。婦人科では鎮痛作用の強いロキソプロフェンをまずお出しすることが多いですね。ロキソプロフェンは医療用と同じ配合量のものが市販薬にもなっています。もちろん、人によって薬との相性は異なりますから、ご自身に合った市販薬を選ぶといいでしょう」と話します。
解熱鎮痛薬は月経初日から3日目ごろまで用いる人が多いようです。使い方のコツや注意点はあるでしょうか。
「まずは使うタイミング。頭痛と同じように痛みがひどくなってから解熱鎮痛薬を飲んでもあまり効きませんから、痛くなったらすぐに飲むのがおすすめです。月経周期が決まっている人なら、初日に合わせて飲めば効き目もよく、結果として薬の服用量も抑えられます」と牧田先生はアドバイスします。
ただ、解熱鎮痛薬を飲んでも月経痛が治らない、月経のたびに4日以上服用する、だんだん効果が落ちてきて服用量が増えているといった場合は、市販薬に頼らず早めに婦人科を受診しましょう。
「月経痛の背後に子宮内膜症や子宮筋腫などの病気が隠れていることもあります。特に年齢が上がってから月経痛がだんだんひどくなったというケースは要注意です。痛みは我慢する必要はありません。早めに受診して治療を受けるようにしてください」と牧田先生。
参考:月経の痛みを我慢しない!生理痛(月経痛)は将来の病気のリスクにも(注意したい女性ホルモンが関連する不調や病気とは)
なお、15歳未満の場合はアセトアミノフェンを配合した解熱鎮痛薬が適応となります。「ただし、一般にアセトアミノフェンは発熱時の作用に比べ、鎮痛作用はあまり強くありませんから、毎月痛みに悩まされているようであれば婦人科を受診して相談してほしいですね。15歳未満の月経痛に対しては、漢方薬を選択することもあります」(牧田先生)
病院でよく使われるのは、「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」という漢方薬。筋肉の痙攣を鎮める作用があり、月経が始まる1週間ほど前から飲み始めると効果的だといいます。その他、体力があまりなく、体が冷えている人の月経痛には「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」、比較的体力のある人の月経痛には「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」なども使われます。
参考:生理痛(月経痛)を我慢しない。つらいときには婦人科の受診を(思春期特有の子宮の未熟さによる不調には家族のサポートも重要に)
頭痛がひどく、解熱鎮痛薬をのむ日数が増えたり、量が増えたり。痛みに対する不安から薬を予防的に飲んだりしていませんか?
頭痛がつらいからと解熱鎮痛薬を頻回に使っていると、かえって痛みに対して敏感になり、頭痛がひどくなってしまいます。これを「薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛、MOH)」といい、解熱鎮痛薬などの薬を1カ月に15日以上飲んでいる場合がこれに当たります。
「薬の量がどんどん増えていくのは非常に危険。1カ月に10日以上飲んでいる方は、この薬物乱用頭痛に移行する可能性が高いので注意が必要です。心当たりのある方は解熱鎮痛薬を飲むのをやめ、医療機関で治療を受けてください」と牧田先生。
できれば頭痛の専門外来を受診しましょう。
なお、歯痛やけがの痛みの場合も、漫然と解熱鎮痛薬を使い続けないことが大切です。数日間市販の解熱鎮痛薬を服用しても痛みが治まらない場合には、医療機関を受診しましょう。
解熱鎮痛薬を安全に、十分な効果を得られるように使うには、いくつかのポイントがあります。
一つは、前述したように、痛みが軽いうちに早めに使うこと。
また、市販薬のパッケージや説明書きには用法用量が書いてあるので、それを守って使うことも大切です。
痛みが続くからといって1カ月に10日以上使うのは避けてください。
それほどの痛みが続くなら、頭痛なら頭痛外来を、月経痛なら婦人科を、関節などの痛みならペインクリニックなどを受診してください。
また、「よく家族や知人が医療機関から処方された薬をもらって使ってもいいか聞かれますが、自己判断での他人の薬剤の服用や湿布薬などの使用は大変危険なことがありますし、違法行為になることもありますので、絶対やめましょう」と三上先生は注意を促します。
腰痛や肩こり、筋肉痛、関節痛、腱鞘炎、打撲、捻挫。
これらの痛みに使われる市販の貼り薬や塗り薬にも、NSAIDsが配合されています。主な成分は、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシン、フェルビナク、ケトプロフェンなどで、炎症を抑えて痛みを軽減します。飲み薬同様、痛みがあまりひどくならないうちに早めに使用するのがポイントです。
使う際の注意点について、三上先生はこう話します。
「まずは規定量を守って使うこと。外用薬とはいえ、用法・用量を超えて使うと胃腸障害などを起こすことがあります。また、ケトプロフェンには日光過敏症の副作用がありますから、湿布薬を貼ったところに日光が当たらないようにしましょう。湿布をはがした後も4週間ほどは、日に当てないように気をつける必要があります」
なお、外用薬を1週間ほど使っても痛みが治らない場合は使用を止め、医療機関を受診しましょう。
なお、腰痛や肩こり、筋肉痛、関節痛、腱鞘炎、打撲、捻挫などの症状には、一般的に貼る薬や塗り薬などの外用薬を使用するイメージが強いかもしれませんが、内服薬を使うことも可能です。
痛みの場合は早めに解熱鎮痛薬を使うことが基本ですが、発熱の場合、解熱鎮痛薬を飲むタイミングについては、状況に応じた判断が必要になります。というのも、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかったときに発熱するのは、体温が上がることで病原体の増殖を抑え、免疫の働きを高めようとする自然な防御反応だからです。解熱鎮痛薬で上がった体温を下げてしまうと、その防御反応を低下させてしまう可能性があるのです。
「(前編の通り)、発熱は感染から体を守る上で有益な反応ですから、少し熱が上がった程度でしたら解熱鎮痛薬を飲むのはおすすめできません。
もちろん、40℃を超えるほどの高熱なら下げる必要性が高まりますが、そこまでいかない場合は状況に応じて解熱鎮痛薬を使うかどうか判断するのがよいでしょう。例えば、子どもの場合は38℃を超えていても元気そうにしていることがよくあります。そんなときは無理に飲ませず、様子を見ていても大丈夫でしょう。
大人も含め、解熱剤の服用は『元気か、つらいか』で判断するのもひとつの目安です。ただし、年齢に関わらず、熱でぐったりしている、食欲がない、消耗が激しいといった場合は、解熱鎮痛薬を飲んで熱を下げたほうが楽になります。
特に高齢者や心臓や肺の持病がある方、認知症の方などは発熱によって病気が悪化する危険がありますから、早めに熱を下げたほうがいいでしょう」と三上先生は話します。
ちなみに、発熱時に使える漢方には、麻黄湯(まおうとう)や葛根湯(かっこんとう)もあります。
いずれも引き始めに飲むのがコツ。麻黄湯は、風邪の引き始めの高熱や悪寒、頭痛などに、葛根湯は風邪の引き始めの発熱や寒気、頭痛、肩こりなどに使います。
参考:市販薬は、風邪のステージと症状で選ぼう(風邪とインフルエンザの違いとは?症状の見分け方や市販の風邪薬を選ぶポイント)
【第一三共ヘルスケアの該当製品】
さむけ、発熱、ふしぶしが痛いかぜのひきはじめに
つらい熱や痛みは我慢せずに、解熱鎮痛薬を賢く活用して、生活の質(QOL)を上げるようにしたいものです。
なお、解熱鎮痛薬を数回使っても熱が下がらない場合や何日も熱が続く場合は、何か別の病気が隠れているかもしれません。そうした危険なサインは見逃さず、市販薬で改善が見られない時には早めに医療機関を受診しましょう。
前編では、発熱と痛みの原因を紹介しています。