意外と知られていない、“熱”と“痛み”の関係
2022.12.28 更新
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、“発熱”や頭痛などの“痛み”に対する関心も高まりました。もしもの備えに解熱鎮痛薬を用意している方も多いのではないでしょうか。
でも、ここで1つ疑問を感じるのが「発熱と痛みは異なる症状なのに、どうして解熱鎮痛薬は“熱”と“痛み”の両方に効くの?」ということ。
今回は、“熱”と“痛み”にまつわるこうした“謎”を解き明かします。解熱鎮痛薬のことをよく知って、上手に付き合っていきましょう。
薬局やドラッグストアでおなじみの解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)。発熱にも痛みにも効果が期待できるのは、どちらの場合も体の中で同じ物質が深く関わっているからです。それが「プロスタグランジン(PG)」と呼ばれる生体物質です。
まずは、体温上昇にプロスタグランジンがどう関係しているのか、発熱の仕組みについてみていきましょう。
「風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルスなどに感染すると、多くの方が発熱します。これは体内に侵入してきたウイルスなどの病原体を排除して、体を守ろうとする自然な生体防御反応です。体温が上がると病原体の増殖が抑えられ、また免疫細胞の一部では病原体を攻撃する力が高まり、体を守ってくれるのです。」と薬剤師の三上彰貴子先生は説明します。
もう少し詳しく説明すると、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入すると、マクロファージや好中球といった免疫細胞から、こうした異物を排除するために炎症成分サイトカインと呼ばれる物質(「インターロイキン-1(IL-1)」や「インターロイキン-6(IL-6)」など)が放出されます。これらのサイトカインが過剰に作り出され、それらが血流に乗って脳にまでたどり着くと、脳内の血管で「プロスタグランジンE2」(PGE2)というさまざまな生理活性を持つ物質が産生されます。
このプロスタグランジンが視床下部にある「視索前野」という体温調節中枢を刺激した結果、「体温を上げなさい」という指令が出されることに。すると体はそれを受けて、まずは皮膚の血管を収縮させて熱の放散を防ぎます。風邪などの引き始めに寒けがしたり、顔色が悪くなったりするのは、このため。
また、体内にある熱を生み出す力が強い脂肪(褐色脂肪組織)を燃焼させたり、筋肉をガタガタ震わせたりして、体温を上げようとします。こうして発熱が起こるわけです。
発熱が感染から体を守る自然な防御反応であるのと同様、痛みもまた体に“危険”を知らせるためになくてはならないものです。痛みが起こることで私たちは体に異常が生じたことに気づき、生命を脅かす危険から体を守ることができます。
その仕組みを三上先生は次のように解説します。
「けがややけどをすると、傷ついた細胞からアラキドン酸という物質が出てきます。そして、それをもとにして作られるのが“プロスタグランジン”という物質です。このプロスタグランジンは炎症を引き起こすと同時に、ブラジキニンという痛みを起こす物質(発痛物質)の作用を増強する働きもあります。こうして生じた痛みの信号が神経を通って脳に届き、『痛い!』と感じるのです」
このように、発熱の仕組みと同様、痛みの場合もプロスタグランジンという物質が関わっているわけです。
プロスタグランジンは多くの女性を悩ませる生理痛(月経痛)にも深く関わっています。
「月経痛は、厚くなった子宮内膜の一部を体外に排出する際に起こりますが、このとき子宮の収縮に関与しているのが、子宮内膜から分泌されるプロスタグランジンです。このプロスタグランジンの量が多いほど収縮が強くなり、月経痛が増します。特に10代では子宮頸管が狭く硬いため、子宮が過剰に収縮して月経痛がひどくなることがあります」と牧田産婦人科院長の牧田和也先生は話します。
参考:生理痛(月経痛)を我慢しない。つらいときには婦人科の受診を(思春期特有の子宮の未熟さによる不調には家族のサポートも重要に)
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実は、痛みには大きく3つの種類があるといわれています。
1つめは、「体に危険を伝える痛み」で、末梢神経にある痛みを感じる受容器(侵害受容器)を刺激して起こるため、「侵害受容性疼痛」と呼ばれています。例えば傷ややけど、打撲による痛み、緊張型頭痛や片頭痛、歯痛、関節リウマチによる痛みなどはこれに当たり、プロスタグランジンが大きく関わっています。
2つめは、神経が障害されて起こる「神経障害性疼痛」。ピリピリ、ジンジンするような痛みで、三叉神経痛(さんさしんけいつう)や坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)、帯状疱疹(たいじょうほうしん)後の長引く痛みなどが代表的です。
3つめは、体の損傷などの原因がないのに痛みが続く「痛覚変調性疼痛」というもの。脳の神経回路の変化が関係しているとみられ、2016年、国際疼痛学会で新たな中枢性疼痛として「Nociplastic pain」という概念が提唱されました※1。日本語では「痛覚変調性疼痛」と訳され、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛に続く“第3の痛み”として注目されています。全身性の激しい痛みが慢性的に続く線維筋痛症などの病気がこれに当たります。
3種類の痛みの中で市販の解熱鎮痛薬が効果を発揮するのは、プロスタグランジンが関わる痛みである1つめの「侵害受容性疼痛」です。
一方、「神経障害性疼痛」「痛覚変調性疼痛」の場合には、医療機関で処方される神経障害性疼痛治療薬や抗うつ薬などが使われます。「神経障害性疼痛に炎症による侵害受容性疼痛が合併している場合には、一般的な解熱鎮痛薬を使うこともあります」と三上先生は解説します。
※1 現代医学69巻1号(2022)
解熱鎮痛薬(げねつちんつうやく)は読んで字のごとく、熱を下げる“解熱”と痛みを鎮める“鎮痛”の両方の効果を併せ持つ薬です。前述の通り、発熱や痛みが生じる過程で深く関わっているのが「プロスタグランジン」という生体物質。市販薬として最も広く使用されているNSAIDs(エヌセイズ、非ステロイド性抗炎症薬)という種類に分類される解熱鎮痛薬には、このプロスタグランジンの産生を抑える働きがあります。
「細胞が傷つけられると、細胞からアラキドン酸という物質が出ます。このアラキドン酸にある酵素(シクロオキシゲナーゼ:COX)が作用すると、プロスタグランジンがどんどん作られるようになります。解熱鎮痛薬は、この酵素の作用を阻害することでプロスタグランジンの産生を抑えるため、痛みや発熱を和らげるのです」(三上先生)
痛みや発熱は非常につらいもの。解熱鎮痛薬は痛みや発熱時の心強い存在です。医療現場ではもちろんのこと、市販薬としてもさまざまな種類が登場していますから、上手に使って痛みや発熱のつらさを軽減しましょう。
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つらい頭痛に解熱鎮痛薬は欠かせないもの。ただし頭痛には種類があり、解熱鎮痛薬の効き方が変わってきます。それぞれの特徴を知っておきましょう。
慢性的に繰り返して日常生活に支障をきたす「慢性頭痛」は、主に「緊張型頭痛」「片頭痛」「群発頭痛」に分けられます。
慢性頭痛のうち、最も多い頭痛。頭全体が重く締め付けられるような痛みに見舞われるのが特徴です。デスクワークやパソコン、スマートフォンなどの使用で同じ姿勢が続いて筋肉が緊張したり、眼精疲労や肉体的な疲労、睡眠不足、ストレスなどがあったりすると起こりやすくなります。
ズキンズキンと脈を打つように痛む頭痛で、男性より女性に多く見られます。「女性ホルモンとの関係もあり、月経前後に片頭痛発作を起こす人も多く見られます」と牧田先生。
痛みがひどくて寝込んだり、吐き気を伴ったりするケースも。頭痛が起こる前に、キラキラ光るものが見えたりする前兆を伴うこともあります。
片方の目がえぐられるような激痛が数週間から数カ月間、ほぼ毎日続くものです。こちらは罹患率は高くありませんが、男性に多い頭痛で、明らかな原因はまだわかっていません。
「このうち解熱鎮痛薬が頼りになるのは、プロスタグランジンが関わる緊張型頭痛や軽い片頭痛です。
解熱鎮痛薬は発痛物質が作られる過程を阻害して痛みを抑える薬です。そのため、痛みがひどくなってから飲んでも既にたくさんの発痛物質ができているためにあまり効いたように感じなかったり、すぐに効果を実感できなかったりすることがあります。ですから、痛みが始まったら早めに服用するのが効かせるコツです。ただし、薬で抑えられるからと頻繁に服用したり、飲む量が増えたりする場合(目安として1カ月に10日以上解熱鎮痛薬を服用)は、かえって頭痛が悪化する危険がありますから注意が必要です。そのような場合は、必ず医療機関を受診してください。症状が重い片頭痛や群発頭痛の場合は、我慢せず早めに医療機関で診てもらいましょう。できれば頭痛専門外来での受診をおすすめします」と牧田先生はアドバイスします。
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新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、ストレス性の発熱を訴える人が増えたといわれています。「もしや新型コロナウイルスに感染したのでは?」などという不安から体温が上がり、微熱が続くというものです。
牧田先生は「37℃程度の熱が出るが、検査をしても異常が見当たらないという不明熱の方を以前から時々見かけますが、コロナ下では体温測定の機会が増えたり、発熱に敏感になったりして、微熱に気づきやすくなっている面もあるようです」と言います。
このようなストレス性の発熱は、「心因性発熱」や「機能性高体温症」と呼ばれています。感染症などによる発熱とは仕組みが異なり、プロスタグランジンが関与しないため、解熱鎮痛薬の効果が期待できません。医療機関で処方される、不安を和らげる薬などで改善することがあるといわれています。
前編では、発熱と痛みは異なる症状であるものの、「プロスタグランジン」という共通の生体物質が関与することで症状が出るため、解熱鎮痛薬が“痛み”にも“発熱”にも効果を示すということをご紹介しました。
後編では、解熱鎮痛薬の種類、選び方、使い方のコツなどについてご紹介します。