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大人と子どもの「風邪」の違いとは?知っておきたい「親子の風邪」の原因・対策のポイント

November 1, 2023

  • 取材・執筆:只野まり子
  • イラスト:モチダちひろ
  • 編集:服部桃子(CINRA, Inc.)
  • 監修医師:谷口俊文

更新日:2023年11月08日

冬は風邪を引きやすくなる季節。風邪にかかるのは大人も子どもも共通ですが、大人と子どもとで風邪のかかりやすさなどに違いがあるのでしょうか?また、風邪を引いたときの対策や、家庭内で感染を広げないための対策とは?今回は、「大人と子どもの風邪」をテーマに、千葉大学医学部附属病院感染制御部・感染症内科准教授の谷口俊文先生にインタビュー。さらに、育児コミックエッセイで知られるイラストレーターのモチダちひろさんに、「親子の風邪あるある」で1コマ漫画も描いていただきました。ご自宅での風邪対策について、あらためて考えてみませんか?

年間に大人は2〜4回、子どもは6〜8回も風邪を引く

——大人と子どもの風邪について教えていただく前に、そもそも「風邪」とはどんな病気を指すのか教えていただけますか?

風邪とは、正確には「かぜ症候群」と言い、ウイルスや細菌に感染することによって起こる急性上気道炎と定義されます。上気道炎の症状としては、鼻水、咳、のどの痛みが主なもので、これらに加えて発熱が起こるというのが風邪という病気です。

風邪の原因となるウイルスは200種類以上(※1)とも言われるほど多く、それらのウイルスが変異を繰り返すため、特効薬のような薬はなく、何度も風邪を引いてしまう理由でもあります。

※1 参考:「くすりと健康の情報局」風邪(かぜ)の原因

——大人と子ども、それぞれどのくらいの頻度で風邪を引くのか、といったデータはあるのでしょうか。

データと言えるものではありませんが、海外で一般的に言われている話として、大人が年間2~4回風邪を引くのに対して、子どもは6~8回と言われているので、子どものほうが風邪を引く頻度が高いと言えるのではないでしょうか。

ただ、20~30代の女性は大人の平均よりも風邪を引く頻度が少し高くなると言われています。これは、子育て中で子どもと接する機会が多い世代であることが背景にあると考えられます。

——子どもが風邪を引く回数が多いのはどうしてでしょうか。

多くの子どもが保育園・幼稚園・小学校などで集団生活を送っており、風邪のウイルスに曝露する(さらされる)機会が多いことが原因として挙げられます。会話や咳・くしゃみによって、風邪のウイルスを含んだ飛沫を浴びると、口・鼻・目などの粘膜からウイルスが体内に侵入して感染します。飛沫よりも小さいエアロゾル(空気中に漂う粒子)を吸い込むことも感染経路の一つです。

「密集した環境で大きな声を出す」といった行動が感染を広げやすくなるため、運動会、文化祭、合宿・旅行といったイベントがきっかけで感染者が増えることは珍しくありません。

もう一つの原因は、大人と比較して、成長する過程で曝露してきたウイルスの種類が少ないことです。人間の体は、一度曝露したウイルスを覚えているので、次に同じウイルスや似たウイルスに曝露しても免疫のシステムである程度感染を防御したり、症状が重くならずに済んだりするようになっています。そのため、子どもの場合は初めて曝露するウイルスが多いので、大人よりも風邪を引く回数が多くなる傾向にあります。子どもは、出会ったウイルスと戦える武器の数が大人よりも少ない、というイメージをしていただくとわかりやすいかもしれません。

——大人が風邪を引く原因としてはどんなことが考えられますか?

大人の場合も、飛沫を浴びたりエアロゾルを吸い込んだりする機会が多い人のほうが風邪を引きやすいと言えます。具体的にはマスクを着けずに多くの人と話したり、飲食をしたりすることが感染のリスクを上げる行動として挙げられます。

一方で通勤電車のなかなどはあまり会話が飛び交うような環境ではありませんし、換気もされていますので、感染のリスクとしてはそれほど高くないと言えるでしょう。

風邪の引きやすさは「季節」より「環境」

——子どもの風邪が大人にもうつってしまうことはよくあります。この原因は何でしょうか。

一番大きい原因は、飛沫を直接浴びたりエアロゾルを吸い込んだりすることです。家庭内は密閉した環境になりやすく、ずっとマスクを着けていることもあまり現実的ではないため、子どもから大人、または大人から子どもに風邪がうつることになります。

手についたウイルスが口に運ばれることによって感染することもありますが、これは主な原因ではありません。

子どもの風邪が必ずうつるわけではないのは「子どもが風邪を引きやすい理由」で言ったとおり、大人の場合はそれまでにたくさんのウイルスに曝露してきたことによって免疫のシステムが強化されているので、ウイルスに感染しても症状が出なかったり軽く済んだりすることが多いためであり、大人と子どもで感染するウイルスに違いがあるわけではないんです。

——子どもからうつった風邪で大人の方が重症化するということはないのでしょうか?

これまでお話した理由からそうは言い切れません。ただ、子どもは感染しても、体のなかでサイトカインストーム(※2)が大人よりも起こりにくいことはわかっています。新型コロナウイルスにかかっても大人は重症だったけれど、お子さんは風邪みたいな症状で済んでしまった、などですね。

※2 ウイルス感染が大きくなったときに細胞の炎症も拡大し、その際にサイトカイン(細胞から出るタンパク質)が大量に放出される現象のこと

——一般的に、冬に風邪がはやるイメージがあります。実際のところ、風邪が流行しやすい季節はあるのでしょうか。

これまでは、気温や湿度の影響が大きいと考えられてきました。冬は気温・湿度が低いことで風邪がはやると思われがちですが、最近の状況を踏まえると、そう言い切れないと考えられています。

2023年の9月は、気温も湿度も比較的高い状況でインフルエンザの流行が拡大し、東京都など一部の地域では注意報が発出されました。また、2021年4~6月というコロナ禍の真っただなかで、風邪を引き起こすウイルスの一つであるRSウイルスが子どものあいだで大流行したということもありました。これらのことから、気温や湿度だけが流行に影響するわけではないと考えられるようになったのです。

コロナ禍でわかってきたのは、エアコンを使用するため換気しづらく、部屋にこもりがちになる夏と冬に風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルスなどの感染が広がりやすいということ。つまり気温や湿度よりもウイルスに曝露しやすい環境のほうが、感染への影響が大きいと言えそうです。それに加えて、感染することで免疫がついたり、ワクチンがある感染症ではワクチンの接種によって得られる免疫がついたりする人がどれくらいいるかによっても、感染症の流行が変わってきます。

家庭内で風邪を蔓延させないために、押さえておきたいポイント

——家族間で風邪がうつらないようにする方法はありますか?

まず、小さなお子さんの風邪に関しては対策が難しいですね……。小さいお子さんが家庭のなかでマスクを着けるのは難しいので、ケアをする大人はどうしても飛沫を浴びてしまいます。大人がマスクをして防ぐこともできますが、現実的ではないことも多いでしょう。

お子さんの年齢が上がってくると、マスクを着けられるようになるので、家庭内でもマスクで対策することができます。お子さんがマスクを嫌がらない年齢には個人差がありますが、おおむね5歳以上であれば、本人や一緒に暮らしている大人が風邪を引いたときに家庭内でもマスクを着けると感染が広がりにくくなります。

もう1点、できるだけ空間を分けることも大切です。お子さんが自分の部屋をもっている場合、風邪を引いているときは自分の部屋にいて、そこで食事もしてもらうのが望ましいでしょう。

子ども部屋がない場合は、2メートルくらい距離を取ることを心がけてください。飛沫は重いので、2メートルくらいしか飛ばないことがわかっています。飛沫とは異なり、エアロゾルは空気中を漂いますが、感染者がマスクを着けることで吐き出すエアロゾルの量を大幅に減らすことができますし、感染していない同居者が吸い込む量を減らすことができます。

これらに加えて換気や空気清浄機などで、とにかく風邪を引いた人の飛沫とエアロゾルを体内に入れないようにすることが、家庭内で風邪がうつらないための対策になります。大人の風邪を子どもにうつさないようにする対策についても同様で、家庭内でもマスクを着けて、部屋を分けたり距離を取ったりすることを心がけましょう。

体力回復もままならない風邪。無理せず市販薬の活用や病院の受診を

——風邪と間違いやすく、場合によっては命にかかわるような病気はありますか?

子どもだけでなく大人もですが、第一に挙げられるのは「肺炎」です。風邪は上気道炎といって、鼻・のど・気管にウイルスや細菌が感染する病気であるのに対して、肺炎は肺にウイルスや細菌が感染している状態。呼吸が苦しくなって、命にかかわることもあります。

また「髄膜炎」といって、脳の周りを覆っている髄膜にウイルス・細菌が感染する病気もあります。発熱や頭痛の症状があるので風邪と間違いやすいのですが、なかでも「細菌性髄膜炎」の場合は適切なタイミングで治療しないと後遺症が残ったり、命にかかわったりするので注意が必要です。

高熱が何日も続いたり、風邪とは思えないような症状があったりする場合は、一度医療機関を受診することをおすすめします。

命にかかわる病気として、のどが腫れる病気もあります。「急性喉頭蓋炎」や「咽頭周囲膿瘍」という病気で、どちらも呼吸の通り道がふさがれてしまうため、症状が進行すると自力で呼吸できなくなります。呼吸が苦しい、つばも飲み込めないくらい喉が痛い、呼吸時にヒューヒュー音がする、といった症状がある場合、これらの病気の可能性がありますので早めに医療機関を受診してください。

——市販薬を使う目安や、医療機関を受診するタイミングの見極めなどについても教えてください。

熱、咳、鼻水といった症状があると眠りづらく、十分な睡眠が取れないと体力が回復しないので風邪が治りにくくなります。症状がつらいとき、発熱なら解熱剤、咳なら咳止めというように、つらい症状を緩和してくれる薬を使うようにしましょう。市販薬を飲んでも症状が改善しないようなら、やはり医療機関を受診してください。また、急に38℃以上の高熱が出たり、発熱だけでなく関節痛を伴ったりなど、インフルエンザが疑われる症状がある場合は、市販薬を使用せずに医療機関を受診してください。

お子さんの場合、生後6か月までなら、高い熱が出た場合は受診したほうが良いですね。生後6か月以上の子は、市販薬で改善しないときや、普通の風邪とは様子が違うときは早めに医療機関を受診してください。子どもは、熱とともにけいれんを起こすこともあります(熱性けいれん)。その場合も受診したほうがいいでしょう。

——子どもは薬を飲むことを嫌がる場合もありますが、飲ませ方にアドバイスをいただけますか。

市販薬では、シロップや水がなくても飲めるものなどさまざまな剤形があるので、対象年齢に合わせて楽に飲めるものを選ぶと良いと思います。病院で処方される薬の場合は、子どもが苦手な味のものも多いんですね。その場合は服薬専用のゼリーを活用すると良いでしょう。それでも飲んでくれなければ、主治医に相談しましょう。

——最後に、谷口先生よりメッセージをいただけますでしょうか。

「子どもが風邪を引きやすい理由」でも話したとおり、子どもは成長する過程でさまざまなウイルスに対する免疫をつけていきます。感染症によっては、一定の確率で命を落としたり後遺症が残ったりということも起こります。しかし、ワクチンを打つことで、感染しなくてもそのウイルスと戦える武器を持つことになります。予防接種をはじめさまざまな対策をとり、今後のウイルスとの戦いに備えてほしいと思っています。

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