熱中症は、重症化すると命にかかわることもあるこわい症状です。日常生活の工夫やちょっとした注意を忘れず、予防を心がけましょう。
熱中症予防のために、「どのような温度環境でどのように過ごしたらいいか」という指針となるものが2つあります。
ひとつは、温度の指標となる「暑さ指数(WBGT)」と呼ばれるもの。アメリカにおいて提唱された指標で、気温・湿度・輻射熱という3つの要素から算出します。熱中症に注意が必要な季節(毎年6月~9月ごろ)になると環境省のホームページで各地の実況値と予測値を公開しています。
もうひとつは、日本生気象学会による「日常生活における熱中症予防指針」です。WBGTによる参考温度を基準に、危険度の目安と日常生活をおくるときの注意点などを示しています。生活や外出などの参考にするといいでしょう。
暑さ指数(WBGT) | 注意すべき生活活動の目安 | 注意事項 |
---|---|---|
危険 (31℃以上) |
すべての生活活動で起こる危険性 | 高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。 |
厳重警戒 (28~31℃以上) |
外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。 | |
警戒 (25~28℃以上) |
中度以上の生活活動で起こる危険性 | 運動や激しい作業をする際は定期的に十分に休息をとり入れる。 |
注意 (25℃未満) |
強い生活活動で起こる危険性 | 一般に危険性は少ないが、激しい運動や重労働時には発生する危険性がある。 |
人間のからだには、もともと環境への適応能力が備わっているため、暑い環境でも数日過ごすうちに自律神経の働きがよくなり、汗を上手にかけるようになったり、体温調節ができるようになっていきます。
ただ、涼しい日が続いた後に急に暑くなった場合などは、からだがまだ暑さに慣れていないことで、うまく適応できずに熱中症になってしまうのです。そのため、梅雨の晴れ間など急に暑くなった日は注意が必要です。
熱中症と聞くと、炎天下でスポーツをしたり、無理な作業をしたりすることで起こると考えている人も多いでしょう。しかし実際には家庭内で、日常生活の中で起こる熱中症も多くあります。
特に高齢者や乳幼児は、エアコンのない室内や風通しの悪い場所にいると、あまり動かず静かにしているときや、寝ているときなどにも熱中症を起こす危険もあるため、気をつけましょう。こまめに室温を測り、風通しや服装に注意して過ごすことが大切です。
エアコンをつけて温度設定していても、センサーの場所や感度によって設定温度が正確ではないこともあります。人が過ごしている場所の気温が正しく測定できるように配慮し、室内の人数や行動、服装などにあわせて温度を設定しましょう。目安としては、28℃を超えないように設定しておくと安心です。
エアコン使用時は、冷風が直接人に当たらないように注意が必要です。冷気は部屋の下のほうにたまりやすいので、扇風機などを利用して風を動かすと、あまり室温を下げなくても涼しく過ごせます。カーテンやすだれなどで直射日光を遮る、冷気を外に逃がさないなどの工夫もエアコンの効果的な利用につながるといえるでしょう。
エアコンの活用は熱中症予防に効果的ですが、冷やしすぎはよくありません。室内の気温をあまり下げてしまうと、涼しい部屋から暑い屋外などに出たときに、急激な気温差にからだが適応できず、めまいや気分の悪さなどが引き起こされることがあります。からだに負担をかけないためにも、あまり設定温度を低くしすぎない(24℃以下にならない)ようにしましょう。
家の中でも風通しの悪い場所は熱気がこもりやすく、熱中症の原因になることがあります。しめきった寝室、浴室、トイレ、火を使って調理するキッチンなどは、時々ドアをあける、扇風機や換気扇を回すなど、意識して風通しをはかることが大切です。
暑いときにはたくさん汗をかきます。汗をかくことは、からだの熱を逃がし体温が上がりすぎないように調節するために必要なことですが、汗をかけば体内の水分と塩分が失われることになります。
それによって血液の流れが悪くなり、脳やからだのすみずみにまで酸素や栄養が届きにくくなるため、筋肉のけいれんや頭痛、吐き気、めまいが起こったり、高熱が出たりします。予防するためにはこまめな水分補給が不可欠ですが、水分だけをとると塩分が不足して血液が薄い状態になってしまうため、塩分も一緒にとることが必要です。
目安としては、コップ1杯(200ml)の水に、ひとつまみ(0.2g)の塩を入れた塩水か、ナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンクがよいとされています。
脱水症状のサインとして、のどの渇き、汗や尿の量が減る、尿の色が濃くなるなどの症状が挙げられますが、軽い脱水状態ではのどが渇かないこともあります。特に高齢者は脱水症状が進んでいても、のどの渇きを感じにくいことがあるため、飲みたいと思わなくても、外出や運動、入浴、睡眠などの前に水分をとり、後にもとることを心がけましょう。
ただし、高齢者は水分のとりすぎによって心臓に負担がかかることもあり、注意が必要な人もいます。持病のある人は水分のとり方について主治医に相談しましょう。
飲むものは水、麦茶、塩水やスポーツ飲料などが望ましいでしょう。それ以外に好きな飲み物を飲んでもいいですが、カフェインを含むお茶やコーヒー、アルコールを含む酒類には利尿作用があり、かえって脱水症状を進めてしまう危険もあります。利尿作用のあるものは飲み過ぎないよう注意が必要です。
少しでも涼しく過ごすためには、汗を吸い、通気性のよい綿素材の衣類が適しています。近年、多く市販されている吸汗素材、速乾素材のシャツや、軽く涼しいタイプのスーツなどもおすすめです。首回りがしめつけられると熱がこもってしまうため、なるべくネクタイを外し、襟元をゆるめて風を通しましょう。それだけでも体感温度は下がると考えられます。
暑いなら、「いっそ何も着ないで過ごすほうが涼しくていいのでは?」と考える人もいるかもしれませんが、それは逆効果です。衣類は、汗を吸って蒸発させるのを助けるほか、直射日光の熱や紫外線から肌を守る役割も果たしています。
熱中症は、からだが暑さに慣れていないことで起こりやすくなります。からだが暑さに慣れることを「暑熱順化」といいますが、ふだんから運動をしていて適度に汗をかく習慣がある人は、暑熱順化していることになり、熱中症にかかりにくくなります。1日30分程度のウォーキングを続けるなど、ふだんから暑さに対抗できるからだづくりをしておくといいでしょう。
また、寝不足や二日酔い、疲れがたまっている、風邪気味、食事抜きなど、体調が悪いときも熱中症になりやすいため、十分な栄養と休養をとり、健康管理を心がけることも大切です。