頭が痛い、ふらふらする……これってもしかして熱中症?

コロナ下での熱中症の初期症状の気づき方と
セルフケアでの対処法

2021.04.16 更新

十分に備えたつもりでも、疲労や体調不良などの悪条件が重なると、熱中症になってしまうこともあります。誰もがかかり、重篤化するおそれがある熱中症。初期症状を見極め、適切に熱中症に対処しましょう。危険な症状やその原因、応急処置のポイント、冷やすと効果的な体の部位など、対処法をあらかじめ知っておきましょう。

熱中症を引き起こす条件は「環境」と「からだ」と「行動」

熱中症を引き起こす条件は、「環境」、「からだ」、「行動」の3つと考えられています。「環境」要因は、気温や湿度の高さ、風の状態など。「からだ」の要因には健康状態の悪さ、脱水している、暑さへの慣れ(暑熱順化/暑熱馴化)が不十分といったことがあり、「行動」要因には、長時間の屋外作業や激しい運動、水分補給できない状況などがあります。

例えば室内でも、お風呂場や家の最上階などは湿気がこもりやすい場所です。温度が高くなくても熱中症の危険度は高まるので、窓を開けて風通しをよくしたり、冷房をつけて温度とともに湿度も下げたりするように環境を整えましょう。また、「からだ」を整える上で注意が必要なのが脱水しないことです。特に入浴では発汗も伴い脱水しやすいので、長風呂を避けて前後に水分を補給しましょう。炎天下に長時間いることは、その「行動」が熱中症を起こしやすい条件の一つになるので気を付けましょう。

参考:環境省「熱中症予防情報サイト」

意識消失、嘔吐、しびれ…こうした危険な症状は
「脳」「消化器」「筋肉」3つの臓器が影響を受けるため

熱中症の初期には、「頭痛」や「めまい」、「だるさ」、「吐き気」など、様々な不調が原因のありふれた症状が起こります。「熱中症による脱水で特に影響を受けやすいのが脳、消化器、筋肉。いずれも機能の維持に水分が多く必要な臓器です。脱水の症状がこれらの臓器に起こりやすいのです」と、済生会横浜市東部病院患者支援センター長の谷口英喜先生。これらの臓器の変調で起こる症状が出たら、熱中症を疑いましょう。

3つの臓器の変調で起こる様々な症状
  • 脳:めまい、立ちくらみ、集中力・記憶力の低下、頭痛、意識消失、けいれん
  • 消化器:食欲の低下、ムカムカする、腹痛、下痢、便秘、嘔吐
  • 筋肉:筋肉痛、しびれ、麻痺、こむら返り

重症度別の対応方法はこちら

特に早めに熱中症のサインに気づく必要があるのが、熱中症リスクが高く重篤化しやすい子どもや高齢者です。自分の不調をうまく伝えられない乳幼児や高齢者の場合、機嫌や食欲、普段とは違う行動などを観察しましょう。ちなみに、「高齢者は脇の下で測る体温は正確な体温を反映しておらず、熱中症でも上がっていないケースもあるので、体温が低いからといって油断は禁物です」と谷口先生。

〈乳幼児の症状チェック〉
□不機嫌であやしても泣き止まない
□泣いているが涙の量が少ない
□食欲がない
□眠りがち
□熱があるのに発汗しない
□尿の量が少ない
□便が硬くコロコロしている
□口や鼻の中が乾いている
□舌が白っぽい
※新生児ではおでこの上のくぼみ(大泉門)が陥没している
〈高齢者の症状チェック〉
□なんとなく元気がない、言葉数が少ない
□落ち着きがない
□食欲がない
□眠りがち
□便が硬くコロコロしている
□脈が速い
□舌が乾いている
□手足が冷たい

熱中症かも。そのとき何をすべき?医療機関に行く見極めポイント

症状から熱中症を疑う場合には、まずは次の3つを実践しましょう。詳しい情報は環境省の「熱中症予防情報サイト」にも掲載されているので参考にしましょう。

涼しい場所に移動する
屋外なら日陰で風通しのよいところ、エアコンの効いた室内や車内へ。
体を冷却する
冷たいペットボトルを手に持ったり、首や両脇、鼠径部などの太い血管がある場所を冷やす。衣類のきつい部分をゆるめ、露出した部分に冷水をかけてうちわや扇風機、タオルなどであおぐことでも体を冷やせます。
塩分を同時に補給できる経口補水液を飲む
熱中症の応急処置として補給する水分は、脱水状態で不足している塩分などの電解質を同時に補給できる経口補水液をゆっくりと飲みます。一般的なスポーツドリンクよりも電解質濃度が高く、水と電解質の吸収を早めるためにスポーツドリンクより低い糖濃度になっているからです。ちなみに、通常は塩辛く感じる経口補水液が、脱水や疲労時には甘く飲みやすく感じることがあるようです。もちろん、経口補水液がない場合には、スポーツドリンクや水などでも十分量飲むことが大切です。

ただし、意識がはっきりしないとき、嘔吐のあるときは無理な水分補給は避けましょう。
「脱水時の経口補水液を飲む量の目安は、小学生~高齢者は500~1,000ml/日、幼児は300~600ml/日、乳児は体重1kgあたり30~50ml/日です。ただし、症状が改善しない場合にはこの量にとらわれずに十分な量の摂取を心がけましょう」(谷口先生)。

これらの対処で症状が治まれば、休息をとった後自宅で安静にしましょう。
自分での対処を超えている緊急性の高い場合の見分け方を谷口先生は「意識がしっかりしているかどうかと、自分で水が飲めるかどうか。この2つを確認してください」と言う。自分の名前や現在いる場所を言えない場合は「意識がおかしい」ということ。この場合はすぐに救急車を呼ぶ必要があります。

水分を飲めるかどうかは、「本人にペットボトルを渡し、自分で開けて飲むことができるようならひとまず安心。一方、力が入らず開けられない、ごくんと飲み込めず口からこぼれてしまうようであれば、すぐに医療機関での処置が必要です。この場合も救急車を呼びましょう。もともと筋力が強くなく、ペットボトルのフタを自分で開けられない子どもや高齢者の場合は、水を飲み込めるかどうかを目安にしましょう」(谷口先生)。

熱中症状態のチェックと対応チャート

症状がある時は首・わきの下の「太い血管」、
症状が出る前の効率的な冷やし方には「手のひら冷却」を

ふらつく、意識が低下する、頭痛や吐き気などの熱中症の症状が出ているときには、すみやかに首や脇の下などの太い血管を冷やして体温を下げることが重要です。一方、症状が出る前に効率よく体を冷やす方法として注目されているのが「手のひら冷却」です。

手のひら冷却の仕方

手のひら冷却イメージ

緊急時の冷却の仕方

からだの冷却のイメージ

これは、洗面器に10~15℃の冷たい水を張り、5~10分間両手をつけるというもの。
「運動をして深部体温を39.2℃まで上昇させた後に手のひら冷却を行ったところ、首や脇の下を冷やすよりも効果的に深部体温が下がることが確認されています(グラフ参照)」と、日本体育大学体育学部教授の杉田正明先生。

手のひらや足裏、頬には、動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)という動脈と静脈を結ぶ血管の部位があります。「動静脈吻合は毛細血管に比べて直径が10倍と太く、血流量は約1万倍と多いため、ここを冷やすと大量の冷えた血液が体内に戻り、深部体温を効率よく冷却できるのです」(杉田先生)。杉田先生は、世界トップレベルの競技選手が暑熱環境でも運動前や運動中に手のひら冷却をすることでパフォーマンス向上や疲労回復することを確認しています。

「一般の人でも、たとえば熱中症リスクが高まる夏場の屋外での運動前に手を水に浸けたり、運動の合間にペットボトルなどで手やほほを冷やすと体温上昇を抑えられ、熱中症予防だけでなく疲労を抑え、パフォーマンスを高めることもできます。自律神経の働きも改善されるため、イライラしたときに心を鎮めたり、就寝前に行えば熱帯夜に眠りの質を高めるのにも役立つと考えられます」(杉田先生)。

ただし、この場合の水の温度は冷たすぎないことが大切です。「氷をたくさん入れるなど、冷たくしすぎると血管が収縮して血流が悪くなり、かえって適切な効果が得られなくなってしまうからです」(杉田先生)。

手のひら冷却で深部体温が下がる

グラフ

健康な成人男性10人が高温環境で深部体温が39.2℃に上昇するまでトレッドミル運動を行い、首・脇の下・そけい部を冷やしたとき、手のひら・足裏・ほほを冷やしたとき、冷やさないときの深部体温の推移を見た。結果、手のひら・足裏・ほほを冷やしたときに最も深部体温が速やかに低下した。(データ:Wilderness Environ Med. 2015 Jun;26(2):173-9.を元に作成)

(Topics)熱中症による頭痛か迷ったら頭痛薬を飲まずに、まず「冷却・水分補給」
それでおさまれば熱中症の可能性

「頭痛」は日頃から多く人が経験する症状で、熱中症のときに現れることもあります。熱中症の頭痛を判断する方法はあるのでしょうか。熱中症による頭痛は、脳が脱水状態になることや、体温上昇によって起こります。「軽くズキズキする程度から頭が割れるようなど、痛みの程度は様々。また、暑い環境にさらされたことで翌日頭痛が起こることもあります。痛みの程度や起こり方で頭痛の原因が熱中症かどうかを判断するのは難しいでしょう」と谷口先生。

では、熱中症が疑われる場合、頭痛薬を飲んだ方が良いのでしょうか?偏頭痛などの持病があると、ついいつもの薬を服用しがちです。
「結論からいえば、薬を飲む前にまず、"涼しい場所に移動し、体を冷却し、水分補給する"という熱中症への基本とされる対処を行いましょう。1時間以内に頭痛が治まれば熱中症が原因と判断できます。また、頭痛のほかに筋肉や消化器の症状があるかどうかも判断の目安になります。それらの他の症状があるなら熱中症の可能性があります」(谷口先生)。

脱水が起こっているときに、上記の対処をせずに先に鎮痛薬を飲むと思わぬ危険な症状を起こす場合もあります。
「鎮痛薬を継続的に飲んでいる人が脱水時に鎮痛薬を飲むと、筋肉の細胞に融解や壊死が起こり、腎臓に負担がかかって尿が出にくくなるなどの腎臓障害を起こし重篤化する『横紋筋融解症』を起こすことがあります」(谷口先生)。脱水症状があるときに鎮痛剤を飲むことは避けましょう。脱水は他にも別の病気や症状の原因になるので、日常的に予防することが大切です。

参照:(Topics)脱水は、熱中症だけでなく万病の原因にも。

熱中症、脱水症状時の基本とされる対処をしても良くならなければ、他の原因による頭痛の可能性も考えられます。その場合、まず頭痛薬を服用して様子を見るという選択もあります。ただし他の病気が原因になっている場合もあるので、頭痛薬でも症状が治まらなかったり、普段経験したことの無い頭痛や原因が思い当たらない頭痛の場合は、医療機関を受診しましょう。

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(Topics)脱水は、熱中症だけでなく万病の原因にも。
脱水と免疫低下の関係

熱中症を招く脱水は、実は免疫低下にもつながります。特にwithコロナの今、ウイルス感染リスクを高める危険性もあり、熱中症対策が感染予防対策につながることも知っておきましょう。
脱水がウイルス感染リスクを高める主な理由は、「気道粘膜の乾燥」、「骨髄で免疫細胞が作られにくくなる」、「腸の機能低下」の3つです。鼻から喉にかけての口腔・気道粘膜には、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入するのを防ぐための繊毛があり、正常に働くにはここがある程度潤っていることが必要です。ところが脱水症になると気道粘膜が乾燥して防御能が低下して病原体を排除しにくくなります。また、「脱水は血液を作る機能を低下させ、骨髄でリンパ球や好中球などの免疫細胞が作られにくくなります」(谷口先生)。さらに、脱水は腸の機能を低下させることで、腸管免疫機能を落としてしまうのです。
倦怠感がある、頭がふらつく、発熱や頭痛など、熱中症の症状の多くがCOVID-19の症状と共通しています。「まずは、体調不良の原因が高温や高湿度にあると疑われれば正しい熱中症対策を行ってください。これらの対策を行っても改善しない場合は原因が熱中症ではなくCOVID-19だと早期に疑えますので専門機関を受診するようにしてください」(谷口先生)。

これから毎年夏には猛暑が想定される日本で、熱中症予防の大切さを社会の皆で知っておくことは、熱中症だけでなく根本の脱水予防にもつながり、熱中症症状で苦しむ人を減らし、救急搬送による医療体制のひっ迫を防ぐためにも、大切になっていくでしょう。

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専門家プロフィール(あいうえお順)

杉田正明先生
日本体育大学体育学部体育学科教授(博士(学術))
運動生理学、トレーニング科学などを専門分野とする。日本オリンピック委員会(JOC)・情報・科学サポート部門長、日本陸上競技連盟・科学委員会委員長などを務める。
谷口英喜先生
済生会横浜市東部病院 患者支援センター長/周術期支援センター長/栄養部部長
福島県立医科大学医学部卒業。麻酔・集中治療、経口補水療法、体液管理、臨床栄養などを専門とする。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医。
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