風邪のセルフケアと医療機関受診の見極め方
2021.09.30 更新
この症状、風邪をひいてしまったのかも…そんなときはどうしたらいいでしょうか?
市販薬によるセルフケアでは、鼻やのどの症状など、風邪のひき始めか、発熱しているのか、今自分に起こっているつらい症状に対し、市販薬のどの成分がどのように働くのかを理解して、添付文書も読んで、正しく使いましょう。
自分の症状に合っている成分や特徴を比較して選ぶことも理想ですが、既に発熱している場合、お店には入れない場合もあります。市販されている「総合感冒薬」と呼ばれる風邪薬は風邪の11の諸症状に幅広く効きますので、風邪をひきやすい時期を想定し、あらかじめ常備しておくことも大切です。
一方、症状が長引いたり、高熱が出るようなら医療機関を受診した方が良いケースもあります。
まずは、風邪とインフルエンザ、花粉症の症状の違いや特徴を比較してご紹介します。
風邪の初期症状には多少の個人差はありますが、「一般的には、悪寒や発熱、透明な鼻水や鼻づまりの症状が出ます。症状が進んでいくと鼻腔に炎症が起こり、鼻水が黄色くなってくる副鼻腔炎となることもあります」と、千葉大学医学部附属病院感染制御部・感染症内科講師、感染症専門医・指導医の谷口俊文先生は説明します。
では、例年冬に流行するインフルエンザには、どんな特徴があるのでしょうか。風邪の原因となるウイルスがライノウイルスやコロナウイルス、アデノウイルスなどであるのに対して、インフルエンザは、インフルエンザウイルス(主にA型・B型)が感染源となります。
「風邪は比較的ゆっくりと進行するのに対して、インフルエンザは経過が早く、38℃以上の高熱が急激に出ることが多く、倦怠感や節々の痛み、筋肉痛などの全身症状が出ることが特徴です(下の表参照)。インフルエンザウイルスは鼻、のどまでの上気道にとどまらず、肺などの下気道に入り込む場合があるため、肺炎を起こして重い症状を招く方もいます。風邪と似てはいますが、インフルエンザはより重篤な感染症と考えていいでしょう」(谷口先生)。
風邪 | インフルエンザ | 花粉症 | |
---|---|---|---|
発症時期 | 1年を通じて散発的 | 冬季に流行 | 季節性がある |
症状の特徴 | 鼻やのどまでの上気道の症状が強いことが多く、時に頭痛や下痢などの腹部の症状も | 高熱、筋肉や関節の痛みなど、強い全身症状がある | 同じような症状が長く続く |
熱 | 38℃までの発熱が多い | 38℃以上の高熱が多い | ほとんど出ることはなく、出ても微熱 |
鼻水 | はじめは透明で、次第に黄色く粘り気が出る | 後期からひどくなる | 透明なサラサラした鼻水がとめどなく出る |
くしゃみ | 出ることが多いが、続いても3~4日 | 出ることがある | 何度も出る |
鼻づまり | 数日間続く | 症状がある | 症状がひどく、長く続く |
のどの症状 | 痛み、腫れがある | 痛み、腫れの症状が重い | 痛み、腫れはまれだが、時にイガイガした感じがある |
咳(せき) | 数日間続く | 症状が重く、数日間続く | 出ることがある |
一方、風邪と似た症状という点では、春のスギ、ヒノキだけでなく秋にブタクサやヨモギによっても起こる花粉症も気になるところ。花粉症とは季節性のアレルギー性鼻炎で、鼻水・鼻づまり、くしゃみ、涙目などを引き起こし、咳を伴うこともあります。「花粉症と風邪の大きな違いは、発熱がほとんどないところ。その点で風邪と区別できます。のどの痛みや腫れ、体の痛みが伴うことはまれです。風邪と違って、花粉症の方は例年、『この時期に必ずなる』という病気なので、ご自分ならではの症状があり、対処方法が決まっているという方も多いのではないでしょうか」と谷口先生。
花粉症はシーズン中、一定のペースで長く続く人も少なくありません。これに対して、「風邪は1週間以上続くことはあまりなく、ピークはありますが段々よくなっていきます。このように症状が短期間に山を描くようなら感染症を疑い、一定のペースで長く続くときは花粉症と考えます」(谷口先生)。その他の症状の違いについては、「これって風邪(かぜ)?インフルエンザとはどう違う?」でご紹介した表を参考にしてください。
風邪は気を付けていてもかかってしまうことがあるので、早めに症状に気づくことが大切です。そして早めのセルフケアを心掛けましょう。
「風邪薬は、『風邪のひき始め』、『風邪が進行してつらい症状が出ている時期』、『症状は治まったけれども体力が落ちている時期』など、自分の風邪のステージに応じて選ぶことが大切です。風邪の初期で、くしゃみ、鼻水など風邪の全般的な症状がある場合は、抗ヒスタミン薬、解熱剤など複数の成分が含まれている総合感冒薬がおすすめです。また、漢方薬の葛根湯も、風邪のひき始めにのむと効果を実感できます」と谷口先生はアドバイスします。
漢方薬に詳しい東京有明医療大学教授の川嶋朗先生は、「葛根湯は体温を上げる作用があり、発汗を促してウイルスを体内から早く排除するように働くので、ひき始めには特におすすめです」と話します。
「その後、のどの痛みや咳、鼻水、頭痛など、つらい症状がより明確になってきたら、それに合わせて鎮咳薬(ちんがいやく)、去痰薬などを服用するといいでしょう」と谷口先生。症状に応じた有効成分にはどのようなものがあるのでしょうか。「つらい鼻水などには、抗ヒスタミン薬が効きます。咳が出る場合は、気管支を拡張するメチルエフェドリン、のどの痛みには抗炎症作用があるトラネキサム酸などが有効です」と川嶋先生。このほか、「寒気や悪寒があって節々が痛いときには麻黄湯、鼻水・咳などが気になるときは小青竜湯、体力が多少ある方で風邪症状が進んで咳が出る、食欲が落ちて下痢などのおなかの症状が出たときには柴胡桂枝湯など、漢方にも風邪に効く様々な薬があります」(川嶋先生)。
また、「『症状は治まったけれども体力が落ちている時期』には、補中益気湯などで体力を補うのもいいでしょう」と川嶋先生は話します。
【第一三共ヘルスケアの該当製品】
ルルシリーズ
家族(7歳以上)でのめる常備薬から、つらい症状で選べるアタックシリーズ、体がだるい時の滋養ドリンクなど
プレコールシリーズ
日中は忙しく、昼の服用が難しい方におすすめの1日2回タイプ※。総合感冒薬だけでなく鎮咳去痰薬もラインアップ
※プレコールエース顆粒を除く
一般的な風邪なら、自宅で市販薬を服用してゆっくり静養していれば、自然と治癒に向かう場合も多いもの。「ある程度、軽い症状で抑えられているときは、コロナ下にむやみに医療機関に出向くことは、感染症を予防する観点からもすすめられません」(川嶋先生)。
とはいえ、「高熱が3~4日続くときは別の原因を考えた方がいいでしょう」と川嶋先生は指摘します。谷口先生も「前述の通り、インフルエンザは経過が早く、急激に高熱が出たりする一方で、1週間以上長引くことは少ないです。ただ、38℃以上の高熱が続くと、二次的に肺炎を発症することもあり、その場合は抗菌薬による治療も必要になるため、医療機関を受診する必要があります」と警鐘を鳴らします。
新型コロナウイルス感染症が広がったことで、今まで以上に、風邪かどうかの見極めが難しくなりました。
症状が出てからの数日は、普通の風邪か新型コロナウイルス感染症か、特に見極めにくいといいます。というのも、「以前は、コロナの場合は味覚異常や嗅覚異常といった特徴的な症状が現れるといわれていましたが、デルタ株では、頭痛、のどの痛み、鼻水が最もポピュラーな症状で、味覚異常や嗅覚異常は少なくなっているといわれています。新しい研究報告やウイルスの変異などに伴って状況は刻々と変わりますが、風邪との区別はますます難しくなっているといえます」と谷口先生。
厚生労働省では、発熱や咳など比較的軽い風邪症状であっても、高齢者、妊婦のほか、糖尿病や心不全、呼吸器疾患(COPD 等)等の基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を使っている方については、すぐに新型コロナ相談窓口に相談をとしています。(参考:厚生労働省「新型コロナウイルス感染症について」)
谷口先生はその前に、「こうした基礎疾患がある方はまずはかかりつけ医に相談し、PCR検査をすべきかどうかも含め、検討してみるのがいいでしょう」とアドバイスします。
該当する基礎疾患がない方も、4日以上、市販薬をのみ続けて風邪の症状がまだ続くようなら、または1~2日使っても効果が感じられない場合は、かかりつけ医に相談してみましょう。かかりつけ医がいない方は、自治体の新型コロナウイルス感染症に関する相談窓口(首相官邸ホームページ)に電話をしてみるといいでしょう。
参考:市販薬を使い続けるか、医療機関に行くべきかはどう判断すればいい?(マスクトラブルや飲み合わせまで 市販薬の使い方)
政府は2021年8月初旬、新型コロナウイルス感染拡大の第5波の影響から医療機関がひっ迫しつつある中で、重症者や重症化リスクが高い人以外は自宅療養をするようにと大きく方針を転換しました。その後、「中等症は原則入院」という修正文書を出したものの、感染の拡大が続くことから医療現場での入院受け入れが追いつかず、自宅療養者は増えていました(2021年8月25日現在)。感染拡大で自宅療養者が増える中で、およそ8割の方は軽症で症状が改善されていくといいますが、気を付けておきたいのは、唇が紫色になっている、息苦しさや胸の痛みがある、肩で息をしている、ぼんやりして反応が弱いなど、顔色や様子が明らかにいつもと異なる場合です。脈のリズムが乱れる場合も注意が必要です。
新型コロナ罹患の判定後はもちろん、風邪だろうと思って自宅療養する中で、こうした症状が起こった場合も、すぐに新型コロナ相談窓口に相談を。厚生労働省では「唇が紫色になっている」、「息が荒くなった」、「肩で息をしている」、「ぼんやりしている」など、緊急を要する症状を具体的に挙げ、注意を喚起しています。これらを念頭に置きながら、自分の症状をよく観察し、自宅での療養を安全に過ごしたいものです。
コロナ下で、マスク着用、手洗いの徹底などが定着した影響からか、例年猛威を振るっていたインフルエンザが2020年秋から2021年春にかけては大きく減少。厚生労働省推計の医療機関受診者数は約1.4万人と発表されました。2019~2020年の約730万人の0.2%弱に激減したのです※1。
「つまり、新型コロナウイルス感染症対策をしっかり行った結果、インフルエンザなどの感染症が著しく減り、感染症は防げる病気であることが一般の皆さんにもわかってきたのではないでしょうか。今後もワクチン接種のほかに、感染症対策の鍵となるのが手洗い、マスクの着用などだといえます」(谷口先生)。
一方、川嶋先生は、withコロナの長期化によって巣ごもり生活が続き、人とのかかわりが減ってメンタル面の不調を訴える方が増えていることが気になっているといいます。「高齢者も含め、閉じこもりすぎず、オンラインなどでも人となるべく会話して、笑う時間をもつようにしましょう。ストレスが軽減できるばかりでなく、唾液の分泌が増し、免疫賦活の面でもプラスになります」(川嶋先生)。
いずれにしても、感染症の予防はこれまで以上に重要です。見えない敵との戦いが長引く中、予防のための対策に疲れてしまうことがあるかもしれません。しかし、そんなときこそ基本の対策を励行し、当たり前の習慣として定着させていきたいものです。
新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が続く中、接種後に出る副反応への対応に迷う方もいらっしゃるでしょう。このワクチンの副反応で発熱や頭痛、筋肉の痛みなどが起こったときは、どう対応したらいいのでしょうか。「市販の解熱鎮痛薬で痛みや熱を抑えるのも一法です」(谷口先生)。
当初は、特定の鎮痛薬の成分が良いとされる報道もありましたが、現在厚生労働省ではホームページ上で、「市販されている解熱鎮痛薬にはアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやロキソプロフェン)などをワクチン接種後の発熱や痛みなどに使用できる」としています。アメリカ疾病対策センター(CDC)も同様の対応です。
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