- 取材・執筆:宇治田エリ
- イラスト:みけ みわ子
- 編集:服部桃子、森谷美穂(CINRA, Inc.)
- 監修:友野なお
更新日:2024年08月08日
デスクワーク、立ち仕事、シフト勤務……。職業別、睡眠の悩みQ&A
友野さんのお話から、短時間睡眠では心とからだ両方に悪影響が起こることがわかりました。一方で睡眠の質については、どのような行動が良し悪しに関わってくるのでしょうか。そこで、働き方の異なる3つの職種の方に睡眠の悩みをヒアリング。友野さんに回答いただきました。
寝ても疲れが取れない。1日の大半をパソコンに向かい座って過ごすウェブエンジニア
・お名前:R・Yさん
・職業:ウェブエンジニア
・年齢:30歳
・睡眠時間:6〜8時間
・勤務形態:基本デスクワーク、勤務中(約8時間)は座り続けていることが多い
Q.最近寝ても疲れが取れないことが増えました。しっかり疲れをとるためにはどんな対策が必要でしょうか?
A.睡眠の質に問題があるのかもしれません。深い睡眠(ノンレム睡眠)と浅い睡眠(レム睡眠)の波にメリハリがなく、リズムが乱れると、寝ているのか起きているのかわからない脳波の状態になります。そうなると成長ホルモンが十分に出されず、からだのメンテナンスが遅れ、疲れが残ってしまうのです。ほかにも強いストレスで悪夢を見て気持ちよく目覚められない場合や、うまく寝返りが打てていないときにも疲れが残りやすくなります。
睡眠のリズムが乱れているときは、環境を見直しましょう。
・寝具
マットレスは5〜10年、枕は1〜3年など耐用年数があるため、いま使っている寝具がいつ購入したものなのか確認してみてください。
・パジャマ
適切な寝返りが打てること、汗を吸い、保温性もある素材であることが大切なので、着古したTシャツやスウェット、ジャージなどではなく、「パジャマ」として売られているものを着用しましょう。
・スマートフォンなどの使用
寝る時間の30分から1時間前までには、パソコンやスマートフォンの操作をやめること。感情を揺さぶるようなニュースや動画を見ないようにすることも大切です。
Q.リモートワークの日は夜ふかししがちに。デスクワークの長さが影響しているのでしょうか?
A.目や脳が疲れきっているのにからだは疲労を感じていない、というアンバランスな状態になっているのでしょう。改善のためには、からだを疲れさせ、頭をリラックスさせること。スタンディングワークをしたり、休憩時間にスクワットをしたり、散歩もいい運動です。
頭をリラックスさせるためには、グリーンエクササイズがおすすめ。公園のベンチやカフェのテラス席に座って木々を眺めてみてください。ほかには1時間に1回パソコンのモニターから目を離して植物を見る、寝る前に目の周りを温めるなども効果があります。
朝スッキリ起きられない。調理、提供など立ち仕事がメインの飲食店オーナー
・お名前:K・Iさん
・職業:飲食店オーナー
・年齢:33歳
・睡眠時間:7〜8時間
・勤務形態:基本的に立ち仕事。営業時間は12〜15時、19〜23時
Q.夜が遅いため、眠りにつくのがどうしても深夜から明け方になってしまいます。睡眠の質に影響はありますか?
A.人間は、暗いときに寝て、明るくなると活動するというメカニズムがDNAに染みついています。そのため、日が昇ってから寝ると睡眠の質は低下しやすいんです。暗いうちに少なくとも3〜4時間は睡眠を取りましょう。
Q.寝つきもよく、しっかり寝ているけれど、2度寝をしてしまいます。どうしたら朝スッキリ起きられますか?
A.睡眠時間はしっかり取れているようなので、からだが目覚める仕組みをつくるといいでしょう。遮光カーテンを少しだけ開けて寝たり、カーテンに自動開閉装置を取りつけたり、ライトで起こしてくれる目覚まし時計を用意したりと、スムーズに目覚めるために光を活用してみることもひとつの方法です。
また、起きてもベッドから離れられない方は、朝になんらかの楽しみを準備しておくといいでしょう。おいしいパン屋さんのパンを朝食に用意しておくとか、好きな朝のテレビ番組をリアルタイムで見るのも良いですね。起きるためのポジティブな動機づけを考えてみてください。
睡眠負債をリセットするには?夜勤もあり不規則な生活の看護師
・お名前:O・Mさん
・職業:看護師
・年齢:30歳
・睡眠時間:6時間
・勤務形態:基本立ち仕事、夜勤などがあり睡眠時間は不規則
Q.睡眠時間がバラバラで、体調を崩すことも。心身への影響が心配です。不規則な生活に慣れることはないのでしょうか?
A. 日勤(日中勤務)、準夜勤(夕方~深夜勤務)、夜勤(深夜~朝方勤務)が混ざっている仕事はからだに大きな負担がかかります。不規則な睡眠に対して感覚的に慣れてしまうことはありますが、からだが必要とする睡眠時間は基本的に変わらないため、睡眠負債が貯まってしまいます。
Q.夜勤があっても睡眠負債をリセットする方法はありますか?
A.なるべく日勤のときと同じ生活リズムでいられるように、睡眠サイクルを整えることが重要です。ポイントは2つ。食事のタイミングと、光のコントロールです。具体的に、夜勤のあとの過ごし方を提案します。
1.コンビニなどお店に寄らず帰宅しましょう。その際、日傘や帽子、サングラスをつけて光が目に当たらないようにしてください。家では遮光カーテンを使い、夜のような空間にします。
2.すぐに眠らず、日勤のときと同じ時間に朝食をとりましょう。バナナなど消化されやすい食べ物を軽くお腹に入れる程度で大丈夫です。
3.部屋を真っ暗にし、静かな環境で眠ってください。ただし、13時までには起きましょう。そして、明るい環境でお昼ご飯をしっかり食べます。
4.そのあとは夜まで寝ないでおきましょう。外出や好きなことをして、思いっきり楽しんでください。その日の夜は眠気が来たら早い時間でもすぐに寝て大丈夫です。
Q.不眠症になってしまい、寝つきが悪く、中途覚醒もあります。どうすれば改善できるでしょうか?
眠れないからといって睡眠導入剤だけに頼ることはおすすめしません。必ず、行動療法とセットで行なうことが大切です。
睡眠に問題を抱えやすい方は、プレッシャーを感じやすい、真面目で責任感が強い方が多いです。これまで理想の睡眠時間をお伝えしてきましたが、あまり気負わず、「1日や2日眠れなくたって大丈夫」という気持ちでいましょう。あまり心配しすぎないことも大切です。
仕事や日々の生活にストレスを感じている方は、現実から心理的な距離を取る工夫をしてみてください。イギリス・サセックス大学の研究結果では、6分間の読書でストレスが低減されたという報告がありました。ほかにも、「ハワイへ行こう」「○○のライブに行こう」など楽しい予定を考えて、実際に行くルートや着ていく服、行った先で食べたいものなど具体的に想像してみましょう。例えばハワイ旅行を考える場合、頭のなかだけで想像するだけでなく、実際にさざ波やウクレレの音をかけたり、ココナッツの香りを嗅いだり、五感をフルに活用することがポイント。自分がわくわくすることを想像することで、ストレスから離れられる時間をつくれます。
ほか、ベッドに入って30分以上経っても寝つけない方は、「睡眠時間制限法」という「遅寝早起き」で睡眠の効率を高める方法が有効です。
睡眠時間制限法
睡眠効率の点数を計算する方法
眠っていた時間(実質睡眠時間)÷ベッドに横になっていた時間×100
例えば、0時にベッドに入り8時に起床。横になっていた時間は8時間だが、
実際に眠っていた時間は6時間(1時〜7時)の場合、以下のような計算式になります。
6時間(実質睡眠時間)÷8時間(横になっていた時間)×100=75点
点数は、85点が合格点。横になってから入眠までの時間が短くなるよう、ベッドに入る時間を遅くしましょう。最終的に、0時までには就寝して85点を超えられればOKです。
毎日クタクタ。だけどしっかり眠れない人たちへのアドバイス
──最後に、睡眠に悩む読者のみなさんにメッセージをお願いします。
睡眠においてもメンタルケアはとても重要です。自分で自分の機嫌を取り、いたわって、ご褒美をあげる。そんなアクションをナイトルーティーンに取り入れて、自分に優しくしてあげましょう。
忙しくて時間がないという方は、ベビーシッターや家事代行サービスなどのアウトソーシング、家電のアップグレードをぜひ検討していただきたいです。自分の負担を可能な限り減らして、しっかりと睡眠時間を取りましょう。なかなか睡眠が改善できない場合や専門家のアドバイスが欲しいときは、睡眠外来でご相談いただくのもおすすめです。
良質な睡眠は心とからだの健康をつくり、仕事や子育てなどにも意欲的に向き合えるようになります。今後も健やかな自分でいられるように、さっそく今日から睡眠改善に取り組んでいきましょう!
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