- 取材・執筆:阿保幸菜
- イラスト:ナガタニサキ
- 編集:服部桃子(CINRA, Inc.)
- 監修:有吉与志恵(コンディショニング・トレーナー)
更新日:2024年05月09日
祝日も多く、ぽかぽか陽気の日も多い5月。からだを動かす機会が増えたり、運動にチャレンジしてみたくなったりする人も多いのでは?ですが、普段から運動をしていないと急にからだを動かしたことで辛い筋肉痛に悩まされる、なんてことも……。そこで今回は、筋肉痛のあれこれを、スポーツ選手のコンディション管理も行なっており、筋肉に関して深い知見を持つコンディショニング・トレーナーの有吉与志恵さんに取材。前編では、そもそも筋肉痛はなぜ起こるのか、筋肉痛の基礎知識やしくみについてお話いただきました。
乳酸が溜まる=筋肉痛になる、ではない
―まず、筋肉痛の発生や症状について、年代によって違いというのはあるのでしょか?
有吉:じつは、若いから筋肉痛が早く起こるとか、年齢を重ねると筋肉痛が遅れてくるというような、年代による筋肉痛になる早さや症状の違いって特にないんです。筋肉痛には、大きく分けて「急性筋肉痛」と「遅発性筋肉痛」の2種類があります。
急性筋肉痛というのは、運動した直後や、または早ければ運動中に痛みが出てくる筋肉痛のこと。この場合、ひどいときは筋肉の震えが止まらないこともあります。そして、時間を置いてやってくる筋肉痛が、遅発性筋肉痛です。皆さんが「遅れてやってくる筋肉痛」と思っていらっしゃるのも、このことだと思います。
―そもそも、なぜ筋肉痛は起こるのでしょうか?
有吉:まず、筋肉の構造から説明しますね。筋肉とは、「筋繊維」が束となり「筋膜」に包まれて形成されたものです。重なり合う筋膜のあいだには、ヒアルロン酸が主な成分である潤滑液が流れていて、運動する際の筋肉の動きをよくしています。
運動し、エネルギーを使ったあとに筋肉のなかで発生するのが、「乳酸」。乳酸が溜まると筋繊維の滑りが悪くなり、熱を持つため、炎症を引き起こすと考えられます。筋肉に炎症が起きたりして小さな傷がつくと、それを修復する過程で炎症反応が生じます。それが筋肉痛なのです。
筋肉痛には急性と遅発性の2種類ある
―「急性筋肉痛」はどのような場合に起こりやすいのですか?
有吉:とても激しい運動やウエイトトレーニングなどをすると、筋肉に大きな負荷がかかり、緊張状態となり、血の巡りが悪くなります。「もう筋肉動かなくなったよ」「血液循環悪いよ」というサインが筋肉から出て、そこめがけて体内の水素イオンなどが傷ついた場所にワーッと集まってくる。そのため、すぐに痛みを伴う「急性筋肉痛」になるというわけです。
―かなり強度の高い運動をした際に起こるものなのでしょうか。
有吉:そうですね。例えば、アスリートが追い込んだ練習をすると炎症を起こして筋肉痛を通り越して発熱することがあります。子どもにも起こりやすく、昼間、運動会の練習を一生懸命やって夜に熱が出てしまうこともあります。筋肉を一気にたくさん使える人が、この「急性筋肉痛」が起こりやすいです。なので、動ける人=子どもや若年層に多いという考え方もできるかもしれません。
―「遅発性筋肉痛」はいかがでしょうか。
有吉:筋肉を動かすと、筋原線維に微細な断裂が起きたり傷ついたりします。断裂がたくさん起こると、筋肉は太くなって成長しようとします。それが「筋肉がついた」ということなんですね。
年齢にかかわらず、筋肉痛が遅く出る方は、その傷を修復するための修復物質が筋肉に行き届きづらい状態になっています。運動をあまりしない方に起こりやすいのですが、そういう方は、体の細部に栄養や酸素を運ぶ毛細血管の発達が見られにくい。そして溜まった発痛物質を老廃物として排出するのも遅れがちになります。
つまり、筋肉痛が早く現れる人と、遅く現れる人の違いは、簡単に言うと、起きている筋肉痛の種類が異なるということです。そしてそれらは普段の運動量の差によって起こりやすくなると考えられます。
最近よく聞く、「超回復」とは?
―運動量の差で、筋肉痛の起きやすさが違うんですね。
有吉:そうですね。あとは、その人それぞれの筋肉の種類にもよります。例えば、年齢を重ねていて、かつ普段あまり運動をしていなくても、筋肉がしっかりしている人もいます。こういう方は、ちょっと早歩きしたりしただけでも筋トレしたときのような反応(急性筋肉痛)が起こります。これは遺伝的な部分も関係しているといわれています。
ただし、年齢を重ねると筋繊維はどんどん痩せてくるので、おのずと運動能力も落ちてきます。全力疾走できるお年寄りってなかなかいませんよね。年齢を重ねると瞬発的に大きな力が出せなくなるので、筋肉痛の発生スピードも遅くなる場合が多いのだと考えます。
―発生スピードといえば、筋トレなどを繰り返すことで起こるといわれている「超回復」という言葉をたまに聞きます。これについて、有吉先生のお考えを聞かせてください。
有吉:「超回復」は、筋トレなどをすることで破壊された筋線維が破壊と再生を繰り返していくことによって、筋肉が太く強くなっていくことを指します。例えばウエイトトレーニングをする人は、筋肉のダメージが回復したらまたトレーニングをして破壊し、回復したらまた破壊するということを続けて筋肉を太くしているんですね。
筋肉が回復するのに、部位にはよりますが約48~72時間かかるので、毎日筋トレを続けているとオーバーワーク気味になります。筋肉の破壊ばかりどんどんされていって、修復が追いつかないのでかえって筋肉が痩せてしまうこともあります。正しく筋肉をつけるには、運動直後にタンパク質などを摂取して、回復を促す必要があります。
筋肉痛の回復速度は、血行の良し悪しも関係する
―筋肉痛を放置すると、何かデメリットはあるのでしょうか?
有吉:筋肉痛を放置しておくと血流が悪い状態が続き、回復に時間がかかります。血液には栄養を全身に運ぶ役割があるので、血行を良くすることで筋肉の修復に必要な栄養を届けてあげることが大切です。
要は、動かなくなった筋肉は血流が悪くなっている状態なので、筋肉のコリや張りというのも、血流が悪いという意味では筋肉痛と一緒なんですよね。ですから、血行をよくするために、きちんと入浴してからだを温めたりするのはもちろん良いですし、じっとしているよりも軽く動いたほうが良いと思います。
―軽く動くとなると、ウォーキングとかも良いのでしょうか?
有吉:そうですね。まったく歩かないよりは、1日10分だけでも歩いたほうが血行は良くなります。歩くことは全身運動で、全身が連動して動くんですが、その連動がうまくいかないとからだのどこか一部分だけに負担がかかってしまって、故障の原因にもなってしまいます。からだのゆがみや姿勢にも日頃から注意できると、筋肉痛もひどくなりにくいですし、運動能力の向上にもつながると思います。
―ありがとうございます。血流だけ、姿勢だけ、など一部分だけ気をつけるというよりは、いろんな側面から複合的に気をつけることで筋肉痛の改善や運動能力の向上につながるということですね。後編では、具体的なケアについて、より詳しくおうかがいします。
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