- 取材・執筆:只野まり子
- イラスト:黄身子
- 編集:服部桃子(CINRA ,inc)
更新日:2023年08月02日
夏真っ盛り。暑さのあまり、冷たいものを食べすぎたり、キンキンに冷えたお酒をつい飲みすぎてしまったり。それによって起こる胃腸の不調に悩まされる方も多いのではないでしょうか。また、長期休暇を利用した海外旅行など、遠出した先でお腹を壊す……なんてことも起こりがちな時期です。そこで今回は、食や旅を愛し、日々さまざまなメディアを通じて発信している3人に、普段どのように夏の胃腸の不調を乗り越えているかや、対処方法をヒアリング。そして、その方法について、医学的な見解を川西市立総合医療センター総長で消化器内科医の三輪洋人先生にアドバイスいただきました。夏を満喫するためにも、一緒に胃腸のケアについて考えてみませんか?
「かき氷の女王」が実践している、お腹を冷やさない方法とは?
原田麻子さん
・かき氷専門店「氷舎mamatoko」オーナー
・2004年以来、かき氷を毎日食べる生活を送り、年間約1,700杯を食べ歩く。「かき氷の女王」の異名を持つ
・Instagram:@achakoko
20年近くかき氷を食べているので、1日4~5杯でしたらお腹を壊したり胃腸の調子を崩したりすることはなくなりました。人間って順応するんだなと思います。
ただ、妊娠しているときは「お腹を冷やさないように」とお医者さまなどに言われていたこともあって、水筒に熱いお湯を入れてお店に持参し、かき氷と交互に口にするようにしていました。かき氷と熱いお湯で、胃の中を常温に保てるので、お湯は熱くないとダメ、というのが私のポイントです。
私がオーナーを務めているかき氷店でも、お客さまには、水ではなくお湯をお出ししています。どんなに暑い日でもかき氷を食べたあとは体が冷えますから、冷たい氷とお湯で、お腹の温度のバランスを保っていただければ、と考えています。
三輪先生からアドバイス
かき氷を1日4〜5杯とはすごいですね。まず、冷たいものを食べるとなぜお腹を壊すのかを解説しましょう。冷たいものが胃や腸に運ばれると胃腸の温度が下がり、特に小腸の動きや働きが悪くなって下痢を引き起こすのです。
順応することがあるかどうかについては、冷たいものではなく、「刺激に慣れる」という観点でのお話しですが、辛いものを食べたときの胃の動きを調べた論文はあります。それによると、日常的に唐辛子をたくさん食べるタイの人は辛いものを食べても影響が少なく、それは唐辛子の刺激を慢性的に受け続けているからではないかと考えられています。この結果を踏まえると、冷たさについてもある程度慣れる可能性はあるのではないでしょうか。
前述したとおり、胃腸の温度が下がるとお腹を壊すので、かき氷と熱いお湯を一緒に食べているのは有効だと言えるでしょう。もしくは、かき氷をゆっくり食べるとお腹は冷えにくくなると思います(氷が溶けていくので現実的にはなかなか難しいと思いますが……)。
お腹が冷えないようにするには、冷たいものを食べ過ぎないのが一番ですが、腹巻などで外側から温めるのも効果があると思いますよ。
飲んべえツイッタラーが実践する、胃腸にやさしい夏の飲酒
魔女っこれいさん
・お酒を中心とした食べ歩きの投稿がTwitterで人気を集める、インフルエンサー
・Twitterでバズったおつまみを集めたレシピ本『自宅が10分で居酒屋に! 魔女っこれいの絶品おつまみレシピ』(扶桑社)を2021年9月に出版
・Twitter:@majyokkorei
夏場は特に、キンキンに冷やしたお酒が美味しい季節。居酒屋の冷房が効きすぎていたりすると二重で身体を冷やし、胃腸の調子を崩す方も多そうですよね。とはいえ、私はもともと胃腸が強いのかそういったことは滅多にありませんが、パートナーは夏になるとよく「胃がむかむかする」「お腹が痛む」と言っています。
自分とパートナーのためにも、胃腸の負担を抑えるべく、夏場は油を使わなくても美味しい料理を積極的につくったり、お店で注文したりしています。冷たい料理なら、お浸しや魚のお刺身などは油分が比較的控えめですし、温かい料理なら蒸し野菜や茹でた鶏肉。どれも、おつまみにピッタリ。
冷たいお酒をたくさん飲んで胃腸の疲れを感じたら、締めにきのこをいれた味噌汁や油分控えめの野菜スープをつくります。さらに、内臓を温めてから床につくようにしています。そうするとぐっすり眠れて、疲れを翌日に持ち越すことがないんです。
三輪先生からアドバイス
夏はお酒に限らず水分を多く摂る季節です。人間の体液というのは、pHやナトリウム・カリウムなどの電解質が非常に厳密にコントロールされています。水分を摂りすぎるとそのバランスが乱れるため、体調の変化につながりやすいと考えられます。
さらに、アルコールには利尿作用があるので、たくさん量を飲みがちなビールなどは電解質の乱れに加えて脱水も起こりやすくなってしまうのです。塩辛いおつまみや締めのラーメンが美味しく感じられるのには、塩分が足りなくなっている可能性も考えられます。
もう一つ、お酒と胃腸の関係で面白いのが「胸やけ」です。酸を感じる受容体(刺激を受け取る機能)がお酒を飲むと反応しやすくなって胸やけを感じやすくなっている可能性があります。ただ、胃腸の不調に季節性があるかどうかはわからないため、魔女っこれいさんのパートナーさんの症状は個人差であると考えられます。
胃腸が疲れたときに油分を控えたメニューを心がけていることは理にかなっていると言えます。脂の多いものは胃に停滞する時間が長く、もたれやすいため、胃腸の負担を考えると脂は控え目にすることがおすすめです。
味噌汁やスープでお腹を温めるのもいいですね。ただし、寝ているあいだに食べたものが逆流してしまわないように、寝る前の3時間は食事をしないのがおすすめです。
胃腸も時差ぼけ? 旅行時に気をつけたい食事のポイント
田島知華さん
・60か国、250都市以上を訪れた、トラベルフォトライター
・著書に『海外ひとり旅ガールの便利帖』(晋遊舎)など。そのほか、さまざまなメディアで情報を発信中
・HP:http://tajiharu.main.jp/
仕事で海外に行く場合、レポートなどをする必要があるため、どうしても油っぽいものや食べ慣れないものをたくさん食べることになってしまうのですが、そうすると胃の調子が悪くなってしまうんです。そのため、自分で選べる場合は海外でもできるだけ普段日本で食べるような食事をすることに加えて、食事のリズムを守ることも心がけています。
また、水にも気をつけています。旅先で水道水や氷を避けることは多くの方がしていますよね。私はそれだけでなくミネラルウォーターを飲む場合も、お腹の調子が悪くなりそうだなと思ったら軟水のミネラルウォーターを選んでいます。海外は硬水のほうが一般的なことが多いんですよね。
そのほか胃腸を守るための対策として、仕事でもプライベートでも、旅行には胃腸薬も必ず携帯するようにしています。旅先でお腹が痛くなってしまうとせっかくの旅行が楽しめないので、必需品ですね。
旅先に限らない胃腸の悩みとしては、空腹だと胃が痛くなること。ピロリ菌の検査もしましたが、陰性でした。もうひとつは乗り物酔いをしやすいタイプということ。胃がむかむかしてしまうので、飛行機に乗る前には必ず酔い止めを飲んでいます。
三輪先生からアドバイス
胃の動きや便の水分量を調整しているのが自律神経です。日中活動しているときにはONの状態(交感神経優位)に、夜になるとOFFの状態(副交感神経優位)になります。
時差が大きい海外などに行くと昼夜逆転するため、自律神経のバランスが乱れて胃腸の調子が悪くなりがちです。胃腸も時差ぼけしますので、そんなときに胃腸の負担になるような食事はあまり食べないようにしたいところですね。
水の問題については、硬度というより水の清潔度が問題になることが多いと思います。海外の生水や氷でお腹を壊すのは、水に含まれている細菌が原因です。しばらくすると治ることがほとんどですので、あまり心配はいりません。
ただ、お腹を壊したときに下痢止めを飲む場合には注意が必要です。細菌等による炎症が考えられる場合は、腸管運動抑制成分の入った下痢止めは使わないようにしましょう。体が不要なものを出そうとしているときに、その働きを止めてしまう恐れがあります。どうしても使用が必要な場合は、腸内の有毒な細菌の増殖を抑え、殺菌する殺菌成分を配合した下痢止めを選択しましょう。日常的に腸内細菌のバランスを整えたいなら、乳酸菌等を配合した整腸薬もおすすめです。
そして、旅行中に便秘になりやすいという場合は、旅先にぜひ便秘薬や整腸薬を持って行ってほしいですね。自律神経のバランスが乱れがちになる旅行中は便秘になりやすいですし、旅行中も排便のリズムを維持することが大切です。
空腹で胃が痛くなるということですが、考えられるのは胃酸が十二指腸に流れ過ぎていることでしょうか。一度、「H2ブロッカー」など、胃酸分泌を抑える薬などを試してみるのもいいかもしれません。
なお、乗り物酔いについては、耳の奥にあって平衡感覚を司っている三半規管が脳に伝える乗り物の揺れや加速・減速の情報と、目や体から伝わる情報が異なることで脳が混乱した結果起こる反応です。三半規管が脳の嘔吐中枢を刺激するため、吐き気や嘔吐の症状を引き起こします。事前に酔い止めを飲むことで、嘔吐中枢への刺激伝達を遮断したり、自律神経の興奮状態を緩和したりするため、ある程度症状をおさえることができます。
自分の胃腸を守れるのは自分だけ。「対処はもちろん、予防も心がけて」
三輪先生:胃腸の調子が悪くなると、食事や旅行が楽しくなくなるばかりでなく、日常生活にも支障が出ます。どんなときに胃腸の調子が悪くなりやすいのか、自分の体の特徴を把握して不調になる手前で手を打てるような「予防」マインドが大切なのではないでしょうか。例えば、20〜30代でピロリ菌の検査をしたことがなければ、ぜひ一度調べてみてください。ピロリ菌がお腹にいなければ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍になる可能性がかなり下がります。
また、今回お話をうかがった3名は、普段からそのような生活に慣れているからか、胃腸の負担が大きい状況でもあまり不調が出ないようです。しかし、予防の観点としては、食べ過ぎない、飲み過ぎないことが一番重要です。下痢なども、自律神経の乱れが原因となることもあるので、ストレスを溜めず、リラックスして過ごすことも予防になります。
胃腸の不調が起こった際、すぐに対応することも大事ですが、それが起こらないように普段から予防を心がけて、元気に過ごしてくださいね。
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