シニアになるにつれて、体にはどのような変化が現れ、日常生活や薬選びにどう影響してくるのでしょうか。
(「シニア」には年齢の定義がなく、また高齢に伴う生理機能の変化には個人差がありますが、当コンテンツでは、添付文書・使用上の注意での「高齢者」に該当する65歳以降をシニアと記載しています。)
個人差はあるものの、人間の体には、年齢を重ねるに従いさまざまな変化が現れ、また心臓、肺、肝臓、腎臓など多くの臓器や組織の働きは低下してきます。
なかでも注意したいのが、腎機能と肝機能の低下です。薬は肝臓で分解され、腎臓で排出されるため、これらの機能が低下すると薬の代謝と排出が遅くなり、薬の効果が強く出過ぎて副作用が現れやすくなる可能性があるからです。
また、加齢とともに体内の水分量が少なくなり、脂肪の量が多くなる傾向にあります。そのため脂肪に親和性のある薬が脂肪に溶け込む量が増えて体内に留まりやすくなることも、薬の作用が強く現れやすくなる一因といわれています。
シニアになると、免疫機能が低下してきます。免疫とは、病原菌や毒素などの異物の侵入から体を守る、生来私たちの体に備わっている機能であり、生体防御機能ともいいます。この免疫機能も年齢とともに衰えていくので、若い頃は比較的簡単に治っていた病気でも回復しづらくなったり、インフルエンザなどにかかった場合も重症化しやすくなったりすることもあります。
こうしたことから、これまでと同じ症状に同じ市販薬で対処していても、回復しづらくなっている場合があります。一定期間で症状がよくならないときは、早めに病院で受診することをおすすめします。
シニアになると、個人差はありますが、筋力や視力、お口のはたらきが徐々に低下していきます。このため、薬の誤飲や気管に入り込んでしまう誤嚥の危険があり、事故が起こらないように注意する必要があります。
また75歳以上の後期高齢者になると記憶力も低下しやすく、飲んだかどうかを忘れて2回飲んでしまったり、飲み忘れ、飲み間違いなども招くことがあります。
市販薬だけでなく、病院で処方された薬も併用して日常的に飲んでいる方も多いことでしょう。特に複数の薬を服用している場合には、薬の袋にあらかじめ服用予定日を記入しておく、カレンダーに服用する日を記録しておくなど、工夫が必要です。
75歳以上の後期高齢者になると、年齢を重ねることで「体力や気力の衰え」を感じやすくなる方は多いことでしょう。このような状態は従来「老衰」や「虚弱」などと呼ばれていましたが、現在は日本老年医学会により「フレイル」という用語で定義されています。
フレイルとは、加齢による心身の衰えのために病気やストレスから回復する力が弱まった状態で、介護を要するような障害はまだ起こっていないものの、病気の概念では捉えきれない筋力や活力の低下がある「健康と要介護の中間」の状態です。些細なストレスで要介護に至ってしまうリスクが高いことから、早めに気づき予防することがすすめられています。
フレイルは薬選びにも影響します。日本老年医学会では、75歳以上の人に加え、75歳未満であってもフレイルや要介護状態にある人に対して、特に薬の投与を慎重に行うようガイドラインを作成しています。ガイドラインに記載される薬剤は抗パーキンソン病薬や抗うつ薬、循環器疾患の薬など病院で処方される薬が中心ですが、酸化マグネシウムやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)など市販薬で配合される成分も(腎機能低下時の利用による副作用や腎機能低下原因になるなどから)利用上の注意が記載されています。
説明書(添付文書)に、使用上の注意として「相談すること」の項目に「高齢者」と書いてある市販薬も多いので、必ず読んで、自分の体調や持病の状況などを医師・薬剤師または登録販売者に相談してから使用するようにしましょう。
下記の表を参考に、まずはフレイルおよび予備群のチェックをしてみましょう。
質問 | 1点 | 0点 |
---|---|---|
6カ月で2~3kgの体重減少がありましたか? | はい | いいえ |
以前に比べて歩く速度が遅くなってきたと思いますか? | はい | いいえ |
ウォーキングなどの運動を週に1回以上していますか? | いいえ | はい |
5分前のことが思い出せますか? | いいえ | はい |
(ここ2週間)訳もなく疲れたような感じがしますか? | はい | いいえ |
3つ以上該当:フレイル、1~2つ該当:プレフレイル
一般社団法人日本老年医学会、国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
「フレイル診療ガイド2018年版」より
フレイルを予防することで、要介護状態を先送りにすることができます。快適なシニアライフを送るためにも、次のことを心がけましょう。
本文監修:国立長寿医療研究センター 老年内科医長 佐竹 昭介 先生