具体的な対処方法 爪囲炎
アセスメントの注意点
爪囲炎(爪周囲炎)は分子標的薬、特にEGFR阻害薬では高頻度で出現する皮膚障害です。タキサン系の抗がん剤では陥入爪から爪囲炎を併発することもあります。足では第1指(親指)に好発します。一般に爪囲炎は足に生じることが多いですが、分子標的薬では手指にも好発することが特徴です。
初期は痛みなどの自覚症状がない場合も多く、気づきにくいので注意が必要です。症状が悪化して浸出液や疼痛を伴うようになると、日常生活に支障をきたし患者さんのQOLは損なわれます(表)。重症化するとがん薬物療法を中断しなければならなくなる場合もあるので、早期に発見して対処することが大切になります。
表 爪囲炎の重症度評価
注釈:この、皮膚障害の重症度評価(分類)は、有害事象の評価であるCTCAE v5.0に準じているが、患者さんの自覚症状・日常生活への影響を重視して作成した。
軽症:軽い皮膚症状がみられるが、不快な自覚症状はなく、日常生活に差し支えない
中等症:皮膚症状が明らかにみられ、不快な自覚症状を時に感じ、日常生活の作業に差し支える
重症:皮膚症状が強く、不快な自覚症状を常に感じ、日常生活の作業が著しく制限される
軽症 | 顔面を中心に全体で20個前後の丘疹、膿疱を認める。疼痛、そう痒はない。日常は気にならない |
---|---|
中等症 | 顔面、躯幹に全体で50個前後の丘疹、膿疱を認める。疼痛、そう痒を時に感じる。症状について他人から指摘される |
重症 | 顔面、躯幹、四肢に全体で100個前後の丘疹、膿疱を認める。疼痛、そう痒を常に感じる。他人との面会が億劫である |
著作権:皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議(無断複製禁止)
山本有紀, 他 : Prog. Med. 2020 ; 40(12):1315-1329より作表
観察のポイント
- 爪の周りが赤くなったり、はれたりしていないか(軽度)
- 爪の横の皮膚が爪を巻き込むように盛り上がっていないか
- 浸出液や爪の陥入に伴う肉芽がないか
- 手は毎日見る機会が多く患者さん自身でも症状を発見しやすいが、足は靴や靴下をはいているために気づきにくいので意識してチェックする
- 足を見せるのに抵抗がある患者さんもいるので、訴えを聞くだけでなく、実際に観察することが大事
- 足の爪囲炎で強い痛みを伴うと歩行に影響することもあるので、歩き方に変化がないかを観察する
- 疼痛などによって仕事や家事などの日常生活動作に支障が生じていないか確認する
- 足白癬(水虫)があるとステロイド外用薬で悪化するので、足白癬がないかどうかチェックして、治療をする
重症化予防のためのセルフケア指導
清潔・保湿・保護などの通常のスキンケア(前項「ざ瘡様皮疹」を参照)に加えて、爪やその周囲を物理的に圧迫しないようにするための処置が必要になります。爪の切り方、テーピング、靴の選び方など局所の圧迫を和らげる方法について患者さんと相談し、継続可能なセルフマネジメントの方法について提案しましょう。
患者指導のポイント
- 爪周囲に出血や浸出液、痛みがある場合でも石けん(洗浄剤)でよく洗う。洗い方は、爪の上に泡立てた洗浄剤をしばらくのせて汚れを浮き上がらせ、圧の弱いシャワーで洗い流すようにする
- 皮膚が乾燥しないうちに保湿剤を塗る
- 深爪はせず、指先から爪が1~2mm出るくらいに切る
- 陥入爪の予防のため、足の爪はかどを残して先端を切るスクエアカットにするよう指導する(「生活で役立つ」のページ参照)
- スクエアカットで爪を切った後、ネイルファイル(爪用のやすり)を使って形を整えると強い衝撃にも耐えられる
-
ハンドクリームを塗る。その際、塗り残しを防ぐために爪周囲の皮膚だけでなく爪自体にも塗るようにする(図1)
- 塗り薬や保湿剤を塗った後は、しばらくの間、綿の手袋や綿の指サックを使用して保護する
- 水仕事をする際は、ハンドクリームを塗って保湿をし、ゴム素材が刺激になることがあるので、綿の手袋をしてからその上にゴム手袋をつけて防御する
- 指先に症状があると何かに当たっただけで痛いので絆創膏を巻く患者さんがいるが、絆創膏による圧迫が症状悪化につながる場合もあることを指導する
- 足に爪囲炎がある場合は圧迫を防ぐために、靴はきつくなく、はきやすいものを選ぶ。逆に、ゆるすぎる靴も足が動いて爪に負担がかかるのでNG
- 新型コロナウイルス感染予防のためのアルコール消毒薬は刺激になるので、使いすぎに注意する。その際は、流水と石けん(洗浄剤)で手洗いにする
サポーティブケア
保湿剤によるスキンケア、ステロイド外用薬(使い方は前項「ざ瘡様皮疹」を参照)、ミノサイクリン内服などが行われますが、有効性が確立された支持療法はまだありません。肉芽が形成されている場合は、強めのステロイド外用薬の使用や、医師の指示により、テーピング法、部分抜爪、液体窒素で肉芽を凍結させて固める凍結療法などの皮膚科的処置が行われることもあります。また、細菌感染を合併したときは短期間の抗生剤内服も行われます。
患者指導のポイント
- はれが強い場合は強めのステロイド外用薬の使用に加えて、患部を冷やす
- 薬を塗りにくい局所には綿棒につけて塗るよう指導する
-
はれた皮膚や肉芽が爪の横にかぶってきている場合は「テーピング法」を指導する。方法は、盛り上がった肉芽を爪からはがすように引っ張りながら、テープで固定する。その際、指先の血液循環が悪くならないようにテープをらせん状に巻く(図2)
-
爪の際に肉芽が形成されて爪が食い込んでいる場合は、「スパイラルテープ法」を指導する(図3)
- 爪が肉に食い込んで痛みが強い場合は、原因になっている爪を部分的に切除(部分抜爪)し、医師の指示により爪を作る部分に組織腐食作用のあるフェノールを塗って再発を防ぐこともある(フェノール法)
- 分子標的薬による爪囲炎の場合、全抜爪は爪甲を失うリスクがあり基本的に勧めない
- 肉芽が爪の上までかぶるように増殖している場合は、アクリル樹脂製のつけ爪をつける方法もある。特に足の爪囲炎では靴をはいたときの痛みが軽減される
アピアランスケア
特に女性にとって、自分で直接見ることの多い指先の外見上の変化は気持ちが落ち込む原因になることが少なくありません。医師と相談の上で可能なネイルケアを提案することも、患者さんのアドヒアランスの向上につながります。まだ、エビデンスは高くありませんが、患者のQOL維持のために、爪の変色のカモフラージュとしてマニキュア(ネイルポリッシュ・ネイルエナメル等)を用いることもあります。透明や薄い色のマニキュアやペディキュアを塗るだけでも、指先が健康的に見えて気持ちが前向きになります。
ただし、あくまでも医師の判断に応じてであり、積極的にマニキュアやペディキュアを勧めるということではありませんので、ケアの際は注意してください。
患者指導のポイント
- マニキュアやペディキュアは爪が脆くなるのを防ぐ効果もある。ただし、爪周囲の炎症や痛みが強いときは避ける
- マニキュア、ペディキュアは有害物質成分を含まない無添加、ナチュラル系のものを選ぶ
- マニキュアやペディキュアをする場合は爪を保護するベースコートや爪・爪周囲の負担を軽減するトップコート、水絆創膏を塗る(トップコートは除光液で落とす必要がない)
- 除光液(エナメルリムーバー)は有機溶剤のアセトンを含まないものを使用し、アセトンは皮膚や爪を乾燥させるので、オイルなど保湿成分配合のものを使用する
- がん患者さんは爪が薄くなりやすく、装脱着時に爪を削るジェルネイル(硬化性樹脂を用いて自分の爪の上に義爪を形成する方法)は負担になるので勧めない