- 取材・文・編集:岩崎 幸
- 漫画:月野まる
- 監修医師:小川真里子先生
更新日:2024年11月18日
40代も半ばを過ぎてから、ちょっとしたことでイライラしてしまったり、急に汗が止まらなくなったり……。育児や家事、仕事に追われているところに、さらに追い打ちをかけてくるホルモンバランスの変化による不調。そんな「更年期障害」に悩まされる女性も多いですが、症状によっては休職や離職につながることも少なくありません。今回はそんな更年期の入り口に立った女性を漫画で描きながら、婦人科医の小川真里子先生に、更年期障害と仕事との両立について伺いました。
「ついに私にも更年期がやってきた…!?」
更年期の症状って?“始まり”のうちに知っておきたいこと
――そもそも更年期障害とは、どのような症状があるのでしょうか?
小川:まず、更年期とはすべての女性が迎えるもので、個人差はありますが50歳前後で閉経を迎え、この閉経の時期をはさんだ前後約10年間のことをいいます。ただ、必ずしも全員がつらい更年期障害があるわけではありません。まったく悩まされない方や症状が軽い方もいれば、休職や離職までしなければならないほどひどく悩まされる方もいます。
具体的な症状としては、下記のようなものが挙げられます。
(1)血管運動神経症状
更年期に特徴的な症状として、「ホットフラッシュ」と呼ばれるものがあります。頭が突然のぼせた感じになったり、顔がほてったり、汗が滝のように出たり。また、全身は熱くなるのに、手足は冷えていることもあります。ホットフラッシュは、日本人女性の約40~70%が更年期の症状として経験するといわれています(※)
※女性医学ガイドブック更年期医療編 2019年版
(2)泌尿生殖器症状
実は、意外と悩んでいる人が多いのがこの症状。尿もれしやすくなったり、トイレがすごく近くなったりします。また、性交時に痛みを感じるようになることもあります。
(3)精神的症状
気持ちが落ち込んだり、うつっぽくなる、やる気が出ない、イライラしやすくなるなどの症状も、更年期のホルモンバランスの乱れが原因の場合があります。また、不眠で悩む方も多く、症状としてはなかなか寝付けないというよりは、夜間に何回も目が覚めるようになる傾向があります。
そのほかにも、肩こりや腰痛、めまい、頭痛などが症状で出てくる方もいます。
――ちなみに、更年期を初期、中期、終期など分けるとしたら、目安などあるのでしょうか?
小川:明確に分かれているわけではありませんが、主に「生理の間隔が短くなってきた」など、月経が乱れはじめてきたころが更年期の始まりにあたります。その後、閉経の前後が中期、閉経後が終期といった感じに考えるといいでしょう。
――更年期の始まりの段階で、気をつけるべきことなどはありますか?
小川:生理が乱れ始めてきたりしたら、「そろそろ更年期かもしれない……」と、少し意識し始めておくのがいいと思います。そのうえで、更年期障害にはどんな症状があるのか、治療するならどんな方法があるのかなど、“更年期の間に自分の身に起こるかもしれないこと”を予め知っておいてほしいですね。更年期障害だと思わずに、例えばめまいで耳鼻科に、頭痛だったら内科になど、さまざまな科の病院に行って「結局原因がわからない……」ということも多くあるんです。なかなか婦人科にたどり着かない、ということを避けるためにも、まずは更年期について“知っておく”ことは大切です。
更年期はライフスタイルを見直すタイミング?
――更年期で症状が出ても、「いつものこと」とそのままにしておくと、実際にどのような悪影響が出るのでしょうか?
小川:更年期障害を放置したことで、命に関わる重大な病気になるということはありません。ただ、更年期障害の諸症状を治療せずに我慢していることで、仕事に影響が出ている方はたくさんいらっしゃいます。
例えば、プレゼンなど人前で話すときにカーッとなって汗が出たりするのが心配で、そういう場で話せなくなったり、満員電車の中で汗が出るのが不安で、通勤がおっくうになったり。また、不眠がちになることで、日中の集中力に影響が出てしまい、パフォーマンスが低下することもあります。あとは、若い人が多い職場で自分だけ更年期世代だと、下の世代の仕事のペースについていけなくなったり、そうなることでプレッシャーに感じる方もいらっしゃいます。
――実際に、更年期障害による離職や休職が問題になっているというニュースを見ました。
小川:結構いらっしゃるんです。離職されたり、休職してから婦人科に受診される方も多いのですが、本当はそうなってしまう前にいらしてほしいところです。更年期の時期って、体力的にもメンタル的にも、20~30代のころは我慢できて、無理やり頑張れたようなことが、なかなかできなくなってくる時期。無理してもっと頑張ろうと自分を追い込むのではなく、一度立ち止まって、自分のライフスタイルや健康について改めて見直してみるタイミングなのかもしれません。更年期障害になったからといって、必ずしも婦人科を受診しなければならないというわけではありませんが、何か不調に悩まされているようでしたら、一度相談に行ってみるといいでしょう。
――クリニックでの治療では、どのようなものがあるのでしょうか。
小川:基本的な薬物療法だと「漢方療法」と、減ってきている女性ホルモンを足す「ホルモン補充療法」があります。ほてりなどの症状で悩まされている方は、ホルモン補充療法の方が効果が高いので、選ばれることが多いです。症状が軽ければ、生活習慣の改善をしたり、サプリメントを飲む方も多いと思います。また、精神的な症状が強い方には、抗うつ薬を処方したり、カウンセリングなどの心理療法を行ったりすることもあります。
――カウンセリングなどもあるんですね。
小川:そもそも、「更年期における症状が出る」ことが“恥ずかしい”と思っている方が多くって、なかなか人に言えず、つらさを吐き出せなくて悩まれている場合があります。また、更年期の時期は仕事や育児、親の介護など、ストレスがかかるさまざまな要因も多く、その影響で症状が重くなる方もいらっしゃいます。抱えているストレスを吐き出すだけでも気持ちが和らぐこともあるので、その場合はカウンセリングも効果的です。
――たしかに、まだまだ更年期の悩みを周りの人に言いにくい雰囲気はありますよね。しかし、仕事との両立には、周囲の理解も必要かと思います。職場の人には、どのように伝えるのがいいのでしょうか。
小川:もし、上司に相談しにくい場合は、産業医がいる職場であったら、上司ではなくまずは産業医の方に相談してみるのが、ハードルも低くいいと思います。
また、別に更年期というワードを出さなくても、「最近気持ちが不安定で……」とか、ホットフラッシュは自律神経の症状なので、「自律神経の症状が最近ひどくて」など、そうやって言い換えて症状を伝えてみるのもいいでしょう。
最近は、女性の健康に関する研修を取り入れる企業も増えてきましたが、社会全体で見るとごく一部。もっと企業側が、女性の健康課題について全社員が知るような機会を増やしてくれると、女性側も打ち明けやすくなるのに、と思うのが正直なところです。
――更年期は全女性が迎えるものなので、他人事とは思わず、男性も女性も知っておきたいですね。
小川:本当にその通りです。また、女性に知っておいてほしいのは、更年期障害は完治する・しない、というものではないということ。よく患者さんに「この薬を何回飲めば治るんですか?」「どのくらい通院しなければならないですか?」などと聞かれることもあるのですが、漢方にしてもホルモン補充療法にしても、症状を“緩和”する方法であって、治すものではありません。更年期が過ぎたからといって、女性ホルモンが若いころのように戻るわけではなく、むしろ減少していく一方です。そのことを心に留めておいて、更年期と上手く付き合いながら、その先の健康についてもゆっくり考えられるといいですね。
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