“自律神経”―よく聞くけど、実はどうなっている?
2023.3.8 更新
「現代人は自律神経が乱れがち」「自律神経のバランスが大切」など、よく「自律神経」という言葉を使っていませんか?でも、実は自律神経がどのようなもので、どんな働きをしているのか、よくわからないという方も多いのではないでしょうか。今回は、心身の健康維持にとても重要な役割を果たしている自律神経について、わかりやすくご紹介します。
特に理由が見当たらないのになんとなく調子が悪い、やる気も出ない……。そんなことはありませんか?「長引く新型コロナ感染症に対応するため生活が不規則になったり、運動不足になったり、ストレスを感じたりして、さまざまな不調を訴える人が増えています。その背後にあると考えられるのが自律神経の乱れです」。こう指摘するのは、順天堂大学医学部教授の小林弘幸先生です。
自分の自律神経の状態が気になる方は、下のセルフチェックをしてみましょう。
これらは自律神経の乱れによって起こる代表的な症状。思い当たる項目があれば、自律神経が乱れている可能性があります。当てはまる数が多いほど自律神経の乱れが大きいといえます。
(監修:順天堂大学・小林弘幸先生)
考える、体を動かす、痛いと感じる、暑いと自然に汗が出てくる、夜になると眠くなり朝になると目が覚める……。こうした全ての生命活動を支えているのが「神経」です。
私たちの体の中には脳から臓器、手足の末端に至るまで網の目のように神経が張り巡らされています。
「1本1本の神経線維は非常に小さいですが、仮にそれらをつなぎ合わせると脳の中だけでも約16万km、地球4周分にも上るといわれています。もちろん、全身の神経も含めると、それを遥かに上回るものになります。体内を縦横に走る膨大な数の神経が、常に情報のやりとりをしながら、私たちの生命活動を支えているのです」と理化学研究所生命機能科学研究センターチームリーダーの渡辺恭良先生は話します。
この神経は、大きく「中枢神経」と「末梢神経」に分けられます。さらに末梢神経は「運動神経(体性神経)」と「自律神経」に分かれています。運動神経と自律神経の大きな違いは、意思によって動かせるかどうかです。運動神経は自分の意思で動かすことができますが、自律神経は動かすことができません。
自律神経は、その名前の通り、体が自律的に働く神経なのです。そして自律神経は私たちの意思とは関係なく、呼吸や体温、血圧、心拍、消化、代謝、排尿・排便など、生きていく上で欠かせない生命活動を維持するために24時間365日、休むことなく働き続けています。
「自律神経は全身に隈なく張り巡らされており、その中枢は脳の視床下部にあります。自律神経はあらゆる臓器の働きを制御し、ストレスや環境の変化などに応じて体を微調整しながら、全身を最適な状態に保っているのです」(渡辺先生)
自律神経は、「交感神経」と「副交感神経」に分けられ、それぞれが異なる働きをします。交感神経は、活動するときに働く神経で、副交感神経は、休息やリラックスをするときに働く神経です。基本的に、全ての臓器は交感神経と副交感神経の支配を受け、交感神経がアクセル、副交感神経がブレーキの役割を果たしているのです。
例えば運動時には心拍数が増え、血管が収縮し、血圧が上がります。これらは交感神経の働きによるもの。一方、家でのんびりしているときは心拍数が減り、血管が緩み、血圧も下がります。こちらは副交感神経の働きによるものです。このように活動時には交感神経が優位になり、休息時には副交感神経が優位になるというように、2つの神経が交互に働くことで体を調整しています。
(イメージ図)
交感神経と副交感神経は各臓器などに対し、それぞれ相反する働きをしています。両者がシーソーのようにバランスをとりながら働き、体を最適な状態に保っています。
交感神経と副交感神経の働きは1日の中でリズムがあり、時間帯によって変化しているのも特徴です。仕事や学校などで活動する日中は交感神経が優位になり、休息や睡眠に向かう夜は副交感神経が優位になります。
昼間はしっかりと動いて、夜になると自然と眠くなり、そして翌朝はまた活動に向けて体が動き出す……。こういった健康的な毎日を支えているのが、自律神経の規則正しいリズムなのです。
ところが、夜更かしをしたり朝寝坊をしたり、食事の時間がバラバラだったり、ストレスが多かったりすると、自律神経のバランスが乱れます。
例えば仕事に追われて常にストレスを抱えていると交感神経が過度に働き、緊張が続いたり、イライラしたりしやすくなります。同時に副交感神経の働きも抑えられるため、睡眠の質が低下したり、胃腸の働きが悪くなったり。その結果疲れがたまり、さまざまな不調が現れるようになるのです。
「交感神経の働きが大きくなり過ぎる(優位になる)と、血管が収縮して血流が低下します。交感神経が過度に働くような毎日を送っていると血流の悪い状態が続き、肩こりや頭痛、手足の冷え、肌あれなど、いろいろな不調を招くことになるのです」と小林先生は注意を促します。
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よくあるご質問また、自律神経の働きが全体的に弱くなる「トータルパワー不足」になることもあります。トータルパワーとは、交感神経と副交感神経を合わせた「自律神経全体の活動量」を示す総合力のこと。これには性差があり、一般に女性より男性の方が大きいといわれています。
「トータルパワーは“出力”と考えると理解しやすいでしょう。神経細胞は電気信号によって情報伝達を行っていますから、体の大きい人の方が信号を遠くまで伝える必要があります。つまり、出力が大きくなるわけです。
私たちが以前行った研究では、男性の方がトータルパワーの値が高い傾向にあり、また女性の交感神経/副交感神経パワー比より高い状態にあるという結果でした」と渡辺先生。
交感神経/副交感神経のパワー比は、交感神経と副交感神経の全体のバランスを表しており、数値が高いと交感神経優位、低いと副交感神経優位となると考えられています。
トータルパワーは加齢によっても低下します。小林先生の研究グループが99人の男女を対象に自律神経の機能を調べた研究※によると、男性は特に30代から、女性は40代から機能が低下していくことが分かったそうです。
「トータルパワーは男女とも加齢に伴って低下します。中でも副交感神経の機能低下が顕著でした。若いころ少しぐらい無理をしたり、夜更かしをしてもすぐに回復しますが、年をとると休んでも疲れが取れにくくなったと感じたり、不調が現れやすくなったという人もいるのではないでしょうか。その背景には加齢に伴う自律神経のトータルパワー不足があると考えられます」(小林先生)
※ Anti-Aging Medicine, 2010 7(8) : 94-100
性差や年齢以外にも、自律神経に影響を及ぼす要因はいろいろあります。東急病院心療内科の伊藤克人先生によると、これらの要因には「心理的ストレス」「身体的ストレス」「不規則な生活」があるといいます。
心理的ストレスは、不安や緊張、イライラ、抑うつ、怒り、悲しみといった不快な感情をもたらすものです。
例えば職場や家庭の人間関係、仕事や学業のプレッシャー、ハラスメントなどのほか、昇進や結婚といった一見すると好ましい出来事でも人によってはストレスの元になることがあります。
「心理的ストレスを受けると、交感神経が優位になります。不安や緊張、恐怖などの感情は情動を司る脳の大脳辺縁系というところで生まれますが、その信号が自律神経の中枢である視床下部に伝わり、交感神経を刺激するのです。心理的ストレスを感じたときに動悸がしたり、手に汗をかいたり、青ざめたりするのは、このためです」と伊藤先生。
一方、身体的ストレスは、疲労や寝不足、ホルモンバランスの乱れ、運動不足、病気、けが、天候の変化などが原因になります。女性の場合には、生理周期や更年期に伴うホルモン分泌のゆらぎや乱れも自律神経の働きをアンバランスにしやすく、さまざまな不調が出てきやすい時期です。
また、最近よく耳にする「気象病」は、気温や気圧などの変動が身体的ストレスとなって自律神経を乱し、体調不良を招きます。
不規則な生活も自律神経を乱す大きな要因です。夜更かしや昼夜逆転の生活、不規則な食事時間、食事抜きなどで生活リズムが崩れると、それに連動するように自律神経のバランスも乱れてきます。
「心理的、身体的ストレスや不規則な生活が続くと、やがて自律神経のバランスが乱れ、頭痛や肩こり、動悸、めまい、下痢、便秘など、さまざまな自律神経失調症状が出てきますので、注意が必要です」(伊藤先生)
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心理的ストレス | 身体的ストレス | 不規則な生活 |
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心理的ストレス
など
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身体的ストレス
など
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不規則な生活
など
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(監修:東急病院・伊東克人先生) |
自分の自律神経の働きがどうなっているのか、気になるところでしょう。自律神経の機能を測定する方法はいくつかありますが、近年、よく用いられているのが心拍の変動を基に測定する方法です。
「心臓はリズムよく拍動を繰り返していますが、実は一拍一拍に微妙なズレがあります。これは自律神経の働きによって生じるものです。そこで、この心拍変動を周波数として解析することで、交感神経と副交感神経のバランスや自律神経全体のトータルパワーが分かります」と小林先生は説明します。
測定した結果は、交感神経は主に「LF(Low Frequencyの略=低周波)」、副交感神経は「HF(High Frequencyの略=高周波)」、両者のバランスは「LF/HF」で表されます。LFつまり交感神経の活動が副交感神経より2倍以上高い場合は、「交感神経優位」と考えられます。
またLFとHFの総和が、自律神経全体の働きを示すトータルパワーです。トータルパワーの値は疲労や加齢によって低下することが分かっています。
最近では、脈拍などから簡易的に自律神経を測定するウェアラブル機器も登場。また、指の脈拍や血流状態から簡単に測定できる方法も出てきました。こうした機器を利用すれば、24時間持続的に自律神経の状態を測定することも可能です。
機器によって精度の差はありますが、自律神経の状態を知る一つの方法として健康管理に利用するのもよいでしょう。
新型コロナウイルス感染症拡大の中で大きく変わった働き方。その代表がリモートワークの普及でしょう。満員電車に揺られて通勤するストレスは減りましたが、時間が比較的自由になることで生活リズムが乱れたり、運動不足になったりして、自律神経が乱れやすくなっているようです。また、これまでにはなかった新たなストレスが生まれていると、伊藤先生は指摘します。
「会社に行けば大勢の人がいますから、情報のやりとりも簡単にできますし、周りの人が何をしているのかもすぐに分かります。ところが、リモートワークでは何か聞きたいことがあっても気軽にたずねることに気がひける人が少なくありません。これまでに経験したことのない働き方にストレスを感じ、不安や緊張、体調不良を抱えている方が年齢を問わず多く見受けられるようになりました」
心当たりのある方はストレスや自律神経の乱れがひどくならないよう、運動をしたり、友人とおしゃべりをしたり、趣味の時間を持ったりしてリラックスを心がけましょう。
前編では、自律神経のしくみについて紹介してきました。
次に後編を読んで、自律神経の乱れが引き起こす症状やリスク、対策について知りましょう。