- 取材・執筆:阿保幸菜
- イラスト:ナガタニサキ
- 編集:服部桃子(CINRA, Inc.)
- 監修:有吉与志恵(コンディショニング・トレーナー)
更新日:2024年05月21日
気温も上がり、快晴の日も増えてきた5月。からだを動かす機会が増えたり、運動にチャレンジしてみたくなったりする人も多いのでは? ですが、普段から運動をしていないと急にからだを動かしたことで辛い筋肉痛に悩まされる、なんてことも……。そこで今回は、筋肉痛のあれこれを、スポーツ選手のコンディション管理も行なっているコンディショニング・トレーナーの有吉与志恵さんに取材。後編では、筋肉痛の効果的なケアについて、より詳しくお話いただきました。
自己流のマッサージはさらなる筋肉痛を引き起こす!?
―前編では、筋肉痛の基礎的な知識を教えてもらいました。後編では筋肉痛のケアをうかがえればと思います。運動後に筋肉を揉んだりマッサージしたりする人は多いと思うのですが、これはそもそも効果があるのでしょうか?
有吉:マッサージは、正しい方法でできれば良いのですが、自分でやるとしたら揉むのはNG。おすすめしたいのは、からだをさするという方法です。筋肉痛が起きている箇所を、筋肉の走行に沿ってさするんです。筋肉の走行に逆らったり強く力をかけすぎたりすると筋肉が傷つくことがあります。指圧などで揉み返してあざになるのは、内出血している証拠。ギューッと強く押されるようなマッサージは、筋肉痛のケアとしては、自分でするのも、人から受けるのも避けたほうが良いでしょう。
最近マッサージガンも流行っていますが、こちらも同じです。強い振動がくせになっている人もいると思いますが、軽い振動を広範囲にあてることをおすすめします。
―ではストレッチはいかがでしょうか。運動前後に行なう人も多いと思います。
有吉:運動直後であればストレッチは問題ありません。ただ、運動前はストレッチよりも有酸素運動などによるウォーミングアップがおすすめです。じつはストレッチは、正しく取り入れないと、かえって筋肉が硬くなったり、神経伝達が悪くなって筋肉のパワーや反射スピードが落ちたりするという報告もあります(※1)。運動直前にギューッと伸ばすようなストレッチをすると、「伸張反射(しんちょうはんしゃ)」という生理的な反射によって筋肉が収縮しようとしてしまい、だんだんと硬くなってしまうんです。
私は、運動不足の人が筋肉痛を起こさないために、ストレッチではなくウォーミングアップをして体が温まった状態で運動に入ることが大切だと考えています。血流を良い状態にして、筋膜の滑りをうながしておくのです。
※1 理学療法の歩み 33 巻 1 号 2022 年1月 ストレッチングアップデート―ストレッチングで“予防できるもの”と“予防出来ないもの”―中村雅俊
運動直後のタンパク質で筋肉の修復をうながす
―筋肉の修復という面では、どのような栄養を摂るかも重要だと思いますがいかがでしょう?
有吉:そうですね、もちろん、筋肉の修復に栄養はかかせません。筋肉の修復には、プロテインなどのタンパク質に加え、筋肉の主成分であるタンパク質を構成しているアミノ酸を、運動直後に摂るのをおすすめします。さらに、ビタミンやミネラルといった栄養素も同時に摂れるとより良いと思います。
ただ、運動直後はエネルギーが枯渇した状態なので、アミノ酸だけ摂取したとしても、それがエネルギー源にはなるものの筋肉の修復まで回らないんですね。ですから私は、効率的に筋肉の修復を進めるために、オレンジジュースなど糖質を含む飲料を飲むことも、強度の高い運動をする方にはおすすめしています。糖質は摂取してから最も早くエネルギーに変わる栄養素なので、摂るとエネルギーが全身に行き渡ります。運動直後は糖質でエネルギーを補給しておいて、それからアミノ酸を摂ることで、筋肉の修復の材料に使われるようにするんです。
運動直後には、からだが回復させようというモードになるので、成長ホルモンが出てきます。そのときに筋肉を修復する材料があれば、遅発性筋肉痛は起きにくくなります。要は、タンパク質をどれだけ効率的にきちんと摂れるかが重要ということです。
「これだけ食べればOK」はない。筋肉のために摂りたい栄養は?
―では、筋肉の回復期間は、何を食べるのが良いのでしょうか?
有吉:食事面で言えば、タンパク質はもちろんですが、それの代謝をうながすビタミンB6も摂取すると良いでしょう。また、ビタミンCも大切です。ビタミンCは、人体に存在するタンパク質の30%を占め、皮膚や腱、軟骨などの構成成分の一つであるコラーゲンをつくってくれるので、筋肉のためにしっかり摂りたい栄養ですね。
―タンパク質はよく聞きますが、その他のビタミンも大事なんですね。
有吉:そうですね。「○○だけ摂ればいい」ということはなくて、もっと複雑なんです。トレーニングをしてささみとブロッコリーだけ食べればOKというわけではなく、どんなからだを目指したいのかによって、摂るべき栄養が変わってきます。きれいなボディラインをつくりたいのか、筋肉を大きくしたいのかによっても変わるのです。例えば、筋肉の回復をよりうながすためには鶏肉よりも豚肉のほうが良いとか、良質な筋肉をつくるためには赤身の牛肉を食べると良いとか、細胞膜を健康的に保つには青魚が良いとか。「これだけ食べればOK」ということはないんですね。
そのうえで申し上げるとすれば、ダイエットを気にされる方は脂質を避けがちですが、特に女性には脂肪を食べてほしいなと思います。脂肪は皮下脂肪になると思われていますが、細胞膜や内臓の粘膜をつくったり、女性ホルモンを健やかに保ったりするためにとても大切な栄養素です。
―最後に読者の皆さんへメッセージをお願いいたします。
有吉:WHO(世界保健機関)が、“自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること”を「セルフメディケーション」と定義しているように、筋肉痛のケアに関してはもちろん、さまざまな情報に流されるのではなく、自分のからだに対して責任を持つことが大切です。自分の健康は自分で守り、自分のからだ、自分の美も自分でつくる。そのような意識が、今後より広まっていくことを願っています。
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