- 取材・執筆:田中美羽(雪か企画)
- 撮影:寺内暁
- 編集:服部桃子(CINRA, Inc.)
更新日:2024年03月05日
女性のからだの調子は、日によってさまざま。調子の良い日もあれば、ホルモンバランスの乱れなどが原因で、からだや心の不調を感じる日もあります。日々忙しく仕事や家事を行なっている女性たちは、どのようにバイオリズムのゆらぎとつき合っているのでしょうか?
それを学ぶべく、今回は、助産師で性教育YouTuberとしても活躍するシオリーヌさん、有名IT企業勤務を経て現在は文筆家のりょかちさん、元美容部員でいまはサッカークラブで働きながら美容ライターとしても活躍する阿保幸菜さんを迎えて座談会を実施。それぞれ多様なキャリアを歩んできた3名と、「ロキソニン内服薬シリーズ」のブランドマネジャー・土合桃子に、生理時に起こりがちなあれこれやからだの調子が悪いタイミングでの適切な対処方法について、たっぷり語っていただきました。
ゆらぎ方もさまざま。生理前後のからだと心の不調
―今日は、みなさんに事前にお渡ししていた「1か月のバイオリズム」グラフを持ってきていただきました。さっそく見せていただけますか?
幸菜:からだの調子は、生理中よりも、どちらかというと生理前のほうが辛いです。下腹部に違和感を覚え始めて、眠くても寝られない状態が続きます。メンタルはそこまで沈まないタイプなのですが、無性にイライラしてしまうことはありますね。
シオリーヌ:子どもが産まれたばかりで子育ての真っ最中なので、日々の体調は子どもの睡眠状況によります。からだの調子とメンタルの調子とで沈むポイントが全然違うのですが、生理前はとにかく気持ちが落ち込んでしまって。「世界のすべてが嫌だ」という鬱々とした気持ちが、生理予定日の1週間~10日前くらいからずっと続きます。生理が始まってしまえば心は元気になるのですが、今度は腹痛と眠気に襲われてからだがすごくしんどくなるので、心とからだの不調がズレてやってくるような感覚です。
りょかち:私も心の調子の沈み方はシオリーヌさんと似ていて、すべてが嫌になり、「誰も私に話しかけないで!」と思ってしまいます。強烈な眠気と頭痛に襲われるので、生理が始まってから数日間は泥のように眠っていることが多いです。終わりかけになるとだんだんと復活してきて、元気になってくる感じですね。
―みなさん、それぞれのかたちで変化が起こるのですね。メンタルが沈むとどのような状態になりますか?
シオリーヌ:いつもだったら気にしないようなことで必要以上に落ち込んでしまったり、それが原因でパートナーとの喧嘩が増えたり。自分がPMS(月経前症候群)だと自覚できればよいのですが、出産をする前はピルを服用していてPMSとはほど遠い生活を7年ほどしていたので、重たいPMSが帰ってきたのはここ数か月のことなんです。わけもわからず怒りっぽくなっていたときに、パートナーが「違ったら申し訳ないけど……、もしかしてPMSなんじゃない……?」と教えてくれて。「それだ!」とすごく腑に落ちたと同時に、なんだかホッとしましたね。そんなやりとりを最近毎月しています(笑)。
りょかち:私は自分のなかに、「自分ではない獰猛な何か」を感じる瞬間があります。悲しくなったり、怒りっぽくなったりと、メンタルが疲れる状態が続くのですが、それが生理のせいだと気づければ、自分と「分離」できるんです。よくない状態であることに変わりはないのですが、いつもと違う自分の存在を受け入れられるというか。そうやっていつもやり過ごしています。
シオリーヌ:私のせいじゃない、ホルモンのせいなんだ! と思えると、ちょっと楽になりますよね。
幸菜:生理前はため息や小言が増えたり、パートナーと喧嘩をしてわけもなく泣いてしまったりするのですが、生理が来たあとは「生理だから仕方ない」と割り切ると、気持ちが落ち着く気がします。
シオリーヌ:生理が始まってしまえば経血も出るし、「あぁ、いま大変な時期だな」と自分でも認識しやすいですが、生理前は目に見える変化がないので、余計戸惑ってしまうのかもしれないですね。
シフト中の痛みや会議中の眠気は「とにかく我慢」だった。生理と仕事の両立の難しさ
―いまお話いただいたような不調が、仕事中にやってくるときもありますよね。そんなときはどうしていますか?
シオリーヌ:病棟勤務をしているときは夜勤もありましたし、やることがたくさんあってなかなかトイレにも行けなくて。タンポンや夜用ナプキンを使用したり、痛み止めを飲んだりしてやり過ごしていました。
いまは人前で話す仕事が多いのですが、講演などの最中は集中しているのか、その瞬間は体調不良を忘れられるんです。ただ、家に帰ったあとにズーンと沈んでしまうので、仕事が終わったらできるだけすぐに寝る、休む時間をしっかり取る、家族にしんどいことを表明して理解してもらうなど、いつも以上にオン・オフの切り替えを大事にするようにしています。
りょかち:私は、いまはフリーランスで仕事をしているので、辛いときは潔く寝ています。主にものを書く仕事で、数時間単位で集中する必要があるので、すごく眠いから5分だけ寝ようとか、今日は諦めて明日また頑張ろうとか。
でも、昔は会社員だったので、そうはいきませんでした。ミーティングが多いからずっと喋っていて、誰かに話を振らないといけないこともあったので、我慢するしかなくて。オフィスにいるときは、お腹が痛かったり、眠かったりで、からだのなかで暴れているホルモンと戦うのが大変でした。本当にしんどいときは、オフィスに楽な体勢で仕事ができるスペースがあったので、そこで休み休み作業していましたね。
―幸菜さんは以前、美容部員をしていたそうですが、そのときはいかがでしたか? ずっと立ち仕事で、休憩の時間もきっちり決まっていて……というイメージなのですが。
幸菜:私が働いていたお店は全員立って接客するスタイルで椅子がなかったので、どんなにお腹が痛くても座れないのが一番辛かったです。女性ばかりの職場なので、一応生理休暇を取得できることにはなっていたのですが、女性ばかりだからこそ「みんな頑張っているし……」と、どこか気を遣ってしまって、誰も取得していませんでした。しかし、やはり負担が大きかったのか、自分のお店やブランドに限らず、婦人科系の病気にかかる同業者は多くいました。なかには、からだを壊してなかなか復帰できなくなってしまう人もいましたね。
幸菜:女性が多い職場だからこそ、婦人科系の病気はなんとかすべき問題です。そこで、お店全体で「しんどくなりそうな日は、しんどくなる前にお互い言い合おう」と決めてコミュニケーションを取るようにしたら、だいぶ楽になりました。休憩を早めに取らせてもらったり、長めに休憩したり、といったことがしやすくなりましたね。
りょかち:素敵な職場!
自分のからだや心を理解するために、記録をして自らを客観視する
―バイオリズムのゆらぎとうまくつき合うために、工夫されていることはありますか?
幸菜:生理中って、わがままな子どもみたいになってしまうんですよね。外では頑張れるのですが、家に帰った瞬間に「疲れて帰ってきてお腹も痛いのに、ごはんつくるなんてヤダ!」みたいに(笑)。ある日、ため息をつきながら渋々ごはんをつくっていたら、パートナーが「無理してやる必要はない」と言ってくれて。
無理して頑張ってしまうと、体調が悪化して余計にまわりに迷惑をかけることにもなるので、頑張りすぎないことを意識し始めてから、だいぶ生理の不調とうまくつき合えるようになってきたかなと思います。
りょかち:私、「ログ(記録)マン」なんです。カレンダーに、「今日は何時間寝た」とか「この時間帯に何をした」とか、全部記録しているので、不調を感じたら前の月のカレンダーを見返します。すると、「先月もこの時期調子が悪かったな」と気づくんです。自分の調子が悪くなる時期を把握していれば、あらかじめヘビーな仕事を外しておくこともできますし、自分の仕事や体調をコントロールするうえでとても役立っています。
あとは、その時期だけお気に入りのカフェの甘いドリンクを無制限に飲んでいいことにしてますね(笑)。自分のわがままに応えてあげることも大事にしています。
シオリーヌ:自分の調子を客観的にモニターすることはとても大切ですよね。生理管理アプリもたくさんの種類がありますし、なかにはパートナーとシェアできるものもあります。PMSの時期が近づくと、パートナーに「あなたのパートナーはもうすぐPMSですよ」と通知が行く機能もあるので、多少言動がピリッとしていても、「PMSが近いからかもな」と理解したうえで接してもらえます。そういったものもうまく取り入れながら、自分の生理周期とコンディションがどう連動しているのかを観察してみるのも良い方法ではないでしょうか。
幸菜:私はあまり記録をつけないほうですが、いつも不調を感じたときは、SNSでワード検索するようにしています(笑)。この不調は気圧のせいなのか、生理前だからなのか気になって、似たような人がいないか探したくなるんですよね。「生理前 眠れない」とかで検索してみて、たくさん呟きがヒットすると、みんなもそうなんだ! と安心することもできますし。
ログと似たようなことかもしれませんが、1回自分に起こっていることを客観的にとらえていくと、「これとこれが重なったということは、もうすぐ生理前の不調が来るな」と、状況を受け入れられるようになるんです。それぞれに合ったかたちで、客観視できるコツをつかめるといいのかなと思います。
痛みを感じた瞬間に飲んでOK。意外と知られていない、鎮痛薬の正しい飲み方
―ここからは、「ロキソニン内服薬シリーズ」ブランドマネジャーの土合さんにも座談会に参加いただきます。みなさんのお話をお聞きになって、どう感じられましたか?
土合:とても勉強になります。「無理をしない」という観点でお話しすると、鎮痛薬や頭痛薬は、頭痛や生理痛、発熱時にも服用できるものなので、比較的生活のなかで使う機会の多い薬ですよね。だからこそ、なるべく飲まないほうがいいのではないか、痛みに耐えきれなくなったときに使うものなのではないかと考える方もいて、実際にお客さまからのお問い合わせも多くいただくんです。
シオリーヌ:私が性教育の現場でお会いする若い世代の方々のなかにも、お母さんから「痛み止めを飲みすぎると、クセになるからあまり飲まないほうがいい」と言われたことがある、という方も多いです。
土合:でも実際はそうではなく、痛みを感じ始めた段階で早めに飲んでいただいたほうが、鎮痛薬としての効果を正しく感じていただけます。一般的な鎮痛薬は、痛みの原因物質がこれ以上からだのなかでつくられないようにすることで効果を発揮するもので、すでにできてしまった痛みの原因物質をなくすものではありません。そのため、痛みを我慢していると、痛みの原因物質がからだのなかで増えすぎてしまい、鎮痛薬でも痛みを抑えきれないことがあるんです。痛みに邪魔される時間を少しでも短くしていただくために、正しい知識を持ったうえで、薬に頼っていただければと思っています。
シオリーヌ:そうですね。私は、痛みを感じた瞬間に飲むようにしています。本当に痛くなってから飲むのでは遅いことは、知識として知っていたので。
幸菜:私も、痛いな……と思ったときに服用するようにはしています。でも、「4時間以上間隔をおいたら、もう1錠飲んでもよい」と書かれていても、1日1錠飲んだら2錠目をためらってしまうことがよくあります。本当に4時間経ったらもう1錠飲んで問題ないのでしょうか?
土合:たとえば月に10日以上など、長期間にわたって漫然と飲み続けるのはよくないですが、生理期間の数日間だけ使い続けていただくレベルでは問題ありません。薬にからだが慣れて効きづらくなってしまうのではないかと思われる方もいらっしゃるのですが、用法・用量や説明書の内容を守って服用いただければ、市販の鎮痛薬でそのようなことはありませんので、ぜひ知っておいていただきたいです。
りょかち:痛みを感じ始めたタイミングで飲まなければいけないことを、いま初めて知りました……!
体調に合った鎮痛薬を選ぶ、婦人科に行く。一人ひとりの生理痛とのつきあい方
りょかち:鎮痛薬の服用に対して、私のなかでハードルがあって。一つは、生理は病気ではないから、毎月あるものに対して薬に頼っていいのかな、という精神的なハードル。もう一つは、集中力が必要な仕事なので、副作用で眠くなったり、ボーッとしてしまったりしたらどうしよう、というのが気になります。
土合:生理や生理痛そのものは病気ではないですが、それが自分自身の生活に支障をきたすところまでいってしまうのは、病気としてとらえるべき、と考えられています。痛みが日常生活に支障をきたすのであれば、薬を使って痛みをコントロールしていただいたり、婦人科へご相談いただいたりすることも、生理痛対策の選択肢の一つとして考えてもらえればと思います。また、市販の鎮痛薬にもさまざまな種類があって、眠気を引き起こす成分を含まないものもあるので、自分に合った薬を選ぶのがおすすめです。
りょかち:お二人や土合さんのお話を聞いて、みなさんライトな感じで鎮痛薬を服用されていることに驚きました。こんなに我慢していたの、私だけ? という感じです(笑)。
シオリーヌ:でも、ぎりぎりまで我慢している方も多いと思いますよ(※)。市販の鎮痛薬を使うことも含めて、生理痛を婦人科に相談するなど、生理を少しでも楽にするための手段に対するいろんなハードルが、もっと下がるといいですよね。
(※)参照:みんなの生理痛プロジェクト「データで見る生理痛のはなし」
土合:自分に合った薬をかばんに忍ばせているだけでも、「いざというときにはこれがある」と思えるので、心理的なストレスの解消にもつながると思います。次回薬を購入されるときは、ドラッグストアのスタッフの方に声をかけて、自分にぴったりの薬を見つけてみてください。ただ、もし痛みが激しい場合や、薬を飲んでも痛みが治まらないなどの場合は婦人科を受診する目安になりますので、迷わず婦人科へご相談いただければと思います。
りょかち:これまで何も考えず、目についた市販薬を手に取っていました。いま、快適な生理ライフにどんどん近づいている気がします……!
頑張るも頑張らないも、自分で決めていい。3人の考える「働きやすい社会」のかたち
―女性のバイオリズムは日々ゆらぎますが、これに対し、職場環境や社会の整備が十分かと考えると、まだまだできることはあるように思います。みなさんは自らを取り巻く環境に対して求めることなどありますか?
幸菜:求めること……と聞かれると難しいのですが、コロナ禍を経てリモートワークが主流になったことは、生理痛が重い人にとってすごくいい変化だと思います。会社に行かないといけないとか、人と関わらないといけないとか、いろいろなところで心に思わぬ負荷がかかるので。頑張りすぎずに、うまくやっていけるような働き方が、これからもそれぞれの業界で確立されていけばいいですよね。
シオリーヌ:不調を感じているとき、頑張るも頑張らないも、自分で決めていいと思うんです。私はどちらかというと、生理中であっても頑張って最大限のパフォーマンスを発揮するために、生理をマネジメントしたいという思いがあって。鎮痛薬を早めに使ったり、必要に応じて漢方を飲んだり、妊娠する前ならピルを服用したり。
不調で頑張れない人が頑張らなくていいのは大前提ですが、頑張りたい人にもそのための選択肢が必要で。それぞれが自分なりの生理との向き合い方を見つけていけるといいなと思います。社会にさまざまな選択肢が用意されていることと、選ぶための知識を正しく得られる環境、そしてその人の主体的な選択を尊重できる社会を求めたいです。
幸菜:まわりに不調を訴えられる人もいれば、それができない人もいると思うんです。そういう人がもし身近にいたら、さりげなく声をかけられるような人でありたいです。もちろん、本人が言いやすい環境が整うことが一番ですが、寄り添って解決策を一緒に考えるだけでも、生きやすくなるのかなと。
りょかち:生理に限らず、体調不良を気軽に訴えられるようになるといいですよね。「今日は頭が痛いです」「眠いです」「ショックなことがあってしんどいです」でも、なんでも。心やからだの状態がいつもと違うとき、まずは自分から言葉にして、まわりも言いやすい空気をつくっていくのが、自分にできることかなと思います。
シオリーヌ:これは生理に限った話ではないのですが、子育てが大変だ、家族の介護が必要になった、メンタルの不調があるなど、一緒に働く人が持っている背景って、目に見えている姿からだけではわからない部分がたくさんあると思うんです。
目には見えないその人の状態は、聞いてみないとわからない。それを自分の常識や固定概念で決めつけるのは、お互いの理解を難しくしてしまいます。どんな背景を持つ人でも働きやすい職場をつくっていくのであれば、自分の知らない相手の姿を想像する力はとても大事。丁寧なコミュニケーションを心がけていくことで、少しずつ環境も変わっていくのではないかと思います。
- 1