症状
歯ぐきが下がる・痩せる
歯ぐきが下がる、痩せるとご自身が感じたり、家族や友人が言っていたりするのを聞いたことがある人は多いと思います。そして「痛くないし、歳のせいだ。よくあること。」と見過ごしている人も多いと思います。本当にそのままで良いのでしょうか?なぜそのようになるのか、また、歯ぐきの様子はどうなっているのでしょうか?
1.原因(こんなことは思い当たりませんか?)
- 歯間ブラシやフロスを毎日使っていない。
- 歯科医院の定期検診を受けていない。
- 生活習慣が不規則になりがち。
- 全身疾患がある。(糖尿病、骨粗鬆症、ホルモン異常など)
- 喫煙習慣がある。
- むし歯や歯周病、合わない被せ物や入れ歯がある。
- 歯ぎしり、くいしばり、かみしめがある。
- 強い力で歯磨きをする。
この項目いずれかひとつにでも当てはまる場合は歯ぐきが下がる・痩せるといった症状が起こるリスクがあります。
2.症状(そのサイン歯ぐきが下がっているからかも)
- 歯と歯の間に食べ物が詰まりやすい。
- 歯がしみる。
- 歯が浮いたように感じる。
- 咬むと歯が痛む。
- 歯並びが変わった気がする。
- 歯が長くなり、根っこがみえている。
- 歯がグラグラしている。
症状については、この項目のひとつに当てはまるからといって、必ずしも歯ぐきが下がり、痩せているわけではありません。症状によっては一時的だったり、症状が些細なもので気がつかなかったり、徐々に進行していて分からないことがあります。10代、20代から歯科の定期検診はもちろん、自分でお口の中を点検する習慣をつけておくと変化に気がつきやすいでしょう。そして高齢になるとお口の中の様子が見えにくかったり、感じにくくなったりすることがあります。かかりつけの歯科医院で定期検診を受けていると変化が分かりやすく、適切なアドバイスをうけることが出来ます。そして自覚症状がないから進行していないとも限らないのが、非常に注目すべき点です。
3.しくみ(下がってしまった歯ぐきの中はこうなっている)
下がってしまった歯ぐきの中はどうなっているのでしょうか?
歯ぐきが下がる原因には歯周病が大きく影響しています。歯周病菌は歯と歯ぐきのまわりや、歯と歯ぐきの隙間の中にたくさん存在します。そこで歯周病菌が毒素や酵素を出して、歯を支える組織を壊し、歯周ポケット(歯と歯ぐきの隙間)が深くなります。
すると歯ぐきの中に歯周病菌が入り込み始めます。そこには炎症を抑える細胞がいて菌の侵入を防ぎますが、防ぎきれなかった部分から更に歯ぐきの中に入り込み、菌から攻撃されて歯ぐきの一部の細胞は死んでしまいます。その死んだ細胞からも毒素が出されて、また炎症を抑える細胞が集まります。
ここから炎症を抑える細胞が、菌を攻撃したり排除したりする抗体を作ります。さらに炎症が進むと過剰なサイトカインという物質が作られて、そのせいで骨を壊す働きが活性化してしまいます。これが歯を支える顎の骨が壊されるしくみです。
顎の骨が壊されると、骨の厚みが薄くなります。すると顎の骨の上に付いている歯ぐきが下がったり、痩せたりしていくのです。そしてこの壊された骨は、元の状態に戻ることはありません。歯周病以外の原因、全身疾患や歯ぎしりなどでも骨が壊されて歯ぐきが下がります。
つまり歯ぐきが下がる・痩せるのではなく、顎の骨が下がる・痩せる、ということです。
4.予防とケア
歯ぐきが下がらないようにするには、1番の原因である歯周病を予防することが重要です。
- フロスを使って歯と歯の間を磨く。
- 歯間ブラシを使って歯と歯ぐきの隙間を磨く。
フロスや歯間ブラシは歯の表面にピッタリと沿わせて使い、毎日欠かさず行うことが大切です。こまめに清掃することで、菌の成熟を抑え、歯周病菌が歯ぐきに侵入するのを防ぎましょう。
- 自分自身でお口の中を観察する習慣をつける。
- 歯科医院で定期検診を受ける。
歯ぐきが下がったなと感じたら、すでに歯を支える顎の骨は壊れ始めているかもしれません。進行の状態は歯科医院でレントゲン撮影すると分かります。かかりつけ歯科医院であれば、進行のスピードや変化も分かるでしょう。症状が出る前に予防をし、少しでも症状が軽いうちに適切な処置を受けましょう。
- 禁煙を心がける。
喫煙はニコチンの血管収縮作用によって歯ぐきの血流量を低下させ、酸素を運ぶ量も少なくなります。そのために歯周病が進行していても出血が少なく、炎症が感じにくいです。他にもメラニン色素が沈着して歯ぐきが変色し、ニコチンの影響で歯ぐきが硬くゴツゴツして炎症が見えにくくなったりして歯周病の進行がわかりにくいです。
- 健康的な食事と生活を送る。
歯周病菌が歯ぐきの中に入り込み、炎症を起こして、それを防ぐ細胞が集まるのは体の免疫反応です。心も体も健康的であれば、炎症が起きても防ぐ力が備わっています。適度な運動、質の良い睡眠、バランスの良い食事、ストレスの発散を心がけましょう。
他にも、きれいな歯並びにして歯周病のリスクを軽減しておいたり、適切な圧力(100~200g) で歯を磨いたりすることも予防になります。
歯ぐきが下がる・痩せるとは身近な症状でありながら、本当は顎の骨が下がる・痩せているということで、しかも元に戻ることはありません。進行を止めたり、遅らせたりするには自分自身のホームケアと歯科医院での専門的なアプローチが必要です。
Drコメント
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角 祥太郎歯科医師
いつの時代も老化と共に人は生きる。歯ぐきも肌や髪と同じく生理的に衰える。
だからこそ病的に衰えることは避けたいですよね。
歯ぐきが「生理的に」ヤセるのと「病的に」ヤセるのは大きな違いです。
では、私達は何をしたらいいか?ズバリ、歯磨きで血が出ないかのチェックです。
生理的に歯ぐきがヤセているのか、出血と共に骨も一緒にヤセているのか、歯科医院で検査を行うとわかります。 -
宮下 裕志歯科医師
歯周病によって、歯を支えている骨が失われた後に歯ぐきは下がりますが、歯周病の治療を行い、
健康になっていく過程でも歯ぐきは下がってしまうのです。歯ぐきが下がらないようにするためには、
歯周病が歯肉炎程度か軽度のうちに、健康な歯ぐきにしておくことが大切です。 -
王 さき歯科医師
歯周病が原因で歯ぐきが下がった場合、多くのケースでは元に戻すことはできませんが、
病気の進行をコントロールすることで、これ以上の悪化を予防することが可能です。
また、不適切な歯磨きなど、歯周病以外の原因でも歯ぐきが下がることがあります。
原因に応じた治療や対策を行うだけでなく、歯科医院で適切なホームケアを学ぶことが大切です。