治療が始まる前からスキンケア

抗がん剤や分子標的薬などのがん薬物治療を受けると、皮膚や汗の分泌が少なくなり、乾燥肌になりがちです。
治療が始まる前からスキンケアを心がけ、肌の調子を整えておくことも大切です。日頃から行いたいスキンケアは大きく3つに分かれます。皮膚を清潔に保つ「洗うケア(保清)」、皮膚にうるおいを与える「塗るケア(保湿)」、紫外線などの刺激を避ける「防ぐケア(保護)」です。
スキンケアの絶好のタイミングはお風呂タイムです。入浴中やお風呂あがりにゆっくりと時間をかけて、自分の肌をいたわってあげることを毎日の習慣にしたいものです。

洗う・塗る・防ぐの保湿ケアでバリア機能を守る

「洗う」「塗る」「防ぐ」の3つのスキンケアに共通するキーワード。それは肌のうるおいを保ち、「バリア機能」を守ることです。
バリア機能というのは、表皮の一番上の角質層が乾燥と外部刺激から肌を守る役割のこと。バリア機能を正常にキープするには、正しく洗う・塗る・防ぐのケアを行って、肌のうるおいを保ちバリア機能をサポートすることが大切です。

健康な皮膚のイメージ図
洗う

Section 01

洗うケア(保清)

お風呂タイムで実践したい第一のスキンケアは、肌を清潔に保つための「洗うケア」です。「洗うケア」でとくに心がけたいのは、自分にあった肌に負担をかけすぎない洗浄料を選ぶとともに、肌の保湿成分を洗い流してしまわないようやさしく洗うことです。

Point 01

洗浄料は低刺激性・弱酸性製品がおすすめ

顔やからだを洗うための洗浄料は、肌に余計な負担をかけにくい低刺激性・弱酸性のものがおすすめです。弱った肌には肌へのやさしさを考えた洗浄料を選ぶことが大切です。

Point 02

洗浄料をよく泡立てる

洗浄料は泡状で出てくるポンプ式のタイプを選ぶか、液体タイプであれば、肌に直接つけず、泡立てネットやスポンジを使ってよく泡立てて、手洗いすることが大切です。泡で手洗いすることにより、肌への刺激が少なくなります。

洗浄料の泡立て方

  1. 1
    容器に温水を少し入れる

    容器に温水を少し入れる

  2. 2
    石けん水をつくる

    石けん水をつくる

    • 固形石けんは、2、3回お湯のなかで手を転がすようにする
    • 液体洗浄剤は、2、3プッシュ入れる
  3. 3
    手を泡立て器のように使い、空気を入れていく

    手を泡立て器のように使い、空気を入れていく

  4. 4
    ふんわりとした泡立ちになるまで空気を入れていく

    ふんわりとした泡立ちになるまで空気を入れていく

  5. 5
    その泡を用いてからだを洗う 十分に汚れがとれ、さらに刺激が少なくなる

    その泡を用いてからだを洗う
    十分に汚れがとれ、さらに刺激が少なくなる

  6. 悪い例
    泡立ちが不十分

    泡立ちが不十分

Point 03

ぬるめ(38~40度)のお湯で流す

熱いお湯は保湿成分のひとつである皮脂膜を取り除いて肌を乾燥させてしまうので、38〜40度のぬるめのお湯で流すようにします。お風呂の温度も38〜40度の低めの温度に設定しましょう。

Point 04

手でやさしく「なで洗い」を

円を描きながら、肌を泡でなでるようなイメージでやさしく洗ってあげましょう。汚れは皮膚の表面に存在するので、なでるだけでも十分に汚れを落とすことができます。ゴシゴシ洗いや洗いすぎは禁物です。

「なで洗い」の洗い方

  1. 1
    手のひらを使って、汚れを泡になじませるように洗う

    手のひらを使って、汚れを泡になじませるように洗う

  2. 2
    円を描きながら、肌を泡でなでるように洗う

    円を描きながら、肌を泡でなでるように洗う

Point 05

タオルを使うなら出来るだけ柔らかいものを選ぶ

からだや顔を洗うときは手のひら洗いが基本ですが、ボディタオルを使う場合は、ナイロンタオルなど刺激の強いものは使わずに、出来るだけ柔らかいタオルを選ぶようにしてください。

Point 06

すすぎ残しに注意

洗い残しが多いのは、耳の後ろ、首、脇、背中、股、足の裏、指の間などです。洗浄料の成分が肌に残っていると刺激になるので、十分に洗い流すことが大切です。すすぎ残しを防ぐには、泡切れのよい洗浄料アイテムを選ぶことも効果的。
お風呂から出る前に、すすぎ残しがないか全身をチェックしましょう。

Point 07

柔らかいタオルで水気をふき取る

水気をふき取るときは、肌をこすらずに、やさしい柔らかい素材のタオルでそっと軽く押し当てるようにして水分を吸収させます。拭きながらからだをこすってしまわないように気をつけましょう。

Point 08

正しい手の洗い方をマスターしよう!

抗がん剤による皮膚障害のひとつに、手足の爪のまわりに炎症が起きる「爪囲炎」があります。予防のためには、普段から爪のまわりを清潔に保つことが大切です。感染予防のためにも正しい手洗いの方法を覚えておきましょう。

正しい手の洗い方

  1. 1
    流水でよく手を濡らした後、石けんをつけ、手のひらをよくこする

    流水でよく手を濡らした後、石けんをつけ、手のひらをよくこする

  2. 2
    手の甲を伸ばすようにこする

    手の甲を伸ばすようにこする

  3. 3
    指先・爪の間を念入りにこする

    指先・爪の間を念入りにこする

  4. 4
    指の間を洗う

    指の間を洗う

  5. 5
    親指と手のひらをねじり洗いする

    親指と手のひらをねじり洗いする

  6. 6
    手首も忘れずに洗う

    手首も忘れずに洗う

Point 09

頭皮のケアも忘れずに

頭皮は皮脂量は多いですが、乾燥しやすい部位です。頭皮トラブルやフケ・かゆみを防ぐには、バリア機能を守りながら洗うことのできる刺激の少ない弱酸性のシャンプーやコンディショナーを選ぶことをおすすめします。髪の毛を洗うときは、ぬるめのお湯を使い、爪を立てず、指の腹で頭皮をやさしく洗うようにします。もちろん洗ったあとは洗浄料が残らないようによく洗い流すことが大切です。

塗る

Section 02

塗るケア(保湿)

洗うケアが済んだら、次は「塗るケア」です。お風呂あがりはとくに肌が乾燥しがちです。クリームやローションなどの保湿剤を使って皮膚にうるおいを補給しましょう。使うときの最大のポイントは「たっぷり塗る」こと。控えめな量では効果は半減してしまいます。

Point 01

保湿剤も低刺激性・弱酸性製品を選ぶ

洗浄料と同じように、保湿剤も低刺激性・弱酸性のものを選ぶことがポイント。軟膏、クリーム、ローションなどさまざまなタイプがあるので、好みや塗り心地などで自分に合ったものを選びましょう。セラミドやアミノ酸など肌の保湿成分が配合された製品もおすすめです。

Point 02

季節や状況によってアイテムを使い分ける

たとえば、発汗の多い夏場は、一見皮膚はうるおっているようでもバリア機能は低下しているので、べたつきの少ないローションタイプを選びます。一日の中でも、朝や昼は簡便なローション、夜はしっかり保湿できるクリームを使うといったようにアイテムを変えてみるのもよいでしょう。

Point 03

お風呂あがりは素早く保湿する

入浴や洗顔後は、どんどん肌の乾燥が進んでしまいます。お風呂から上がったら、出来るだけ早く保湿剤を塗りましょう。入浴後は急激な湿度差によって肌の水分は一気に奪われてしまうので、できれば入浴後15分以内に保湿をしたいものです。

Point 04

普段から保湿の習慣を

入浴や洗顔後だけではなく、手を洗ったあとなど普段からこまめに(一日に数回程度)保湿剤を塗る習慣をつけましょう。また、季節や気候にかかわらず、一年中常に保湿することを意識しましょう。保湿は、歯みがきをするのと同じように習慣づけることが重要です。

Point 05

保湿剤はたっぷりと使う

クリームやローションなどはしっとりするくらいたっぷり塗ることが大切です。肌につけたティッシュペーパーが落ちないくらいがひとつの目安です。また、外用薬の使用量の目安に使われている「FTU(フィンガーチップユニット)」という基準を参考にするのもよいでしょう。クリームなどの場合はチューブに入った外用剤を人差し指の先から第1関節の長さまで出した量を1FTUといいます。これが手のひら2枚分の広さの皮膚に塗る目安です。ローションの場合は1円玉くらいの大きさが1FTUになります。塗る量の目安は、首と顔は2FTU、片腕で3FTU、胸・腹・背中はそれぞれ7FTU、足は片脚で6FTUです。

保湿剤の塗布量の目安

保湿剤の塗布量の目安
Point 06

保湿剤はたっぷりと使う

必ず清潔な手で塗りましょう。指にとった保湿剤を塗りたいところの数か所にポンポンと置いて、皮膚をこすらずに、指先ではなく手のひらで押さえるようにしながらやさしく伸ばしていきます。腕や脚に塗るときは、縦方向に伸ばしてしまいがちですが、肌のキメの向きに沿って横方向に塗りこむのがコツです。正しい塗り方をすれば保湿剤の効果はよりアップします。

保湿剤の塗り方

保湿剤の塗り方
Point 07

入浴剤は保湿成分配合のものを使う

入浴剤は単にからだを温める目的だけではなく、成分もチェックして保湿力の高いもの、保湿成分が入った入浴剤を選ぶのが良いでしょう。

Point 08

保湿後に肌を保護する

案外忘れがちですが、足の裏の皮膚を保湿することも抗がん剤による皮膚トラブルの予防には重要です。乾燥を防ぐため、保湿剤を塗ったあとに靴下で肌を保護することもおすすめです。

Point 09

ハンドクリームを効果的に使う

からだの中でいちばん乾燥しやすい部位は実は「手」です。とくに、コロナ禍でアルコール消毒や手洗いの機会が増え、乾燥による手荒れに悩んでいる人も多いのではないでしょうか。そういう時は、乾燥の予防のためにもハンドクリームを有効に使いたいものです。ベタつきの少ない全身用の保湿クリームをハンドクリームとして使用するのもおすすめです。

保湿剤の塗り方

  1. 1
    手の甲にダイズ4個分のせる

    手の甲にダイズ4個分のせる

  2. 2
    片手でもう片方の手の甲をやさしく押さえ、クリームをなじませる

    片手でもう片方の手の甲をやさしく押さえ、クリームをなじませる

  3. 3
    指全体を1本ずつ逆手で包み込み、指の間にもなじませる

    指全体を1本ずつ逆手で包み込み、
    指の間にもなじませる

  4. 4
    乾燥しやすい指先、爪の周囲も、円を描くように親指の腹でなじませる 逆側の手も同様に①〜④を行う

    乾燥しやすい指先、爪の周囲も、円を描くように親指の腹でなじませる
    逆側の手も同様に①〜④を行う

  5. 5
    両手の甲を重ねて甲全体になじませる

    両手の甲を重ねて甲全体になじませる

  6. 6
    手関節部や手の側面に広げる

    手関節部や手の側面に広げる

防ぐ

Section 03

防ぐケア(保護)

さまざまな外部刺激から肌を保護することも重要なスキンケアです。とくに、日焼けは皮膚にダメージを与え、シミやそばかす、たるみ、シワの原因になります。さらに、肌のうるおいを奪ってバリア機能を低下させるので、しっかりとした紫外線対策が必要になります。

Point 01

外出時はSPF値30以上の日焼け止めを

日焼け止めは少なくともSPF値30以上の製品を選ぶことが重要です。また、低刺激性、ノンケミカルの製品もおすすめです。
長時間にわたって外にいるときは、日焼け止めを2〜3時間ごとにこまめに塗り直すのがベストです。

※SPFは日焼けして赤くなる急性の炎症を起こす紫外線B波(UVB)を防ぐ指標で、数字が大きいほどUVBカット効果が高く、最大が50以上で「50+」と表記されます。

Point 02

紫外線対策はオールシーズンで

日焼けというと夏のイメージですが、紫外線対策は一年を通して必要です。肌に炎症を起こして日焼けの原因になるUVBは4月頃から夏にかけて強くなります。一方、肌の奥まで届いてシミやシワの原因になる紫外線A波(UVA)は一年中地上に降り注いでいます。しかも、UVAはガラスを通して室内にも入ってきます。「紫外線対策はいつでもどこでも」と心がけ、肌へのやさしさを考え、バリア機能をサポートする日焼け止めを選びたいものです。

紫外線の種類と皮膚の症状

紫外線の種類と皮膚の症状
Point 03

外出時は紫外線を避ける工夫を

外出時は肌の露出部分はなるべく少なくしましょう。帽子や日傘、長袖の上着、手袋などを上手に使って紫外線を避ける工夫も必要です。

Point 04

肌に触れる衣類にも気をつかう

衣類や靴下など身につけるものにも注意しましょう。肌への刺激が少ない、ゆったりとした綿やシルクなどの素材のものを選ぶようにします。化学繊維は肌に合わない方がいらっしゃるので注意が必要です。皮膚への刺激を避けるために、縫い目がなるべく少ないものを選び、首の部分のタグは切るようにするとよいでしょう。衣類を洗濯する際に、洗剤をよくすすぐことも大切です。

Point 05

化粧品は低刺激性で肌へのやさしさを考えたものを選ぶ

基礎化粧品やメイク用品も低刺激性で肌にやさしいものを選びましょう。メイク落としは、ジェルタイプか乳液タイプのクレンジング剤を選び、肌になじませるように使います。なじませたら、クレンジング剤が肌に残らないように十分にすすいでください。

「洗うケア」「塗るケア」「防ぐケア」
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