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皮膚に学ぶ

代表的な皮膚障害の種類と
評価基準

抗がん剤による主な皮膚障害

抗がん剤治療に伴って現れる主な皮膚障害を以下に示します。薬剤特有の症状もあります。

  • 手足症候群(手掌・足底発赤知覚不全症候群)
  • 発疹・紅斑
  • 過敏症
  • 色素沈着
  • 爪の変化
  • ざ瘡様皮疹
  • 皮膚の乾燥・亀裂
  • 爪囲炎
  • 白斑

薬剤の種類によって、同じような症状でも出現の仕方や対応が異なってきます。それぞれの抗がん剤で多く見られる皮膚障害の原因や対処法を知って、適切な予防や対策を行うことが大切になります。

皮膚障害を正しく評価して対応する

皮膚障害マネジメントにおいて重要なのは、副作用の早期発見とともに、重症度などを正しく評価して対応することにつきます。
抗がん剤の副作用の重症度評価によく用いられるのが、有害事象共通用語基準「CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)」です。皮膚障害は「皮膚および皮下組織障害」にグレードが記載されています。
なお、CTCAEでは脱毛も皮膚障害に分類されています。
一例として、分子標的薬で起こりやすい手足症候群、ざ瘡様皮疹、皮膚の乾燥、そう痒症の評価基準(CTCAE v5.0)を紹介しましょう。【表1】

CTCAE v5.0
Term 日本語
Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 Grade 5
手掌・足底発赤知覚不全症候群 疼痛を伴わない軽微な皮膚の変化または皮膚炎(例:紅斑、浮腫、角質増殖症) 疼痛を伴う皮膚の変化(例:角層剥離、水疱、出血、亀裂、浮腫、角質増殖症);身の回り以外の日常生活動作の制限 疼痛を伴う高度の皮膚の変化(例:角層剥離、水疱、出血、亀裂、浮腫、角質増殖症);身の回りの日常生活動作の制限 - -
ざ瘡様皮疹 体表面積の<10%を占める紅色丘疹および/または膿疱で、そう痒や圧痛の有無は問わない 体表面積の10-30%を占める紅色丘疹および/または膿疱で、そう痒や圧痛の有無は問わない;社会心理学的な影響を伴う;身の回り以外の日常生活動作の制限;体表面積の>30%を占める紅色丘疹および/または膿疱で、軽度の症状の有無は問わない 体表面積の>30%を占める紅色丘疹および/または膿疱で、中等度または高度の症状を伴う;身の回りの日常生活動作の制限;経口抗菌薬を要する局所の重複感染 生命を脅かす;紅色丘疹および/または膿疱が体表のどの程度の面積を占めるかによらず、そう痒や圧痛の有無も問わないが、抗菌薬の静脈内投与を要する広範囲の局所の二次感染を伴う 死亡
皮膚乾燥 体表面積の<10%を占め、紅斑やそう痒は伴わない 体表面積の10-30%を占め、紅斑またはそう痒を伴う;身の回り以外の日常生活動作の制限 体表面積の>30%を占め、そう痒を伴う;身の回りの日常生活動作の制限 - -
そう痒症 軽度または限局性;局所的治療を要する 広範囲かつ間欠性;掻破による皮膚の変化(例:浮腫、丘疹形成、擦過、苔蘚化、滲出/痂皮);内服治療を要する;身の回り以外の日常生活動作の制限 広範囲かつ常時;身の回りの日常生活動作や睡眠の制限;副腎皮質ステロイドの全身投与または免疫抑制療法を要する - -

表1 CTCAE v5.0-JCOG(日本語表記:MedDRA/J v22.1)の評価基準

日本臨床腫瘍研究グループ編:Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE) Version5.0 有害事象共通用語基準v5.0日本語訳JCOG版(CTCAE v5.0-JCOG)2019:p39‐40
著作権:皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議 (無断複製禁止)

なお、CTCAEは米国国立がん研究所(NCI)が主導した有害事象に関しての世界共通の評価基準であり、皮膚障害についてもこの基準を用いられることが少なくありません。しかし本来、CTCAEは主にそれぞれの薬剤の臨床試験での有害事象を比較するための基準です。そのため、臨床現場ではやや使いにくいともいわれています。
そこで、日本の皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議では、EGFR阻害薬による皮膚障害について、CTCAEに則しながら、患者さんの自覚症状・日常生活を重視し、臨床現場での使用に合った新しい重症度評価を提案しています。 【表2】

注釈:この、皮膚障害の重症度評価(分類)は、有害事象の評価であるCTCAE v4.0に準じているが、患者さんの自覚症状・日常生活への影響を重視して作成した。

軽症:軽い皮膚症状がみられるが、不快な自覚症状はなく、日常生活に差し支えない
中等症:皮膚症状が明らかにみられ、不快な自覚症状を時に感じ、日常生活の作業に差し支える
重症:皮膚症状が強く、不快な自覚症状を常に感じ、日常生活の作業が著しく制限される

名称 ざ瘡様皮疹 そう痒 乾燥 爪囲炎 角化・亀裂 手足症候群
軽症 顔面を中心に全体で20個前後の丘疹、膿疱を認める。疼痛、そう痒はない。日常は気にならない 時にムズムズするが、掻くほどではない。掻かなくとも眠れる わずかな乾燥と鱗屑がみられる。そう痒はないか、軽症 軽度の発赤、腫脹がある。疼痛はなく、日常生活に差し支えない 指先、踵に角化と浅い亀裂を認めるが、疼痛はなく、日常生活の作業には差し支えない 手掌、足底に違和感があり、発赤はないか、わずかにみられ、疼痛はなく、日常生活の作業に差し支えない
中等症 顔面、躯幹に全体で50個前後の丘疹、膿疱を認める。疼痛、そう痒を時に感じる。症状について他人から指摘される 時に手がゆき、人前でも掻く。痒くて目が覚めることがある 乾燥と鱗屑が明らかにみられる。そう痒は軽症か、中等症 発赤、腫脹がみられ、疼痛を時に感じ、日常生活の作業に差し支えることがある 指腹、足底に角化があり、亀裂を認め、疼痛が時に強く、日常生活の作業、歩行に差し支えることがある 手掌、足底に発赤、水疱形成がみられ、疼痛を時に感じ、日常生活の作業、歩行に差し支えることがある
重症 顔面、躯幹、四肢に全体で100個前後の丘疹、膿疱を認める。疼痛、そう痒を常に感じる。他人との面会が億劫である かなり痒く、ほぼ常に掻いている。そう痒で眠れないことが多い 乾燥が著明で鱗屑が多量にみられる。そう痒は中等症か、重症 発赤、腫脹が著明で、疼痛が常に強く、時に血管拡張性肉芽腫を生じ、日常生活の作業が行いづらく、歩行しづらい 足底全体に著明な角化を認め、深い亀裂が多発し、疼痛が常に強く、日常生活の作業が行いづらく、歩行しづらい 手掌、足底に発赤が著明で、大型の水疱がみられ、強い疼痛を常に感じ、日常生活の作業が行いづらく、歩行しづらい

著作権:皮膚科・腫瘍内科有志コンセンサス会議(無断複製禁止)

表2 皮膚障害の重症度評価

山本有紀,他:臨床医薬 2016;32(12):941-949

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