「太陽光を浴びることの大切さ」と「正しい紫外線対策」の両立がセルフケアのカギ(前編)

紫外線やブルーライトの効果と影響を正しく知ろう

2022.05.31 更新

太陽光に含まれる紫外線は、肌の老化や皮膚がんに関係する「悪者」と敬遠されがちです。しかし実は、日中適度にお日様の光を浴びることは、骨密度や免疫力の維持、体内時計のリセットにつながり、日常のセルフケアに取り入れてほしい行動でもあります。
コロナ下によるステイホームをきっかけに屋外で過ごす時間が減った、いわば“屋外不足”。そんな今だからこそ、ダメージを防ぎながら上手に光を利用するポイントをご紹介します。

「太陽光」には種類がある―それぞれの働き

「紫外線対策」の大切さが浸透する昨今、とかく太陽の光は目の敵にされがちです。確かにシミ・シワをはじめ、皮膚に与える影響や、角膜炎、白内障といった目の疾患の原因となる可能性があることなど、太陽光、中でも紫外線が体に与える好ましくない影響については注意する必要があります。

一方で、私たちは太陽光の体への有用性も同時に理解しておく必要があることが最近の研究で明らかになってきました。紫外線を含む太陽光は悪い影響を及ぼすだけでなく、大きなメリットも与えてくれるのです。

大切なのは、太陽光によるダメージを避けつつ、その恩恵を受ける「適切な付き合い」を心がけることなのです。

太陽光には様々な波長の光が含まれ、波長ごとに体への影響が異なります。『紫外線』は波長が380nm(ナノメートル)以下と可視光よりも短い光で、波長ごとにUV-AやUV-B、UV-Cの3種類に分類されています。このうちUV-A、UV-Bは“肌の老化”や“皮膚がん”との関連がわかっています。
一方、UV-Bは“ビタミンDの合成を助ける”という機能も持っています。

また、400~500nmの波長の『ブルーライト』や、紫外線とブルーライトの境界域にある360~400nmの波長の『バイオレットライト』は、適切なタイミングで適切な量を浴びることで人体に好影響をもたらすことがわかってきました。つまり、必要な光を必要なタイミングで浴びることこそが、健やかな体づくりに欠かせないということです」と慶應義塾大学名誉教授の坪田一男先生は説明します。

それぞれの光の特徴は次の通りです。

太陽光の種類と波長

太陽光の種類と波長の図

地上に届く太陽光は、プリズムなどを通すと人間の目で感知できる波長域の「可視光線」といわれる光と、目では感知できない「紫外線」「赤外線」などの光で構成されています。

可視光線の中で最も波長が短いのが「紫色の光」。紫色の可視光線より波長の短い光を、紫の外側にある光なので「紫外線」と呼びます。一方、可視光線の中で最も波長が長い「赤色の光」より波長の長い光は「赤外線」と呼ばれます。

紫外線 波長が380nm以下の短い光。UV-A、UV-B、UV-Cがある(UV-Cは大気で吸収され地表には届かない)。
UV-BはビタミンDの生成を助ける作用がある。
過度に浴びすぎると日焼け、皮膚のシミ、シワ、たるみなどの肌老化や、皮膚がん、白内障などのリスクになる可能性がある。
バイオレットライト 波長360~400nmの光。
目の網膜の外側にある脈絡膜の血流を改善し、近視の進行を抑制する作用があることが近年明らかになってきた。
ブルーライト 波長400~500nmの光。
朝、浴びることで体内時計をリセットする。その約12時間後に睡眠を促すメラトニンというホルモンが分泌され、スムーズな眠りに導く。
夜間に浴びると体内時計に乱れを起こし、睡眠障害や肥満など様々なトラブルの原因になる可能性がある。
強いブルーライトは網膜にダメージを与えることもあるので、長時間継続的に浴びることは避ける。
赤外線 波長が780nmより長い光。
熱を発し体を温める。

ちなみに雨の後に見られる虹は、可視光線の7色。太陽光が雨の水滴で屈折・反射して、波長の長さの違いから7色に分かれて見られる現象です。

良い太陽と悪い太陽のイラスト

太陽光を上手に健康維持に活用しましょう

太陽光には、私たちの体へのメリット、デメリットがあります。ここでは、まずメリットを見ていきましょう。適度に太陽光を浴びることが私たちの健康を支えていることを示すデータを紹介し、続いて、光の種類ごとの健康への影響と、上手な利用の仕方をお伝えします。

太陽光不足で生じる様々な健康リスク

コロナ下において屋外で過ごす時間が減っている方は少なくありません。
ブルーライト、バイオレットライトの人体への詳しい作用の実態が明らかになるにつれ、これらの波長の光を含む太陽光を浴びる時間が減ることで生じる複数の健康リスクもわかってきました」と坪田先生は説明します。

例えばスウェーデンの研究。29,518人の女性を20年間追跡した研究では、太陽光を積極的に浴びていた女性は太陽光を避けていた女性に比べ、心血管疾患による死亡リスクが低下していることがわかりました。この研究では、太陽光を避けることは喫煙と同レベルで死亡の危険因子となると指摘しています※1。

2020年には「太陽光の浴び方が不十分だと乳がん、大腸がん、高血圧、心血管疾患、メタボリックシンドロームのリスクを高める可能性がある」という世界の医学関係者、政府に向けた提言が、スウェーデンのカロリンスカ研究所などの研究者から発表されています※2。

また、太陽光はメンタル面の健康に影響するという報告もあります。中国での60歳以上の女性1,429人を対象にした研究では、太陽光を浴びる程度が高いほど、抑うつ症状が出にくくなっていたと報告されています※3。

※1 J Intern Med. 280(4): 375-87. 2016
※2 Int J Environ Res Public Health. Jul 13; 17(14): 5014. 2020
※3 PLoS One. 16(7): e0254856. 2021

公園で気持ちよさそうに朝日を浴びる女性

体内でビタミンDを作るには紫外線が不可欠

比較的古くから知られている太陽光の役割として、紫外線が体内のコレステロールを材料にビタミンDを作ることを助けるという機能があります。
ビタミンDはサケやマグロ、キノコ類などの食品からとることもできます。しかし、食事だけで必要な量をとるのは大変ですし、屋外にほとんど出ない生活ではビタミンDの合成ができず、不足する可能性があります」(坪田先生)

ビタミンDの合成を補助する紫外線はUV-Bですが、これもバイオレットライトと同様、ほとんどのガラスを透過しません。つまり「屋内で窓越しに太陽光に当たってもビタミンDは合成できません」(坪田先生)。だからこそ屋外で太陽光を浴びることが欠かせないわけです。

ほかにもビタミンDには多様な働きがあります。腸管からのカルシウムの吸収を促して丈夫な骨を作る働きをするほか、免疫細胞の働きを維持して感染症やがん予防に役立ったり、血糖値や血圧を調節して生活習慣病を抑えたりすることがわかっています。

丈夫そうな骨のイラスト

「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では18歳以上の男女ともに、ビタミンDの摂取目安量は1日8.5µgとされていますが、「令和元年国民健康・栄養調査」によれば、20歳以上の平均摂取量は7.2µgと、摂取目安量を下回っています。

このほか、日本における大規模調査でも、血液中のビタミンDの濃度が、骨の健康に必要とされる指標30ng/ml未満の人が約8割に達し、成人から高齢者まで全年代でビタミンDが不足した状態であることがわかっています※4。

では、どれぐらいの時間、日光を浴びればよいのでしょうか。これまでの研究で、日本でも季節や場所(緯度)によって浴びるべき時間が異なることがわかっています。冬より夏の方が、緯度が低い方が紫外線量は多いからです。
参考にしたいのが、スマートフォンでも確認できる国立環境研究所 地球環境研究センターのウェブサイト「ビタミンD生成・紅斑紫外線量情報」です。

全米科学・工学・医学アカデミーの食品栄養委員会の専門家委員会では、生後12カ月までの乳児は1日10µg、1~70歳未満は15µg、70歳以上は20µgのビタミンD摂取を推奨しています※5。このため同ウェブサイトでは、全国12カ所の観測地点における「皮膚にダメージを与えずにビタミンDを10µg合成するのに必要な日射時間」の目安を時間ごとに示しています。
「顔と手を露出した場合」と「腕と足も露出した場合」の時間が表示され、自分のいる場所や、ライフスタイルに合った日照時間がわかるので参考にするといいでしょう。モバイル版もあるので、外出先でも簡単に確認できます。

※4 Osteoporos Int 24, 2775-2787, 2013
※5 Institute of Medicine, Food and Nutrition Board. Dietary Reference Intakes for Calcium and Vitamin D. Washington, DC: National Academy Press, 2010.

風邪をひいて咳き込んでいる男性

ブルーライトは浴びる時間帯と浴び方に注意

一方、ブルーライトは太陽光のほか、スマートフォンやPCの画面、LED照明からも出ていることが知られており、これまでその負の作用が特に強調されてきました。

誤解が多いのですが、ブルーライトはそれ自体が人体に悪いものではありません。大切なのは『浴びるタイミング』です」と坪田先生は言います。

朝、起床後に浴びるブルーライトは体内時計をリセットして整える作用があります。その半日後に睡眠を促すホルモン、メラトニンの分泌量が増えて自然と眠くなります。これによって、昼夜の睡眠のリズムが維持されるわけです。また抑うつ的な状態を改善したり、記憶力の向上に寄与したりする可能性も指摘されています」と坪田先生。

そのため、夜、スマートフォンの画面を見続けることは、日が落ちてもブルーライトを浴び続けて脳に「まだ日中である」という錯覚を生じさせることになってしまいます。

参考:「朝」のセルフケア、3つのポイント(寝不足の悪習慣から抜け出すためのセルフケア)

結果、体内時計に乱れが生じ、その影響で血糖値を下げるホルモン、インスリンの働きが低下して糖尿病や肥満のリスクが上昇してしまいます。またがんや高血圧、うつ病などのリスク因子にもなる、という指摘もあります。ですから昼間とは逆に、夜はブルーライトを極力浴びないようにスマートフォンやPCの使用を減らす、部屋の照明を少し暗くする、ブルーライトカットメガネを使う、などの工夫をしてください」(坪田先生)

また、ブルーライトは比較的エネルギーの高い光のため、長時間浴び続けると、網膜にダメージが蓄積される可能性があります。
坪田先生は「波長の短いブルーライトは目の表面で乱反射しやすいため、ドライアイの傾向がある人は特に見え方の低下につながります。そのような方は屋外でも適宜、ブルーライトカットメガネなどを使って目を保護するといいでしょう」とアドバイスします。

夜、ベッドの中でスマートフォンを操作している人

バイオレットライトは近視の進行を抑える

太陽光の健康への作用において、近年、特に注目されているのが、バイオレットライトの人体への作用です。坪田先生を中心とするチームの研究で、バイオレットライトに近視の進行を抑制する作用があることが初めて報告されました。

私たちは、特定の波長の光を通す眼内レンズ(目の中に入れるレンズ)を使っている強度近視の患者さんは、通さないレンズを使う人より近視の進行が遅いという事実を見つけ、そこから、その波長の光=バイオレットライトが近視の進行を抑えることを発見しました。その後の研究で、バイオレットライトは網膜にあるOPN5という光受容体を刺激し、網膜の外側にある脈絡膜という部分の血流を良くして近視の悪化を抑制していることも動物実験で確認しました」と坪田先生は説明します。

近視は大人になると進行が止まるし、メガネやコンタクトレンズで矯正できるだろう、とさほど深刻に捉えていない人も多いかもしれません。しかし、近年の研究では、大人でも近視は進行し、強度の近視になると緑内障や黄斑変性という疾患を引き起こして、失明の重大なリスクになることがわかってきています。そして世界、特にアジアで近視は急増しており、2050年には世界の半分の人が近視になる、とも言われています。

坪田先生は「慶應義塾大学眼科の調査で、都内の私立中学校では生徒の95%が近視という結果も出ました。リスクの高さ、そしてその拡大具合のいずれの点でも、近視は決して放置していいものではありません」と指摘します。

バイオレットライトの機能の発見は、世界的な近視リスクを軽減できる可能性を見出したと言えます。しかし問題は私たち自身が「太陽光を浴びる機会」が大幅に減っていることです。

ここ数十年で多くの国で外遊びをする子どもは激減しており、日本でもその傾向は顕著です。同時に国内外の研究で、屋外で活動する時間が長い子どもは近視の発症率が低いことが明らかになっています」(坪田先生)

では、窓辺の明るい部屋で過ごせばいいのでしょうか?
いえ、現在流通している窓ガラスの大半は紫外線をカットする措置が施されており、バイオレットライトも透過しません。蛍光灯やLEDの照明にもバイオレットライトは含まれていませんので、屋外で太陽光を浴びなければ、バイオレットライトの恩恵は受けられないのです」(坪田先生)

適切な方法、適切なタイミングで太陽光の恵みを活用

バイオレットライト、ブルーライト、そして紫外線ですら、適切な方法、タイミングで浴びることが、健康な体の維持には不可欠である、ということが明らかになってきたのではないでしょうか。

現代の私たちの生活環境では、窓ガラスだけでなく、メガネやコンタクトレンズも紫外線、バイオレットライトはほぼ通さなくなっています。なので、これらの光、特にバイオレットライトの恩恵を得るには一定の時間を取って屋外の太陽光を浴びることが大切です。日陰にいてもバイオレットライトは目に入るので、直射日光を浴びる必要はありませんし、屋内で窓を開けて光を取り入れるのでも構いません。ただしその際はUVカットのメガネやコンタクトレンズは一時的に外した方がいいでしょう」(坪田先生)

公園で遊ぶ子どもを木の陰で見守る母親

また同じ「屋外」でも、水の反射がある海や川、雪が照り返すスキー場などは街中の一般的な環境より、浴びる光の量が大幅に増えます。強い紫外線などによる目や皮膚のダメージも比例して増しますので、日焼け止めやサングラスなどの適切な利用が必要となります。

「太陽光の浴び方は、加減が非常に大切です。運動と同じように考えてみてください。過度な運動は疲労やけがの原因になるように、炎天下で太陽光を浴び続けたり、目を保護せずにまぶしい海辺やスキー場で1日過ごしたりするのは危険です。太陽光の健康への恩恵をうまく受け取るために、季節や時間帯を考慮して、日陰と日なたを使い分ける、適切な機能のメガネを使うなどの調整をしてみてください」と坪田先生はアドバイスをしています。

日陰を上手に使うことは、熱中症対策としても有効です。

一方で、正しい紫外線対策も必要不可欠です。次のページで紹介するので、正しい知識を身につけましょう。

専門家プロフィール

坪田一男先生
慶應義塾大学名誉教授、坪田ラボ代表取締役CEO。医学博士(眼科学)。1980年、慶應義塾大学医学部卒業。日米の医師免許を取得、米ハーバード大学角膜クリニカルフェロー修了。角膜治療の世界的権威であると同時にアンチエイジング医学の研究と啓発に長年尽力。日本抗加齢医学会理事、日本眼科学会評議員、ドライアイ研究会世話人代表、近視研究会世話人代表など。
TOPへ