もしかしたらその不調・痛みは天気の変化の影響かも
2022.09.30 更新
雨が近づくと頭痛や関節痛がひどくなる、梅雨時は気持ちが沈みがちでだるい―ご自身でそうした不調を感じたり、家族や身近な人からそんな声を聞いたことはないでしょうか。気圧や温度、湿度など気候の変動に伴い起こる不調全般を「気象病」と総称します。
天気の変化がなぜさまざまな体調不良に結びつくのか、どのような症状が表れやすいのかをご紹介します。毎年「なんとなくつらい」と感じる時期がある人は、気象病の可能性があるかもしれません。
「気象病とは、気圧、温度、湿度などの変動によって起こる不調のことをいいます。特に、もともと頭痛や関節痛がある方などでは、その症状が悪化することも少なくありません」と愛知医科大学病院疼痛緩和外科・いたみセンターの佐藤純先生は話します。
2015年に愛知県の尾張旭市で20歳以上の住民2,628人(平均年齢57.7歳)を対象に愛知医科大学疼痛医学講座が行った調査では、3カ月以上続く慢性の痛み(片頭痛を除く)がある人が全体の39.3%を占めていました。
慢性的な痛みがある人のうち48.6%は「痛みは悪天候や悪天候が近づくときに悪化する」と答え、46.9%の人が「寒いときに痛みが悪化する」と回答しました。また、20~59歳の働いている人(1,221人)を対象にした調査では、年間平均9.6日も痛みで欠勤をしており、日常生活に支障が生じているケースがあることもわかりました※1。
また、京都大学が関節リウマチ患者のデータベースを用いて2,131人の患者を対象に行った調査では、関節の腫れと腫れた部分を押すと痛む「圧痛」の程度は気圧が低下するときに高くなり、特に3日前の気圧低下と最も関連することが報告されています※2。天気変化の前や最中だけでなく、その後に表れることもあるのです。
このように、「古傷がうずくから、もうすぐ雨が降る」などと古くからいわれてきましたが、そこには何らかの因果関係があることが徐々に明らかになってきました。
※1 PLoS One. 2015 Jun 15; 10(6) : e0129262.
※2 PLoS One. 2014 Jan 15; 9(1) : e85376.
気象と関連する痛みについては古くから注目されてきました。
関節痛がある人を対象にした1963年の米国の研究では、被験者に人工気象室内に15日間滞在してもらい、その間の気圧変化と湿度上昇による影響を調べた結果、それぞれ単独では痛みに変化はないものの、“気圧と湿度の両者が組み合わさると痛みが増強”しました※3。
「気象変化の影響を受けやすい慢性痛には、片頭痛、緊張型頭痛、関節リウマチ、変形性関節症、肩こり、腰痛、線維筋痛症などがあります。また、もともと気分が落ち込みやすかったり、だるくなりやすい、めまいやぜんそくなどの症状がある人も、気象変化によって症状が悪化しがちです」と、佐藤先生。
正木クリニック院長の正木初美先生も、「梅雨時や台風の時期には自律神経の調節がうまくいかず、不定愁訴を訴える患者さんが多く受診します。めまいやふらつき、むくみ、倦怠感、頭痛、関節痛を訴える方が多いです」と言います。
カナダで2017年に報告された研究では、11人の咀嚼筋(そしゃくきん)に痛みがある患者(平均年齢27.3歳)と、20人の片頭痛患者(平均年齢33.1歳)に14日間、1時間ごとに痛みの程度を記録してもらい、そのときの温度・気圧・湿度との関係を見たところ、咀嚼筋の痛みは気圧が下がるほど増強し、片頭痛では温度と気圧が上がると痛みが増すなど症状によって異なる影響が見られました※4。
「各人により、気圧が上がるときに痛むのか下がるときに痛むのかの違いもあるようです。気象病の症状があると、天気が変化するたびに痛みが繰り返し生じることで、痛みに対する不安が高まる人も少なくありません」(佐藤先生)
気象病は、悪天候の最中だけでなく、天気が変化する前後に起こることもあります。
例えば、岡山大学の研究グループは、口腔内で歯周病菌が優位になると悪化する歯周病と気象の関係についての研究を行いました。慢性歯周炎患者、約2万人を対象に調査。慢性歯周炎が急激に悪化するのは、「気圧変化」や「気温上昇」といった気象変化の1~3日後であることと報告しています※5。
「気圧や気温の変化が自律神経を介して口腔内の細菌叢(さいきんそう:さまざまな常在菌の集まり)に影響し、その結果、歯周病菌が優位になることで歯周病の悪化を招くと考えられます。天気の変化によりじんましんや皮疹などのかゆみを悪化させることもあります。このように、気象病の症状はその人がもともと持っている症状を悪化させるのも特徴なので、症状は多岐にわたるのです」(佐藤先生)
※3 AIBS Bulletin, Volume 13, Issue 3, June 1963, Pages 24-28.
※4 J Oral Rehabil. 2017 May; 44(5) : 333-339.
※5 Int J Environ Res Public Health. 2015 Aug 5 ; 12(8) : 9119-30.
季節の変わり目や天気が変化するときに、もともと持っている症状が悪化することはありませんか?
以下のチェックリストで該当するものが複数ある場合には、気象病のリスクが高いかもしれません。
(監修:愛知医科大学病院疼痛緩和外科・いたみセンター 佐藤純先生)
気圧、温度、湿度などの変化に対して体がうまく適応できないことによって症状が悪化するのが「気象病」です。
こうした気圧や温度、湿度の変化がなぜ不調につながるのでしょうか。
「私たちの体は自律神経のバランスによってその恒常性が保たれています。交感神経が体を活動モードにする一方、副交感神経がリラックスモードにすることで、そのバランスが保たれます。しかし、ストレスを強く感じる環境下に置かれたり、生活リズムが崩れている場合には自律神経のバランスが乱れやすくなり、気象の変化に敏感に反応しやすいのです。
また、気象の変化自体がストレスになり、自律神経のバランスを乱す原因にもなります。最近では以前よりも気候変動が大きくなっている影響もあり、気象病の症状で来院する患者さんは年々増えているという実感があります」と正木先生は解説します。
「中でも気圧は不調に大きく影響すると考えています」と佐藤先生。
佐藤先生は「耳の中にある内耳が気圧の変化を敏感に感知し、それが脳に伝わることで自律神経のアンバランスを引き起こすのではないかという仮説を元に研究を進めています」と説明します。
耳は外側から内側に向かって外耳、中耳、内耳に分けられます。最も内側にある内耳には、聴覚に関わる「蝸牛(かぎゅう)」とともに、頭の位置や動きの情報を集め、体のバランスを維持する「前庭」「三半規管」があります。
「内耳には気圧を感知するセンサーが存在する可能性が高いと考えています。気象病の人は、気象の影響を受けない慢性痛の患者や健康な被験者に比べて内耳の感受性が高いことを確認しています。そのため、気圧の変化を内耳にあるセンサーが感知し、前庭神経が過剰に興奮することで自律神経のバランスが乱れ、その結果交感神経が優位になりすぎるとめまいや片頭痛、関節痛の悪化が起こり、副交感神経が優位になりすぎると眠気やだるさ、うつ症状が生じやすくなると考えています」(佐藤先生)
佐藤先生の研究では、天気の変化によって痛みが悪化する人に気圧の低い環境下に入ってもらうと、気圧の低下と連動して症状が悪化しました。
天気の悪化や日常に体験する程度の気圧変化で頭痛や指の深部痛の症状が悪化する被験者に、人工的に低気圧環境を作る環境ストレスシミュレータに入ってもらい、気圧の変化を経験してもらった。その日の大気圧から40hPa(ヘクトパスカル)減圧して天候不良の状態を再現すると、天候悪化時に見られる頭痛、指の深部痛などの症状が強まった。気圧を元に戻すと深部痛は低下、頭痛は多少低下した。(データ:脊髄外科VOL.29, NO.2, 2015)
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よくあるご質問また、正木先生は「気圧の変化では、体の中で水分の偏在が起こることが考えられます。そうなると、あるところでは水分が多すぎ、あるところでは水分が足りない、東洋医学でいうところの『水毒』の状態に。これも不調の原因になるのでは、と考えています」と言います。
気圧だけでなく、温度や湿度の変化も気象病の大きな要因です。
冒頭で紹介した気象と痛みの関係を調べた調査※1でも、「寒いと痛みが悪化する」人は5割近くを占めていました。
「温度や湿度を感じるセンサーは主に皮膚や粘膜にあり、脳や脊髄の中枢神経や内臓にも存在します。これらの部位に存在するセンサーが外界の温度や湿度の変化を敏感に感じ取ることによってその刺激が自律神経のバランスを乱し、不調や、不調の悪化につながると考えています」(佐藤先生)
片頭痛は、気温が上昇するタイミングで症状が悪化しやすく、肩こりや緊張型頭痛、関節痛などは気温が低下するときに悪化しやすいといいます。
また、関節痛が強まる原因の一つは湿度と考えられています。湿度が高い環境では、東洋医学でいう体の中で水分の偏在が起こる「水毒」や、体に湿気が滞る「水滞」の状態になりやすくなるからです。
「東洋医学では、湿度の上昇によって生じやすい不調があると考えています。もともと体に湿気が滞りやすい『水滞』や『水毒』といった体質の人は、湿度が上昇したときにめまいや倦怠感、むくみ、頭痛、関節痛、胃腸症状などが悪化しやすくなります。
梅雨の時期にさまざまな不調が表れる人は、湿気が体内の水の代謝を停滞させ、リンパの流れなどを悪化させている可能性があります。そういった方には、水分の代謝を改善する漢方薬『五苓散』を飲んでもらうと、効果を発揮する場合が多いです」と正木先生。
「気象病を訴える人は、子どもから高齢者まで全年代にわたりますが、全年代で男性より女性の方が多い傾向があります。その中で頭痛を訴える人は高校生から20、30代の女性が多く、関節痛は50代以降に多くなります。若い年代のときに天候変化による頭痛を訴えていた人が年齢を重ねるとともに頭痛は軽減したもののめまいに症状が変わるケースも多く見受けられます」と佐藤先生。
また、正木先生は、「現代の生活様式も、気象病のなりやすさに関係するのでは」と指摘します。
「現代人は、常に適温のエアコン環境下で過ごしていて、あまり運動をしないという人が少なくありません。そうした人は、温度変化や湿度の変化に体が慣れていないためにうまく適応できず、暑いのに汗をかけない、一度冷えると体を温められない、という状態になりがち。そうなると、自律神経のバランスが乱れて不調を起こしやすいと考えられます。気象病の症状が出るのは、ほとんどが自律神経の調節がうまくできない場合だと考えています。自律神経は体の隅々にまで影響を及ぼすので、症状の表れ方は人それぞれ異なり、複数の症状を併せ持つ人も出るわけです」(正木先生)
「月経前にイライラや倦怠感が起こるPMS(月経前症候群)や、更年期障害がある人も、天気の変化の影響で症状の悪化を感じている人が多いようです。女性ホルモンの揺らぎによる不調は自律神経を介して起こるため、気象病との関係も深いと考えています」(正木先生)
では、気象病になりやすい時期はあるのでしょうか。毎年、春一番が吹く頃に片頭痛が始まる、といった自覚がある人がいるかもしれません。
「気象病の症状が起こりやすいのは、季節の変わり目や気圧変動の大きい時期。しかし中には、天気図には現れないようなわずかな気圧の揺れに影響を受ける人も存在します」(佐藤先生)
注意が必要なのは、次のような時期です。
気象の変化により不調などの悪影響を受けない人にとって、気象病のつらさはなかなか理解できない、見えない不調かもしれません。そのため、「大げさでは?」「気の持ちよう」などといわれることもありますが、本人には苦しい症状です。
「体調の悪さを人に見せないようにしながら頑張りすぎると、精神的にも苦痛です。気象病の方に見られるうつ症状や意欲低下は、体を休ませたほうがいいサインととらえ、休養を優先したいですね。また、周囲の人も気象病についての理解を深めることが、ご本人のつらさを軽減するためにも重要だと考えています」(佐藤先生)
「かつては、毎年同じ季節に調子が悪くなっても『持病だから仕方ないのかな』と我慢してしまう人が多かったのですが、近年、気象病についての認識が広がり受診する人が増え、症状が良くなる人も増えているのは喜ばしいことです。不調は自分だけで抱え込まず、医療機関で相談していただくと解決法が見つかるケースが多いです」(正木先生)
脈を打つようにズキンズキンと痛み、吐き気を伴うこともある片頭痛。片頭痛の悪化原因の一つに天候変化が関わる場合がある、と佐藤先生は指摘します。
「気象病の人では、気圧の変化を内耳が敏感に感じ取り、内耳の前庭神経が過度に興奮します。この前庭神経の興奮がすぐそばにある三叉神経に伝わり、片頭痛の症状悪化につながるのではないかと考えています」(佐藤先生)
片頭痛は、三叉神経の関わりが注目されています。何らかの原因で脳の三叉神経が刺激を受けると、セロトニンなどの神経伝達物質が血液中に放出され脳の血管が拡張し、周囲に炎症が起こります。このような反応が脳に伝えられ、動脈が脈打つたびに拍動性の痛みが起こると考えられています。
思い当たる症状があり、天気の変化によって悪化するようであれば、「痛み日記」などで症状を記録し、症状が続くようなら早めに医療機関を受診しましょう。
「気象病」症状のコントロールとセルフケアについては、後編で紹介しています。