気象病の予防で大切なのは「自律神経を整えること」
2023.04.20 更新
気圧が下がったり、温度や湿度の変化によって不調が出る「気象病」。まずは自分の不調が気象とどう関係しているのか、気付くことが大切です。症状が表れる気象条件がわかれば、不調が出る前にある程度策を講じることができます。まずは、痛みや不調と天気の関係を日記やスマートフォンアプリなどに記録してみましょう。併せて、不調の原因になる自律神経の乱れを整えるため、日ごろの生活習慣を見直し、気象病の症状を抑えるセルフケアも実践しましょう。
気象病の症状や出方には個人差があり、どのような気象変化がどのような症状と結びつくかは人それぞれ異なります。「天気と不調に関係がありそうだ」と思っている人は、気になる不調が実際に天気と関係しているのかを見極めるためにも、「痛み日記」をつけてみましょう。「痛み日記」とは、その日の天気と気圧の変化などの気象要素、痛みの強さや症状が出たタイミングなどを記録するものです。
「1カ月ほど続けると、体のリズムを把握できると同時に、天気の変化と不調の関係を経時的に見ることができます。体調や痛みの変化が天気の変化のどのようなタイミングで始まるか、あるいはどのような天気のときに調子が良いのかも確認してみてください。記録を継続すれば、自身の気象病の症状の特徴がわかり、それに合わせて早めに薬を飲んだり、負担を軽減できるように予定を調整するなど、早めに対策がとれます」と愛知医科大学病院疼痛緩和外科・いたみセンターの佐藤純先生は話します。
気象病のつらさは、症状だけでなく、「また症状が出るかもしれない」と不安がふくらむことにもあります。
「『痛み日記』をつけることで症状が出る前に対処し、『不調をコントロールできた』という経験を繰り返すことで、自己効力感が高まり、症状が続いてしまうのを防ぐことにつながります」(佐藤先生)
また、病院を受診する際に最低1カ月ほどの経過を記録した『痛み日記』を持っていくと、困っている症状を具体的に医師に伝えやすくなるというメリットもあります。
他の人の目には見えない痛みなどの不調を周囲に理解してもらうためにも、客観的な記録は役立ちます。お子さんの場合は自分の不調をうまく言葉にできないことも多いので、周囲の方がサポートしながら記録をつけてみましょう。
(監修:佐藤純先生)
頭痛や関節痛、倦怠感、めまいなどの気象病と関係が深い症状は、いずれも自律神経の乱れと密接に関わります。
正木クリニック院長の正木初美先生は、「ストレスが多い人、起床時間、就寝時間が一定せず生活リズムが崩れている人、睡眠不足、食事を欠食しがちな人は、どうしても自律神経が乱れがちになり、気象病の症状が悪化しやすいようです。
昔からいわれていることですが、規則正しい生活、栄養バランスの良い食事、心身のリフレッシュが自律神経のバランスを整えるための基本となります」とアドバイスします。
以下に紹介する生活習慣の見直しやセルフケアを実践して、気象の変化にさらされてもその影響を過度に受けないよう体調維持を心がけましょう。
大前提は、規則正しい生活。生活リズムが崩れている方は、まずそれを整えましょう。
人間は本来、夜が明けたら目覚め、日が暮れたら眠るという生体リズムに沿って体の機能が働くようになっています。全身の細胞には体内時計が備わり、体を活動モードにする交感神経、休息モードにする副交感神経という自律神経とも連動しています。
この体内時計のリズムが崩れると、自律神経が乱れ、うまく機能しなくなります。
体内時計をリセットする重要なタイミングが起床時です。
「朝は決まった時間に起きて太陽の光を浴びること、そして朝食をとることによって体内時計がリセットされ、活動モードの交感神経を活性化するスイッチが入ります」と佐藤先生。
参考:「朝」のセルフケア、3つのポイント(寝不足の悪習慣から抜け出すためのセルフケア)
また、入浴や運動も自律神経を整えるのに役立てることができます。
「温度や湿度の変化に対して速やかに発汗し、体温を下げるときにも自律神経は働きます。エアコン環境下で活動不足の状態が続いていると、温度や湿度の変化にうまく対応ができません。夏でも湯船につかり、ウォーキングなどでじんわり汗をかけば、温度変化に対する自律神経の乱れをある程度抑えることができます。さらに、日中にほどよく疲れると、自律神経の調整に重要な睡眠の質も良くなってきます」(正木先生)
女性の場合、月経前や更年期など、女性ホルモンの揺らぎの影響により自律神経バランスが崩れがちに。
「しんどいと感じたらそれ以上無理をせず、疲労やストレスをためこまないよう自分を思いやることも大切です」(正木先生)
意識的にリフレッシュをはかることも重要です。不調があるとつい、くよくよしたり、屋内に引きこもりがちになりますが、それではますます気分がふさいで症状も慢性化…、というふうに悪循環が起こることも。
「思い切って外に出てショッピングをする、おいしいものを食べる、カフェで本を読んだり、人と会話をする、といった行動をすることで気分転換になり、不調にとらわれていた気分が晴れてきます。なるべく笑顔に、気持ちを明るくしていこうと意識すると体温も上昇し、倦怠感も軽減されるでしょう」(正木先生)
日ごろの食事では、糖質、たんぱく質、脂質をバランス良くとること。特にたんぱく質は全身に酸素を運ぶ赤血球やさまざまなホルモンの材料でもあります。不足しないように意識しましょう。
「忙しいときにはコンビニ食が続く、という場合もあるかもしれませんが、最近はたんぱく質やビタミン、食物繊維など栄養バランスを重視した食品も増えています。なるべく欠食は避け栄養バランスを考慮し、3食をとるようにしましょう」(正木先生)
また、日々のストレスは自律神経を乱す要因となり、胃もたれや便秘、下痢などの胃腸症状を引き起こします。一方、腸内環境(腸内細菌叢)が整うと、メンタルの調子も安定しやすくなります。腸内細菌叢を整えるために、食物繊維や乳酸菌などを含む発酵食も積極的に取り入れましょう。
佐藤先生は、「気象病の症状の悪化を防ぐために以下の栄養素も意識してとるといい」と言います。十分に食事でとれない分は、サプリメントなどで補うのも一法です。
事前に天気の変化を知ることで、それに備えることができます。そのために、翌日の天気や気圧のチェックや、週間予報の確認などが役立ちます。前述の「痛み日記」など、天気の変化による不調の記録は、ノートやメモ帳につけても良いのですが、すでに気圧などの情報が搭載されているスマホアプリもあり、そのメモ機能を利用すると便利です。
気象病と体調管理に役立つ以下のアプリなら、気象病についての注意の通知を受け取ったり、不調について日々の記録をつけることが可能。「症状が出そうかも」というタイミングで必要な薬を飲むなどの策を講じて、不調の予防や改善につなげられます。
天気予報アプリ「ウェザーニュース」内で提供されている「天気痛予報」。ユーザーから寄せられた症状報告と気圧データを詳細に分析し、天気痛が発症しやすい気圧変化パターンを指数化。低気圧や台風の接近といった明らかな気圧変化に加え、天気図には現れない微少な気圧変化も考慮し、3時間ごとのピンポイント天気痛予報、6日先までの天気痛発症リスクなどを予報します。自分の症状や対策のメモも記録可能。
毎日の天気と気圧を同時にチェック。気圧グラフで頭痛の起こりやすいタイミングがわかります。また、痛みの度合いや服薬の内容、「痛みノート」なども記載できます。
アプリユーザーのデータを使った最新の研究でも、気圧と湿度と頭痛発生が関係していることが確認されました。2020年12月〜21年11月までの「頭痛ーる」ユーザーの頭痛記録データを解析した結果、「気圧の変化」、「降雨」、「湿度」が頭痛発生に関係することがわかりました。また、気圧については、「6時間前と比較して大きな気圧低下」、「朝6時の高気圧」、「翌日朝6時の低気圧」、「1週間気圧が低いまま」、「1週間かけて気圧が大きく低下」といった条件が関与することもわかりました。※1。
この研究は、糸魚川総合病院脳神経外科と、「頭痛ーる」を提供するベルシステム24、獨協医科大学、埼玉精神神経センター、七尾病院の共同チームが行ったもの。東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、愛知県、石川県の片頭痛が強く疑われる、4,375人の同アプリユーザーのデータを抽出し、気温や湿度などの1時間ごとの天気データおよびアプリでの1時間ごとの頭痛登録数を、AI(人工知能)を使って解析しました。
研究を行った糸魚川総合病院脳神経外科医長の勝木将人先生は、「これまでの天気と頭痛発生に関する研究は小規模なものが多かったのですが、今回ビッグデータを用いて得られた結果の意義は大きいと考えています。実は自分自身も片頭痛持ちで頭痛に苦しむ人たちの気持ちがよくわかります。そうした人たちが正しく生活改善や受診ができるように、今後は、気圧や湿度以外の変数も組み合わせて、ユーザーごとに個別化したアラートを出せるようにできればと思っています」と話します。
※1 Headache 2023 Feb 28: DOI 10.1111/head.14482
【関連動画】天気と頭痛の関係 頭痛ーるデータと人工知能を用いた解析(糸魚川総合病院脳神経外科)
「気象病の一因には、内耳に存在するセンサーの過敏状態がある、と推測しています。そこで、マッサージや温熱刺激などで内耳の血流を改善することによって自律神経の乱れを整え、気象病の症状悪化を予防できると考え、患者さんに指導しています」と佐藤先生。
日常のケアや不調の予兆を感じたときなどのセルフケアとして取り入れてみてはいかがでしょうか? ただし、片頭痛は、温めることが症状の悪化につながるケースもあるので、すでに片頭痛が起こっているときには控えましょう。
心地よい痛気持ちよさを感じる程度で行う。耳は引っ張りすぎず、痛みや違和感を覚えたら中止する。
「耳全体がじんわり温まると、内耳の血行も高まります」(佐藤先生)。リラックスしたいときにも。
方法は、少し湿らせたハンドタオルを耐熱性ポリ袋などに入れ、電子レンジで30秒ほど加熱する(火傷に注意)。心地よい温かさであることを確認の上、両耳に交互に当てて耳全体を温める。
タオルを使ってできる簡単な体操。首から耳にかけての血行を促すことによって内耳の血行が改善し、頭痛の症状も軽減。デスクワークで首や肩が凝る人にも。10回を1セットとして、1日3セット行いましょう。
東洋医学では、ツボは「血」や「気」が滞るポイントとされます。ツボを押したり、温めたりすることによって血や気の流れを改善します。
耳の後ろにある「完骨(かんこつ)」は、首から頭にかけての血行を良くするツボ。「めまいや頭痛に対する改善効果があります」(佐藤先生)
「頭竅陰(あたまきょういん)」は平衡感覚を正常に、「翳風(えいふう)」は全身の血流を改善するとされています。体調が悪くなりそうなときに、3つのツボを左右の人差し指で軽く押すと、自律神経の調整にも効果的です。
気象病は、もともとある片頭痛などの不調が、気象の変化によって悪化する病態でもあります。まずは不調の背景になんらかの病気が隠れていないかを確かめることも重要です。
「生活習慣を整え、セルフケアを行ってみても症状が良くならない場合は、内科や耳鼻咽喉科など、早めにそれぞれの症状に合った医療機関を受診し、根底にある病気を早期治療しましょう。『痛み日記』などを持っていくと症状を伝えやすいでしょう」(佐藤先生)
頭痛や関節などの痛みには鎮痛薬、めまい、むくみには漢方薬が効果を発揮します。
「頭痛などの痛みを抑えるロキソプロフェンなどの鎮痛薬は、症状が出てきたな、という早いタイミングで飲むのがコツ。症状が治りやすく薬の量も抑えられます。天気が悪くなりそうだからと、痛くなっていないのに飲んでしまうと、過剰に飲むことにつながるので注意が必要です。
一方、鎮痛薬を飲むのを控えて痛みがひどくなってから服用すると、効きが悪くなります。漢方薬は体質に合うとすぐに効果が出る人も少なくありません。2~3週間飲むことで梅雨時や台風シーズン、季節の変わり目などを楽に乗り切れることもあります」(正木先生)
「めまい症状がある人は、OTC医薬品の酔い止め薬で症状が軽減する場合もあります。ただし、症状が良くならない場合は早めに受診を。処方薬の抗めまい薬で楽になる人も多いです」(正木先生)
痛みや発熱を抑えるアセトアミノフェンや、炎症も抑える非ステロイド性抗炎症薬のイブプロフェン、ロキソプロフェンなどがある。気象病により頭痛や関節痛が悪化する人に。
【第一三共ヘルスケアの該当製品】
速く止めたいつらい痛みに、すばやく効く鎮痛成分「ロキソプロフェンナトリウム水和物」を配合。さらに、独自の製剤技術「クイックブレイク製法」で、服用後、錠剤がすばやく崩壊します。また、胃を守る成分(メタケイ酸アルミン酸マグネシウム)配合で、胃への負担を軽減します。眠くなる成分(鎮静成分等)を含まず、1回1錠で飲みやすい。
よくあるご質問五苓散(ごれいさん) |
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体内の水分調節を改善する漢方薬。 ・飲むタイミング |
抑肝酸(よくかんさん) |
自律神経の乱れを整え、神経のたかぶりを抑え、緊張性頭痛などをやわらげる。 ・飲むタイミング |
「『いつもと違う』という症状があったら自己判断は禁物です。いつも服用している薬を飲んでも症状が良くならず悪化する、いつもより痛みが強い、異なる症状を伴う、といったときには、他の病気を発症している場合も考えられます。なるべく早く受診をしましょう」(正木先生)
今までに「天候のすぐれない日は調子が悪かったけれど関係がわからなかった」、「朝なぜか家族の機嫌が悪いときがあり気になっていた」、そんな方は気象病かもしれません。
いかに自律神経のコントロールをうまくできるかが、気象病と上手に付き合うカギになります。
ここで紹介した対策を取り入れ、日常生活でセルフケアに取り組んでみてはいかがでしょうか。
気象病の症状とメカニズムについては、前編で紹介しています。