炎症を上手に抑えるにはどうしたらいい?
2024.8.30 更新
傷や打撲の腫れや痛み、風邪の発熱やのどの痛み、虫刺されやかぶれの際に起こるかゆみなどは、急性炎症の代表的な症状。放っておくと炎症の“火”が強くなって症状が悪化しますから、“ボヤ”のうちに手を打ちたいもの。そこで頼りになるのが市販薬です。炎症を抑える作用がある市販薬にはどのようなものがあるか、どんな症状にどんな成分が効果的なのか、どんなことに気をつけて使えばいいのか――。市販薬で炎症を上手に抑えるポイントをお伝えします。
「炎症自体は体を守るための反応ですが、炎症がひどくなって高熱や痛みでつらくなったときは、抗炎症作用のある市販薬を使って、症状を和らげましょう」と、薬剤師で医薬情報研究所の堀美智子先生は話します。
抗炎症作用がある市販薬はいろいろありますが、よく使われているのが「NSAIDs(エヌセイズ、非ステロイド性抗炎症薬)」、「トラネキサム酸」、「ステロイド」、「グリチルリチン酸」です。これら4つは炎症の炎を消す、いわば“火消し役”の成分です。
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「市販薬をうまく使う基本は、短期間の使用にとどめること。頭痛や月経痛のような繰り返す痛みや虫刺されによるかゆみに対しては、できるだけ早く使い、症状がなくなったら使用をやめます。頭痛なら痛みが軽いうちに飲む、虫に刺された場合はすぐに患部に塗るのがコツです。炎症がひどくなる前に使えば、早く炎症が治り症状も早く改善し、薬の使用量も少なくて済みます」と堀先生。
市販薬を上手に使って、急性炎症のつらい症状を改善しましょう。
前編で紹介した通り、炎症には「急性炎症」と「慢性炎症」があります。このうち市販の抗炎症薬の急性炎症に対する効果について堀先生は次のように話します。
「市販薬は、急性炎症に対してとても有効です。急性炎症は傷ややけど、虫刺されなどの物理的刺激で起こる場合もあれば、風邪のようにウイルスや細菌に感染して起こる場合もあります。炎症自体は体を守るための反応ですが、炎症が起こると組織が赤くなって腫れたり、熱が出たり、痛みやかゆみが生じたりと、つらい症状が出てきます。
特に傷ややけど、日焼けなどの皮膚の症状では、炎症がひどくなる前に抗炎症作用がある市販薬を使うと症状が抑えられます。また、急性炎症はある程度おさまったものの痛みだけが続いているといった場合には、市販の鎮痛薬が役立ちます」
薬局やドラッグストアで販売されている抗炎症作用がある市販薬は、いろいろなタイプのものがあります。中でもよく用いられている成分が、「NSAIDs」や「トラネキサム酸」、「ステロイド」、「グリチルリチン酸」です。それぞれの成分がどんなものか、どのような症状に用いられているか、見ていきましょう。
■こんな症状に効果的
発熱、頭痛、月経痛、のどの痛み、歯痛、腰痛、肩こり、筋肉痛、関節痛、ねんざの痛みなど
「NSAIDsは、炎症を抑える作用のある代表的な成分です。炎症によって起こる痛みや熱を鎮める作用があり、解熱鎮痛薬や総合感冒薬などの飲み薬に広く配合されています。また腰痛や筋肉痛、関節痛などの塗り薬や貼り薬(外用鎮痛消炎薬)にも用いられています。痛みと熱に効く最も身近な市販薬です」と堀先生。
NSAIDsにはいくつか種類があります。飲み薬の場合はロキソプロフェンやイブプロフェンなどが使われており、外用薬の場合はロキソプロフェンやインドメタシンなどが配合されています。
NSAIDsは炎症や痛み、熱などを引き起こす原因となる“プロスタグランジン”という物質が体の中で作られるのを抑えることで、炎症を鎮め、痛みや熱を和らげます。プロスタグランジンは、傷ついた細胞の細胞膜から出てくるアラキドン酸という物質に特定の酵素(COX:シクロオキシナーゼ)が働くことで作られます。NSAIDsは、この酵素の働きを阻害してプロスタグランジンが作られるのを抑制し、炎症によって引き起こされる痛みや発熱を抑えます。
「ただし風邪などで熱が上がるのは免疫の働きを高める防御反応の一つですから、症状が発熱だけで、あまりつらくないという場合は、すぐに解熱鎮痛薬を飲むのではなく、様子をみるのがいいでしょう。解熱鎮痛薬の服用は、食欲が低下している、ぐったりしているなど、発熱以外にもつらい症状があるかどうかを勘案して決めるといいでしょう」と堀先生はアドバイスします。
■こんな症状に効果的
のどの腫れ・痛み、口内炎、風邪、肝斑など。歯磨剤や化粧品などにも用いられる
「トラネキサム酸は、炎症を引き起こす『プラスミン』という酵素の働きを抑制する“抗プラスミン作用”によって、炎症を抑えます。市販薬では、のどの腫れや痛み、口内炎、さらにはシミの一種である肝斑に対する改善効果も認められています」と堀先生。
例えば、風邪などでのどの痛みがあるとき、患部では炎症を引き起こすプラスミンがたくさん出てきます。プラスミンは血栓を溶かして血流をよくしたり、血管の透過性を増して炎症を引き起こしたりする働きがあります。このプラスミンが増えると血管が拡張して血液成分が患部に漏れ出たり、免疫細胞が入り込んできて炎症を促進するサイトカインをたくさん出したりします。こうして炎症が進み、のどの腫れや痛みがひどくなるのです。それと同時に組織が損傷した際にはブラジキニンという物質が出て、知覚神経を興奮させて痛みがでます。さらに組織の損傷で作られたプロスタグランジンがブラジキニンの痛みをより増強します。
トラネキサム酸は、炎症のもとになるプラスミンの産生と増加を抑えることで、炎症や痛みを起こす物質の発生を抑制。その結果、のどの痛みや腫れが改善します。
また、トラネキサム酸は市販薬としては初めて「肝斑」の改善効果が認められた成分でもあります。肝斑は、頬骨のあたりに左右対称に現れるシミの一種。紫外線や女性ホルモンなどの刺激を受けることで、メラノサイト(色素細胞)を活性化する物質が働いてメラニンの産生を促し、発症すると考えられています。このメラニンを活性化する物質の一つが、プラスミン。トラネキサム酸はプラスミンの働きを阻害して、肝斑の発生を抑えます。
これらの他、トラネキサム酸は歯磨剤や化粧品(医薬部外品)などにも配合されています。
■こんな症状に効果的
湿疹、皮膚炎、あせも、かぶれ、かゆみ、しもやけ、虫刺され、じんましん、口内炎、痔など
ステロイドは、副腎という臓器で作られる副腎皮質ホルモンの一つ。このホルモンの作用を薬として応用したものが、ステロイド薬(副腎皮質ステロイド薬)です。
「ステロイドは、湿疹や皮膚炎、あせも、かぶれ、じんましん、口内炎の痛み、虫刺され、痔など、かゆみや痛みなど皮膚や粘膜のつらい症状を強力に抑えてくれます。飲み薬と外用薬がありますが、飲み薬は医師から処方される医療用だけ。市販薬では、塗り薬などの外用薬にのみ配合されており、皮膚用薬のコーナーでもたくさんの種類が売られています」(堀先生)
炎症が起こると障害を受けた細胞の細胞膜からアラキドン酸という物質が切り出されます。このアラキドン酸から炎症を促進するプロスタグランジンが産生されるのを抑えるのが、前述のNSAIDsです。
一方、ステロイドは細胞膜にあるリン脂質からアラキドン酸が切り出されるのを抑えることで、炎症を強力に抑えます。
ただし、ステロイドは炎症を抑える効果が強い分、使い方には特に注意が必要です。
「皮膚のかゆみや虫刺されなどは、ステロイド配合の外用薬を塗るとすぐに症状が改善します。もし改善しないなら、その症状にはステロイドが適していないということですから、使用をやめて薬剤師や医師に相談するようにしてください。だらだら連用していると皮膚が薄くなったり、免疫の働きが低下したり、皮膚を化膿させたりする副作用が出てきます。添付文書をよく読んで、短期間の局所使用にとどめることが重要です。正しく使えば、ステロイドは安全で効果が高く、怖い薬ではありません」と堀先生。
なお、ステロイド外用薬には“強さのランク”があります。また「アンテドラッグ」といって、特定の場所で強く働き、体内に入ると急速に効果が低くなるように設計されたものもあります。
「ご自分の症状にはどのステロイド外用薬が適しているか、店頭でぜひ薬剤師や登録販売者に相談してください」と堀先生は助言します。
■こんな症状に効果的
風邪、のどの腫れ・痛み、咳、鼻炎、胃炎、目のかゆみなど。歯磨き剤や洗浄料、化粧品などにも用いられている
グリチルリチン酸は、マメ科植物の甘草(カンゾウ)という生薬に含まれる成分です。実に多くの薬やスキンケア用品などに含まれているのが特徴です。例えば解熱鎮痛薬、咳止め薬、胃腸薬、下剤、鼻炎薬などの薬から、歯磨剤や洗浄料、スキンケア製品にまで幅広く使われています。
「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)など、多くの漢方薬にも入っており、その場合は成分名に『甘草』と記載されています。グリチルリチン酸は甘草の成分であることを知っておきましょう。また“甘い草”という名前の通り、甘味料としても使われています。詳しい作用機序は分かっていませんがステロイドと構造が似ており、炎症を鎮める目的で、長年、いろいろな市販薬や医薬部外品、化粧品などに用いられています。剤形も、飲み薬だけでなく、目薬や点鼻薬、トローチ、塗り薬、湿布薬など様々なものがあります」(堀先生)
注意しなければならないのは、このように用途が広い分、知らないうちに摂り過ぎになる可能性があることです。
「グリチルリチン酸を摂り過ぎると、むくみや倦怠感などの副作用が出る『偽アルドステロン症』を起こすことがあります。複数の市販薬を飲む場合は、成分表をチェックしたり、薬剤師に相談したりして、グリチルリチン酸や甘草の服用量が多くなりすぎていないか、必ず確かめるようにしてください。また、グリチルリチン酸による偽アルドステロン症の発症には個人差があり、少量でも副作用が出やすい人がいます。これらが含まれる薬を飲んだとき、朝に顔が浮腫んでいると感じた場合は薬剤師などに相談してください」と堀先生は注意を促します。
「市販薬を上手に使う基本は、早く使って短期間の使用にとどめること。発熱の場合は前述した通り、使うタイミングを考える必要がありますが、それ以外の痛みやかゆみ、やけど、日焼けなどに対しては、できるだけ早く使い、症状がなくなったら使用をやめましょう。例えば、虫に刺されたらすぐに塗る。炎症が進む前に使えば、炎症が早くおさまって症状も早く改善し、薬の使用量も少なくて済みます」(堀先生)
症状によっては市販薬では対処できない、あるいは市販薬での対処が適切ではない場合があることも知っておきましょう。
「数日市販薬を使っても効果が現れない場合は、漫然と使い続けるのではなく、使用をやめて医師や薬剤師に相談してください。薬局やドラッグストアには薬剤師や登録販売者がいるので気軽に相談してほしいですね。薬は“モノ+情報”であると認識し、モノだけでなく情報もぜひ一緒に買っていってください。市販薬は、成分や剤形など新しいものがどんどん登場しています。使い慣れた薬以外の情報も得て、ご自分に合う薬を見つけていただきたいと思います」と堀先生は話します。
急性炎症の場合は、抗炎症作用のある市販薬を上手に使うことで炎症を鎮め、症状を改善することができますが、慢性炎症にはどんな対策があるでしょうか。
「慢性炎症は生活習慣に大きく関係していますから、適度な運動をしたり、栄養バランスに気をつけたりすることが予防につながります」と堀先生。
例えば、食品とそれを摂取した際の炎症の指標となる値を調べた調査では、肉の脂肪などに多く含まれる飽和脂肪酸は炎症リスクが高く、魚油などに多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)などのオメガ3系脂肪酸や、ビタミンE、D、C、B6、A、食物繊維などは炎症リスクが低いという結果でした※1。
「オメガ3系脂肪酸はサバやイワシなどの魚に多く含まれるので、積極的に摂るといいですね」と堀先生。
米国人約21万人を30年以上追跡して、食事と心血管疾患の関係を調べた研究では、緑黄色野菜、全粒穀物(精製されていない穀物)、果物、コーヒーまたはお茶などをよくとる人たちで炎症に関連する指数も心血管疾患のリスクも低くなっていました※2。
ほかにも身近な食品としては、ブロッコリーを食べている人は食べていない人に比べて炎症マーカーが低く死亡リスクも低かったという報告があります※3。
また、1日30~60gのクルミを2年間摂取した60~70代の人々は炎症マーカーが低下し、心臓病リスクが低くなっていたそうです※4。
特定の成分・栄養素だけに着目する必要はないですが、このように日々コツコツと食べている食事が、慢性炎症に対しては、重要な影響を与えていることを意識して、体の中で密かに進む慢性炎症を防ぎましょう。
毎日の食事・運動・睡眠に気を付けることが、体の中で密かに進む慢性炎症に対して有効であり、健康な生活全体の基盤ともなります。