お母さんが服用した薬は、母乳中に分泌され、それを飲むことで赤ちゃんに移行します。ただし、妊娠中におなかの中で移行する量と比較すると格段に少なく(1~10%以下)、赤ちゃんに影響を及ぼす可能性は少ないと考えられます。一部、抗がん剤や放射性ヨウ素、抗不整脈薬、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬、医療用麻薬などに、授乳中には使用できないものや、授乳中の使用を慎重に検討すべきものがありますが、多くの薬は心配することなく使うことができると考えられます。
産後、薬を飲むことが必要になったときに、「赤ちゃんへの影響が心配だから」と母乳をやめようと考えるお母さんもいるでしょう。しかし母乳は、感染症を予防するための免疫成分や、神経の発達を促す成分など、赤ちゃんの成長や健康を促進するために大切な成分が多く含まれており、赤ちゃんにとって最高の栄養源といえます。そして、母乳は一度やめてしまうと、お母さんのホルモンの状態が変化し、再開することは困難になります。薬を飲むだけのために断乳してしまうのは、残念なことといえるでしょう。
一方、「母乳をあげたいから薬を飲まずにつらい症状をがまんする」こともよくありません。お母さんが治療をせず放置し、病状が悪化しては子育てができなくなってしまいます。
そこで、授乳中の薬の服用においては、一人一人のお母さんの病状や薬の選択肢を考え、できるだけ授乳を続けながら治療できる方法を検討します。母乳中の薬物濃度が上昇するのは薬を飲んだ後なので、飲むのは赤ちゃんに授乳した直後にするなど、授乳と服薬の時間を考えて影響を少なくする方法もあります。
授乳中に薬の服用が必要な場合は、まず医師に相談しましょう。
国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」のホームページでは、「授乳中に安全に使用できると思われる薬」と「授乳中の治療に適さないと判断される薬」のリストを公開しています。妊娠中や授乳中の薬について相談することもできるため、参考にするとよいでしょう。
授乳中は、薬に限らずお母さんが食べたり、飲んだりするものは母乳中に分泌され、赤ちゃんに移行します。妊娠中と同様、飲食物や嗜好品にも注意が必要です。
タバコ | 授乳中の喫煙により、ニコチンなどの有害物質が、赤ちゃんの喘息や呼吸器の病気、アレルギー性の病気などの原因になる可能性がある。 |
お酒 | アルコールの過剰摂取により母乳の出が悪くなる、赤ちゃんの発達が遅れるなどの可能性が指摘されている。授乳中の飲酒は極力控え、飲む場合には飲酒後2時間以上あけてから授乳することが望ましい。 |
カフェイン | カフェインは、コーヒー以外にも紅茶、緑茶、コーラなどにも含まれている。とりすぎないよう1日1~2杯程度にとどめ、気になる場合はノンカフェインのコーヒーや麦茶などで代用する。 |
脂っこいもの | 脂っこいものは、乳管の詰まりや乳腺炎などの原因になる可能性があるため、生クリームや乳製品、脂肪分の多い肉などはとりすぎないようにする。 |
本文監修:日本赤十字社 葛飾赤十字産院 副院長 鈴木俊治 先生