- 取材・執筆:石澤萌(sou)
- 撮影:大畑陽子
- 編集:服部桃子(CINRA, Inc.)
- 監修:細川モモ
更新日:2024年04月18日
4月は新生活シーズン。日頃の体調やいまの健康状態を踏まえ、生活を見直すにはぴったりの季節です。「人は食べたものでできている」といわれるように、私たちの生活に欠かせない食事は特に意識したいポイントのひとつ。病気の予防だけでなく、生理痛・PMSといった女性特有の悩みを改善するためにも、日々の食事から摂る栄養は大切です。
今回は、予防医療・栄養コンサルタントで、母子の健康を考える一般社団法人ラブデリの代表として約7,000名もの働く女性を調査してきた細川モモさんにインタビューを実施。「女性に必要な栄養素」をテーマに、前後編でお届けします。前編では女性が抱えがちな健康課題や必要とされる栄養素、普段の食事で気をつけたい点についてうかがいました。
妊娠・出産やキャリアアップ。女性の未来の選択肢を狭めたくない
―細川さんが学んでいる「予防医療」とはどのようなものでしょうか?
細川:予防医療とは、病気にかかってから治療を受けるのではなく、そもそも病気にかからないように日頃から対策することです。私はそのなかでも母子健康を専門にしていて、出産を希望する女性、妊娠中の女性、そして産後の女性をサポートすることで、母子2世代の健康支援を行なっています。
―なぜ予防医療が大切なのでしょうか。
細川:ここ数十年間で女性の社会進出が進んだことで、女性のライフスタイルは大きく変化しました。忙しく仕事をするあまりに、運動・食事・睡眠という当たり前の生活パターンが整えにくくなってしまったんです。その状態が5年、10年と続いてしまうとからだにガタがきて、自律神経失調症や月経異常が起こりやすくなり、やがてはほかの疾患にも結びつくことも。その疾患は、場合によっては妊娠・出産を希望する際にナーバスな問題として付き纏ってくる可能性もあります。
病気は、ポジティブな暮らしを難しくします。また、妊娠・出産やキャリアアップなどのライフプランにおいても選択肢を狭めかねません。「健康を維持し、病気を予防する」というのは、自分の人生のさまざまな可能性を守るためにも必要なことなんです。それらの課題を見つけ、改善策を探るべく、私が代表理事を務める一般社団法人ラブデリでは、これまで約7,000名もの働く女性を調査してきました。
働く女性の約4割が朝食を食べていない
―働く女性が増えたことで、具体的にどのような健康課題が生まれたのでしょうか。
細川:以前、朝食において749名に調査したところ、働く女性の朝食欠食率が非常に高いことが判明しました。データで見ると約4割の女性が朝ご飯を食べていません。
その背景の一つには、残業があります。残業で夜ご飯を食べるのが遅くなり、夜遅くに脂っこい食事をしたりお酒を飲んだりする食生活が続き、翌朝も胃もたれして朝ご飯を食べられなくなってしまうんですね。
さらに、朝の時間の余裕のなさも要因の一つです。体調不良や睡眠不足から一分一秒でも長く寝ていたい、けれど女性はヘアメイクなどの仕度も必要なので、朝ご飯よりもそちらを優先する……という姿は容易に想像できます。また、地方で実家暮らしをしている人は同居している親などが朝食をつくってくれることもありますが、東京などの大都市の場合は一人暮らし世帯が多く、「誰かが朝ご飯をつくってくれる」状況がないことも朝食を抜いてしまう一因といえるでしょう。
―朝食を抜くことで、どのような問題が起こりうるのでしょうか?
細川:たとえば、鉄分の不足による「鉄欠乏性貧血」の発症が考えられます。鉄分はもともと吸収率が低いのに加えて、女性は月経で鉄分が失われます。ですから、出血量に応じて必要な分だけ摂取しなければなりません。出血量の多い方だと1日16mg、普通の方でも10.5mgは摂らなくてはいけないのに、現代女性の鉄の平均摂取量は1日6mg台とかなり少ない。そうなると血圧が下がってますます朝起きるのが辛くなり、集中力・認知力も落ちて心身ともに疲れやすくなってしまいます。3食バランスよく食べてこそ、やっと必要な量の鉄分が摂取できるんです。
また、朝食を抜いたせいで体内時計が乱れて体脂肪率が上がった、あるいは、忙しく働いているうちに数キロ単位で痩せていたということもありますよね。こうした変化も婦人科系に悪影響を及ぼします。
ー私も過去、忙しくて食事を怠ってしまって1か月で4kg痩せていたことがありました。体重や体脂肪の増減もからだに負担をかけるのですね。
細川:はい。からだだけじゃなく、生殖機能にも負担がおよびます。体重や体脂肪が必要以上に減ると、生殖機能が衰えるスピードも早くなるのです。いまの日本では夫婦の約4組に1組が不妊治療を受けています。不妊の原因はさまざまですが、なかには長いあいだ乱れた食生活を続けた結果、生殖機能が弱り、不妊となるケースもあるんですね。
仕事を頑張ること自体が悪いわけではないですし、その選択も素晴らしいことです。仕事を頑張る時こそ日々の食事を意識して、できる限りからだに受けたダメージを癒し、健康な状態を目指してもらいたいです。
女性に必要な3つの栄養素とは?
1 鉄分
―女性が摂るべき栄養素を教えてください。
細川:まずは先ほども挙げた鉄分です。鉄は、赤血球のなかの「ヘモグロビン」というタンパク質の成分で、酸素と結合することで、酸素をからだのすみずみまで運ぶ役割があります。ポイントは出血量から摂取量を逆算することで、女性の場合は月経の量などが目安になりますが、痔による出血なども含まれます。鉄分を多く含むのは肉や魚ですが、前述のとおり出血によりからだから出ていきやすいこと、吸収率が低いことを鑑みて「食べても足りない」前提で考えているのがいいと思います。実際に、月経がある女性では年代にもよりますが、7〜8割が鉄欠乏であり、体内の総合的な鉄の量を表す貯蔵鉄(フェリチン)もこの10年で平均値が半分まで減少してしまっています。
―鉄分には「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」がありますよね。どういった違いがあるのでしょうか?
細川:動物性食品に多く含まれるものを「ヘム鉄」、植物性食品に多く含まれるものを「非ヘム鉄」といいます。大きな違いは鉄分の含有量と吸収率です。ヘム鉄は1回で摂れる量と吸収率がかなり高いんですが、含まれる食品は赤身肉やレバー、魚などと、毎日食べ続けるには難しいところがあります。
非ヘム鉄は鉄分量が少なく吸収率も低いものの、納豆、卵、ほうれん草や小松菜など身近な食材に含まれているので、1年をとおした総合的な摂取量でいうと非ヘム鉄のほうが貧血を防いでいるともいわれています。「塵も積もれば山となる」ですね。
ただ、土壌の痩せ細りなどが原因で非ヘム鉄の食品含有量も年々下がってきています。女性の8割が貧血状態であるいま、たとえ毎日納豆などを食べていたとしても、「自分も貧血なんだ」という意識を持って積極的に鉄分を摂っていただきたいです。
また、経血量が多く、貧血気味で、普段からコーヒーや緑茶を多めに摂っている方は飲む量を減らしましょう。腸管からの鉄の吸収を妨げてしまい、男女ともに貯蔵鉄(フェリチン)値と関連していることがわかっています。
2 ビタミンD
細川:免疫を正常に働かせる作用を持つビタミンで、感染症や糖尿病、がんなど、ありとあらゆる病気の予防に関わってきます。女性の場合、子宮内膜症やPMS、生理痛といった婦人科系の疾患予防にも効果的です。
日光を浴びることで体内生成されるビタミンなので、自然につくろうと思うと住んでいる地域の日光量や日照時間が影響してきます。食事からも摂取可能で、メインはお魚、そのほか卵やきのこにも含まれますが、日光と食事だと日光のほうが生成に関わる比率が大きいと言われています。
ー日焼け止めを塗ったり、アームカバーをしたりするとビタミンDも減ってしまうんでしょうか?
細川:おっしゃるとおりです。紫外線はシミの原因ではありますが、ビタミンDの生成という観点でいえば近年の研究(※1)によると、ビタミンDが不足してしまうと、早産のリスクが高まるなど、妊娠・出産にビタミンDが関わってくることもわかってきているので、病気の予防も含めて必要な栄養素です。
※1 Zhang H, et al. Nutrients. 2022 Oct 11;14(20):4230.
3 DHA(ドコサヘキサエン酸)
細川:体内ではEPA(エイコサペンタエン酸)からつくられ、脳や神経組織の機能を高める働きがあります。痛み、かゆみなどのからだの炎症反応を整えてくれるもので、この季節だと花粉症による目のかゆみなどにも効果的です。また、うつ病の予防やPMSの改善にも好影響を与えることがわかってきています。つまり、身体面・精神面の両方に働いてくれるんですね。
―DHAといえば魚から摂取できるイメージがあります。
細川:主に魚の脂によく含まれています。ここ数年魚の摂取量が減ってきているのですが、魚は鉄分・ビタミンD・DHAの3つがすべて含まれている食材なのでぜひ積極的に食べてほしいです。生魚が難しければサバ缶でもOKですし、外食するなら回転寿司がおすすめです(笑)。
タンパク質を毎食「片手ひと盛り分」食べること
―そのほか、普段の食事で気をつけるポイントはありますか。
細川:食事のルールとして、「今日何を食べようかな」と献立を考える際に、必ずタンパク質を取り入れるようにしてください。量の目安は、片手ひと盛り分。5大タンパク質の肉・魚・大豆・卵・乳製品を組み合わせて片手ひと盛り分食べたら、からだに必要なほかの栄養素も、おおよそ一緒に摂ることができます。逆に言えば、うどんやペペロンチーノなどタンパク質が含まれていないものばかり食べてしまうと、人間のからだをつくる材料が足りなくなってしまい、肌や骨が痩せ細る、女性ホルモンの欠乏などさまざまな問題が出てきてしまいます。
細川:栄養素単体をみて、「これだけたくさん食べよう」と思わず、「タンパク質を片手ひと盛り3食絶対!」のルールを意識する。こうすれば基本的には栄養失調になりません。パスタならペペロンチーノよりも、あさりなどのタンパク質を多く含む魚介類が入ったパスタなどを選ぶ。コンビニに行ったときは、おにぎりにゆでたまごやヨーグルトをプラスしてみる。ぜひ、毎日の食事で意識してみてください。
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