- 取材・執筆:秦レンナ
- 撮影:北原千恵美
- 編集:森谷美穂(CINRA, Inc.)
- 監修医師:八田真理子先生
更新日:2024年09月30日
生理前になると、腹痛や頭痛、吐き気に悩まされたり、ちょっとしたことでイライラしたり、落ち込んだり……。いわゆるPMS(月経前症候群)に悩まされている女性は少なくないのではないでしょうか?
先日、「健康美塾」のメールマガジンでPMSの悩みについてアンケートを実施したところ、からだの症状からメンタルの調子まで、PMSの悩みの深さや多様さを感じる多くのエピソードが寄せられました。
今回は、自身もPMSを抱える1人であり、これまでさまざまなセルフケアを試してきたというモデル・文筆家の小谷実由さんと、地域のかかりつけ医として多くの女性に寄り添い続けてきた婦人科医の八田真理子先生とともに、悩みの原因やケア方法について考えていきます。
女性の7〜8割が経験している「PMS」とは?
――最近よく耳にするPMSの諸症状について、あらためて教えていただけますか?
八田:生理の3〜7日前に起こる身体的・精神的不調をPMS(月経前症候群)といい、日本では生理のある女性の7〜8割が生理前に何らかの症状を感じています。
八田:PMSの原因ははっきりとわかっていませんが、女性ホルモン(「エストロゲン」と「プロゲステロン」)の変動が関わっていると考えられています。特に生理前の黄体期に、女性ホルモンが急激に低下することで、脳内の神経伝達物質や自律神経に影響を与え、さまざまな身体的・精神的症状が起こるといわれています。
よく見られる症状としては、お腹や胸が張る、吐き気、頭痛、食欲が湧く、眠くなる、イライラや落ち込みなど。ただ、生理が始まると2、3日以内におさまるのがPMSの大きな特徴です。
――小谷さんは、PMSの症状を感じたことはありますか?
小谷:私は特に30代になってから、生理前のイライラや気分の落ち込みに悩まされるようになりました。普段は気にならないことも「許せない!」と怒ってしまって、あとでそんな自分が嫌になって落ち込むんです。
八田:30代は女性の性成熟期であり、女性ホルモンの分泌が最も盛んになる時期。つまり、女性ホルモンに翻弄されやすい時期でもあります。そのため、30代になってPMSになる人や、症状がひどくなる人も多いんです。
また年齢だけでなく、そのときの体調や、ストレス、忙しさ、暑さや寒さなど、さまざまな環境因子が女性ホルモンの分泌に影響を与えます。それによってPMSがよりつらくなることもあるでしょう。
下腹部痛に便秘、吐き気……。ピルを飲んでいるのになぜ?
ここからは、2024年7月に「健康美塾」の読者の方から寄せられたPMSにまつわる悩みについて、小谷さんと八田先生とともに考えていきます。
小谷:私も生理前にお腹が張ることがあります。体調がつらいと、「なんでこんな思いしなくちゃいけないんだろう」と落ち込んでしまうんですよね。
――ぽんたさんの便秘や吐き気といった症状は、なぜ起こるのでしょうか?
八田:生理前の排卵期から黄体期にかけて、からだは妊娠に向けて水分や栄養を溜め込もうとします。また、この時期に増加する女性ホルモンの一つである「プロゲステロン」には、腸の動きを抑える作用があり、そのため便秘が起こりやすくなるのです。便秘はさまざまな不調につながります。吐き気もその一つだと考えられます。
――便秘や吐き気にはどんな対処法があるでしょうか?
八田:まずはバランスのいい食生活を意識しましょう。食べる量が少なく、十分な水分や栄養を摂れていないと、より便秘になりやすくなってしまいます。また、空腹時に甘いものや炭水化物が食べたくなったときも要注意。血糖値が乱降下し、いわゆる「血糖値スパイク」が起こります。
血糖値スパイクは、眠気やイライラなどPMS症状の悪化につながります。特に生理中は低血糖になりやすいので、アンバランスな食事やダイエットは禁物。おやつには、血糖値を一気に上げてしまうチョコレートやジュースなどは避け、サツマイモやお豆などを選ぶといいでしょう。
もう一つ、運動も大事な対処法です。からだを動かすことで腸の動きが活発になりますし、代謝もよくなります。特におすすめなのは、ウォーキングやダンスなどの有酸素運動。自宅で気軽にできるような筋トレもいいですね。
小谷:私は普段ピラティスに通っているのですが、生理前や生理中などからだを動かすことに乗り気ではないときも、思い切って行くとすごく楽になります。いまやピラティスはPMSケアに欠かせません。
八田:小谷さんのように「楽になった」という成功体験があると、続けやすくなりますよね。運動はすべての病気を遠ざけますから、ぜひ習慣化していただきたいです。
――ぽんたさんはPMSや月経痛の対策に低用量ピルを服用されているようですが、それでもPMSの症状は出てしまうのでしょうか?
八田:低用量ピルは、排卵を抑え、女性ホルモンの変動を一定にしてくれる作用があるため、PMSの緩和に効果的だといえるでしょう。とはいえ、絶対ではありません。気になる症状が出てしまう人は、医師に相談して低用量ピルの種類をいくつか試してみてもいいかもしれません。
寝つきが悪く、夜に何度も目が覚めてしまう。睡眠の質もPMSと関わりがある?
──あんなさんは生理前に寝つきが悪かったり、途中で起きてしまうなど睡眠に影響が出ていますが、睡眠とPMSにはどのような関係があるのでしょうか?
八田:考えられるのは、「ハッピーホルモン」ともいわれ、気分に影響を与える神経伝達物質「セロトニン」の分泌が不安定になることです。女性ホルモン(エストロゲン)がセロトニンの分泌を低下させることで、睡眠障害を起こしやすくなると考えられます。
小谷:私は眠気がひどくなるタイプなのですが、そういうときは思い切って寝てしまいます。あとは、ゆっくりお風呂に浸かってからだを休めるのも私には効果的です。
八田:入浴は血液の循環が良くなり、心身がリラックスした状態になるので快眠にもつながりますし、PMSを緩和するためにもぴったりです。シャワーで済ませず、湯船に浸かってゆっくり温まるようにしましょう。
また、「眠れない」という人はストレスも影響している可能性があるので、普段の生活でも無理をしないようにしていただきたいですね。例えば在宅ワークのときはお昼休みなどに20〜30分横になるだけでもからだが休まります。
症状がひどい場合には、一時的に睡眠導入剤を頼るのも手です。最近は安全性の高いものが多いので、婦人科はもちろん、内科や外科、精神科など専門医、もしくはかかりつけ医に相談してみてください。
聴覚が敏感に……少しの音でもイライラ。精神的な症状も強く出てしまうときは?
八田:生理前は妊娠の準備期間ともいえるので、からだを守るために外的な刺激に過敏に反応しやすい時期。バランスのいい食事や運動は基本として、外からの刺激をシャットアウトできるような環境で過ごすなど、「一人の時間」を大切にしてみるのはいかがでしょうか。
小谷:私もPMSでイライラするときは、自分だけの世界にこもります。静かな場所で本を読んだり、音楽を聴いたりしていると、イライラが遠ざかっていくんです。
──おこぶさん以外にも、「急にイライラしたり落ち込んだり、精神的に不安定になることが悩み」、「生理前はパートナーとよくケンカになってしまって嫌」といった、イライラにまつわる悩みが多く寄せられているそうです。
小谷:イライラするつらさ、本当によくわかります。私もケンカが嫌なので、パートナーには事前に「生理前だから」と伝えるようにしています。
八田:周囲の人の理解があるかでずいぶん変わりますよね。特に真面目な人や頑張り屋の人は、生理前も「いつもどおりやらなきゃ」と無理をしてしまい、PMSがひどくなってしまうことがあります。
――最近では、PMDD(月経前の深い気分障害)という言葉も聞きますが、生理と精神的な不調の関係について知りたいです。
八田:PMDDとは、PMSのなかでも精神的な症状が強く出てしまう状態のことで、月経のある女性の5%程度に見られます。症状としては、イライラや落ち込み、抑うつ気分、不安や緊張、情緒不安定など。原因はPMS同様よくわかっていない部分も多いのですが、女性ホルモンの変動に加え、「セロトニン」の分泌が不安定になることで起こると考えられています。「セロトニン」の多くは腸でつくられるため、生理前に便秘になると、より抑うつ的な症状が起こりやすくなります。
ただし、PMSやPMDDだと思っていたら、うつ病だったということも少なくありません。実際女性は、男性に比べ2〜3倍もうつ病になりやすいといわれていて、それにはやはり女性ホルモンの変動が関係しています。つらいなと感じたら、我慢せずに受診しましょう。生理のサイクルと関係がありそうなら、まずは婦人科を受診してみてください。ただ、症状がかなり辛い場合は心療内科や精神科の受診をおすすめします。
自分のからだの声に、日頃から耳を澄ませよう
――PMSにまつわる悩みはあっても、忙しいと、どうしても自分のことはおざなりになってしまう人も多いのではと思います。自分のからだや状態と向き合うための方法はあるでしょうか?
八田:患者さんのなかには、「直近の生理がいつだったか覚えていない」という方は多いです。でも、自分のからだの責任者は自分。私は、できるだけ毎日の基礎体温と体調を記録することを勧めています。
自分の排卵周期を把握できれば、生理が始まるタイミングや、女性ホルモンの変化にあわせて「仕事を詰め込まずにゆったり過ごそう」「早く寝るようにしよう」などと、セルフケアができるようになります。日記やメモに記録するのもいいですし、アプリを活用するのも手だと思います。
小谷:私は自分の体調が仕事に大きく影響するので、自分のからだの状態を観察するのがクセになりました。心配性なのもあって、気になることがあればすぐ病院へ行きますし、定期検診も必ず受けるようにしています。そうやって日頃から不安要素をなくしておくことが、精神的な安定にもつながると感じます。
――日頃から「自分で自分のご機嫌をとること」を大切にしているという小谷さんですが、そうしたことを意識するようになったきっかけは何だったのでしょうか?
小谷:年齢やキャリアを重ね、自分が周りに与える影響について客観的に見られるようになったことが大きいように思います。自分に余裕がなければ、嫌な空気が周りにも広がるし、自分がご機嫌であれば、周りも穏やかにすることができるかもしれない。だから常に自分が気持ちいいと思える選択をしようと心がけています。
小谷:そのために大切にしているのは、心の声をちゃんと聞くこと。「疲れたからちゃんと休もう」とか、「今日は我慢せず好きなもの食べよう」とか、シンプルなことかもしれませんが、すごく大事だなと思うんです。誰かに良い影響を与えたいと思ってこの仕事をしているのに、自分がヨロヨロしていたら、元気をあげられるわけがない。そんな思いで、自分という土台をケアしています。
PMSは現代病?忙しい30代女性こそ心がけてほしいセルフケア
――日々のセルフケアがPMSの対処につながることがよくわかりました。一人ひとりが自分なりのケアを見つけて、できるだけ心地よく過ごしていけるといいですよね。
八田:じつは、PMSは現代病ともいわれています。多産だった昔と比べ、現代の女性は、出産回数が減っている、あるいは出産しないことにより、一生に経験する生理の回数が450~500回、戦前の女性に比べて9〜10倍も多くなっているといわれています。つまり、女性ホルモンに翻弄される機会が増えているんです。
特に30代は仕事に育児にといろいろなイベントが重なる確率も増え、ストレスも多くなりやすい時期です。そこに女性ホルモンの変動が重なるとなるとその負担は相当なもの。
そう考えると、「仕方ない」「我慢するしかない」と思ってしまいがちですが、そんなことはありません。多様な生き方ができるようになったからこそ、自分のからだとちゃんと向き合うことを覚えておいてほしいです。自分のからだを守れるのは自分だけですから。
小谷:今日のお話をとおして、あらためて「自分のからだと向き合うこと」、そして「知っておくこと」の大切さを感じました。
私自身、生理前のイライラや体調不良に悩まされてきましたが、「これはPMSなんだ」と自覚したことで、じゃあどんなケアをすればいいだろうと考えられるようになりました。
最近は、生理にまつわる情報も増えていますし、積極的に調べたり聞いたりすることが自分を助けることにつながると感じます。ただ、本当にしんどいときにはなかなかできないもの。そんなとき、「つらいんだよね」と素直に吐き出せるような人や場所があるといいですよね。
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