症状が出たときの市販薬の選び方
2024.10.17 更新
新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)が5類に引き下げられて以来、それまで息を潜めていたかのような多くの感染症が猛威を振るうようになりました。身の回りにあふれる多くの細菌やウイルスに感染しないためには、日常生活でどのような点に気をつければよいのでしょう。また、若くて持病がないなど健康な人が感染したときは、市販薬によるセルフケアが推奨されています。熱や咳といった症状が出たときに、どう市販薬を選んだらよいのでしょうか。「感染症を防ぐ生活習慣」と「市販薬の選び方」を紹介します。
感染症を予防するには、免疫を下げないための生活習慣も大切です。
その一つがバランスの良い食事。過食による肥満は感染症リスクを上げてしまいます。
適度な運動も重要です。運動不足とともに、過度な運動でも感染症になりやすくなります。
十分な睡眠も感染症予防のカギのひとつです。
一方、感染症にかかってしまったときには、市販薬が強い味方になります。ただし、その選び方が重要です。
症状別の選びたい成分をまとめると下記のようになります。
症状 | 成分 | 備考 |
---|---|---|
熱と頭痛 | NSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェン、アスピリンなど) | 抗炎症作用があり、効き目がよい |
アセトアミノフェン | 胃が弱い、腎臓病、喘息の人、子ども、高齢者、妊婦、インフルエンザの疑いがある場合はこちらがベター | |
のどの痛み | トラネキサム酸 | 炎症だけでなく出血も抑える |
NSAIDs | 痛みが強いとき | |
咳 | 非麻薬性デキストロメトルファン | 眠気に注意 |
麻薬性コデイン | 効果は高いが眠気や便秘に注意 | |
鼻水 | 第1世代抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど) | パッケージに「アレルギー専用鼻炎薬」ではなく「鼻炎薬」と記載されている |
下剤 | 細菌性の下痢が疑われる場合は下痢止めは控え、経口補水液で水分補給 |
(監修:鈴木伸悟先生)
症状が激しい場合や3~4日たっても症状が改善しない場合には、医療機関の受診も考慮しましょう。市販薬によるセルフメディケーションと医療機関の受診を上手に使い分けることが大切です。
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猛威を振るう感染症にかからないようにするには、前編で紹介したマスクや手洗いといった基本的な感染対策に加え、体の免疫力を維持するための生活習慣が重要になります。千葉大学医学部附属病院感染制御部・感染症内科准教授の谷口俊文先生は、「当たり前のことですが、感染症の予防には、食事、運動、睡眠、ストレス管理が大切です」と話します。
まず食事で欠かせないのは、バランスの良い食生活です。炭水化物や脂肪を取り過ぎず、たんぱく質、ビタミン、ミネラル、食物繊維をしっかり摂ることを心がけましょう。炭水化物は1日の総摂取カロリーの約半分(50~55%)をめどに。日本人の場合、油断するとご飯や麺類など炭水化物食品に偏りがちになることもあるので注意が必要です。例えば忙しいときでも、おにぎりや麺だけの昼食は避け、主菜や副菜で緑黄色野菜・根菜類などの野菜や肉・乳製品・卵・大豆食品といったたんぱく質の多い食品を摂ることを意識しましょう。
炭水化物も、精白米や白いパンを減らし、大麦や玄米、全粒小麦製のパンなど食物繊維や微量栄養素が多い全粒タイプの穀物を増やすことで各種疾患リスクが下がることがわかっています※1。
「カロリーオーバーは寿命を短くすることが動物実験でわかっています※2から、必要以上に食べ過ぎないことも大切です。特に新型コロナで顕著ですが、過度な肥満の状態は感染症に対する免疫が落ちるといわれます。これは脂肪組織が多いとそこで作られる炎症成分によって体内で慢性的な炎症反応が起こるのが一因。感染したときの重症化リスクも高まります」(谷口先生)
免疫に関わる栄養素としては、ビタミンDが確認されています。前編で、新型コロナとビタミンDに関するデータを紹介しましたが、多くの研究を分析した結果、血中のビタミンD濃度が低い人がサプリメントでビタミンDを補給すると、インフルエンザなどの急性呼吸器感染症の発症リスクが下がるという研究もあります※3。ビタミンDが多い食品は魚で、サケ、マグロ、イワシ、ニシンなどの脂が乗った大きな魚に多く含まれます。また、日光(紫外線)を浴びることで皮膚でも合成されるので、適度な外出などでの日光浴も欠かさないようにしましょう。
また、薬剤師の鈴木伸悟先生は「
「冷えは万病の元といわれ、免疫力を下げます。冷えを避けるには、夏でも冷たい食べ物や飲み物をとりすぎないことが重要です。食材では、薬膳で体を温めるとされるネギ、ショウガ、ニンニクを食事に取り入れることをお勧めします」(鈴木先生)
免疫力を保つには、適度な運動も大切です。フルマラソンのような激しい運動は免疫力を低下させますが、運動不足でも同じく免疫力は低下します。運動量と風邪をひくリスクを調べた研究から、適度な運動をしたときが最も風邪のリスクが低くなることが確認されています。
では、適度な運動とはどの程度のものでしょうか。厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人に対して「1日8000歩または歩行と同等以上の身体活動を1日60分以上」「息がはずみ汗をかく運動を週60分以上」「週2~3日の筋力トレーニング」を推奨しています。
そんなに時間が取れないという人は、数分でもいいので、やや強度の高い運動をしてみてはいかがでしょう。「1日4~5分だけ全力でウォーキングをする」くらいでもがんのリスクが最大32%減るという研究もあります※4。つまりこのくらいの運動でも、免疫を維持する効果は得られる可能性があるということ。短くても続けることが重要です。
「免疫機能を維持するには、十分な睡眠時間を確保することも必要です。必要な睡眠時間には個人差があるので一概に何時間以上眠るべきとはいえませんが、睡眠時間を削ると免疫力が低下することがわかっています」(谷口先生)
睡眠中は成長ホルモンが分泌されてダメージを受けた細胞が修復されますが、それも免疫力の維持に関わっていると考えられます。米国で約160人を対象に、睡眠時間と風邪のかかりやすさの関係を調べた研究では、7時間以上眠っている人に比べ、睡眠時間が短いほど風邪にかかる確率が高くなり、5時間未満しか眠らない人が風邪をひくリスクは7時間以上睡眠をとる人に比べて4.5倍も高くなっていました※5。
気付きにくいのが「口腔衛生」の重要性。「特に歯周病の人は口の中で炎症が起こっている状態なので、ウイルスに感染しやすくなります。コロナ禍のときは、高齢者に二次性細菌性肺炎が増えました。新型コロナに感染して肺の免疫力が落ちた後、口の中の常在菌が肺に入って誤嚥性肺炎を起こすのです」と谷口先生。虫歯や歯周病は放置せず、口内を清潔に保つことを心がけましょう。
前編でも紹介したように、重症化リスクが高くない人が新型コロナやインフルエンザに感染したときに医療機関を受診しても、解熱剤など対症療法の薬を出されるだけのことが多いようです。そのため、「基礎疾患や重症化リスクがない人は、コロナであっても必ずしも病院に行く必要はありません」と谷口先生は助言します。
つまり、新型コロナか一般的な風邪かの見極めを重視するのではなく、適切に市販薬を使い、しばらく使って効果が出なければ速やかに医療機関を受診する、という行動が望まれます。
さて、その場合には、上手に市販薬を利用したいもの。鈴木先生は「発熱や咳を放置して長引くと体力が落ちてしまいます。こうした症状や頭痛などを市販薬で抑えることも大切です」と指摘します。
では、発熱や咳などの症状が出たとき、どのような市販薬を選べばよいのでしょうか。
「例えば風邪かなと思ったとき、総合感冒薬を選べば間違いないだろうと考える人が多いのですが、利点でもあり注意点でもあるのが総合感冒薬は効能が広いということです。例えば、のどが痛いだけのときに総合感冒薬を飲むと、必要がない咳を抑える成分や鼻水を抑える成分が入っていることもあるわけです。必要ない成分を摂取することで、眠気や便秘などの副作用が出る可能性も高まります。
そのため、熱や咳など、症状が1つに限られているときは、その症状だけに合う薬を飲んだ方がいいでしょう。一方で、熱があって咳が出る、鼻水も出る、など症状がいくつか表れている場合は総合感冒薬が向いています。総合感冒薬も入っている成分は様々なので、自分の症状に合うものを、薬剤師や登録販売者に相談して選びましょう」(鈴木先生)
症状別の具体的な選び方は次の通りです。
症状 | 成分 | 備考 |
---|---|---|
熱と頭痛 | NSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェン、アスピリンなど) | 抗炎症作用があり、効き目がよい |
アセトアミノフェン | 胃が弱い、腎臓病、喘息の人、子ども、高齢者、妊婦、インフルエンザの疑いがある場合はこちらがベター | |
のどの痛み | トラネキサム酸 | 炎症だけでなく出血も抑える |
NSAIDs | 痛みが強いとき | |
咳 | 非麻薬性デキストロメトルファン | 眠気に注意 |
麻薬性コデイン | 効果は高いが眠気や便秘に注意 | |
鼻水 | 第1世代抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど) | パッケージに「アレルギー専用鼻炎薬」ではなく「鼻炎薬」と記載されている |
下剤 | 細菌性の下痢が疑われる場合は下痢止めは控え、経口補水液で水分補給 |
(監修:鈴木伸悟先生)
まず、熱があって頭が痛いとき。15歳以上であれば基本はロキソプロフェンやイブプロフェンといったNSAIDs(エヌセイズ、非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる薬が使われます。炎症物質の合成を抑えることで炎症を抑える作用があり、それで痛みや熱を抑えます。もうひとつはアセトアミノフェン。炎症を抑えるのではなく、体温中枢などに作用して熱を下げたり痛みを抑えたりする薬です。
「NSAIDsの方が効き目は強いのですが、胃や腎臓に負担がかかることがあります。胃が弱い人、腎臓病の人、喘息の人、子ども、高齢者、妊婦などはアセトアミノフェンを選ぶといいでしょう。
またアスピリンなどのNSAIDsはインフルエンザ脳症を起こすリスクがあるので、インフルエンザの可能性があるときもアセトアミノフェンの方が安全です」と鈴木先生は説明します。
飲み方は記載されている用法用量に従いましょう。総合感冒薬の場合、「1日3回食後に」などと書かれていることが多いです。
「食後の方が胃の負担が少ないですが、鎮痛薬はあまり食事のタイミングにこだわらず、痛みがあるときに飲むようにしましょう。逆に痛みや熱がないのに、予防のために飲むのはいけません」(鈴木先生)
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のどの痛みには、のどの炎症を抑えるトラネキサム酸が配合されている薬が向いています。
「のどスプレーやトローチ剤もありますが、これらは軽症の場合か補助的に使うのがいいでしょう。のどの痛みが強いときはロキソプロフェンやイブプロフェンのような解熱鎮痛薬も有効な選択肢になります」(鈴木先生)
咳止めによく使われるのは非麻薬性のデキストロメトルファンと麻薬性のコデインです。コデインは作用が強いのですが、便秘になりやすいなどの副作用もあります。まずは安全性の高いデキストロメトルファンを選んだ方が無難です。
「ただし風邪のような『急性』の咳の場合に、これらの市販薬は効きにくいこともあります。咳は、放置してひどくなると気道に炎症が起こり、さらに咳がひどくなるという悪循環に陥ります。咳止め薬が今の自分の症状に効いてないと思ったら、早めに医療機関を受診するようにしましょう」(鈴木先生)
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鼻水には抗ヒスタミン薬が効きます。抗ヒスタミン薬とは、体内に分泌されたヒスタミンの働きを抑える薬のことです。第1世代と第2世代がありますが、風邪など感染症の鼻水に効くのは第1世代(クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど)です。同じ抗ヒスタミン薬でも、第2世代(フェキソフェナジンやロラタジン)は、花粉症などのアレルギーによる鼻水には効果が高い成分です。
「鼻炎薬にはアレルギー専用鼻炎薬とただの鼻炎薬があり、感染症の鼻水に効くのは第1世代が入った、ただの鼻炎薬の方です。ただし、第1世代の抗ヒスタミン薬は血液脳関門を通って脳に届き、眠気を起こします。総合感冒薬にも入っている成分ですが、飲むと車の運転などはできないので注意してください」(鈴木先生)
風邪の症状が鼻水・鼻づまりだけなら、点鼻薬を活用するのも良いでしょう。
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ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎では、下痢や嘔吐を起こします。実はこのとき、安易に下痢止め薬を使うのはよくありません。
「風邪やノロウイルスなどの感染症で下痢になったときには、体が外に病原体を排出させようと下痢などを起こしているからです。
この場合に大切なのは、下痢などで体外に出てしまった水分を補うこと。それには経口補水液が適しています。体内へ吸収されやすいようにナトリウムやカリウムのバランスを考えて作られているので、水や氷で薄めずにそのままストレートで飲んでください。また、ビフィズス菌製剤のような整腸薬を使うという選択肢もあります。
緊張して下痢になった、暴飲暴食でお腹を壊した、といった場合は下痢止めを使うといいでしょう」(鈴木先生)
その上で下痢止め薬を使う場合には、直接腸管の動きを抑える成分ロペラミドが配合されているものや、神経を通じて腸管の動きを抑えるロートエキスが配合されているものがあります。ロペラミドは眠気が出やすいので注意してください。また、ロートエキスには副交感神経の働きを抑える抗コリン作用があるので、授乳中の女性は飲めません。また、目がチカチカする副作用があるため、車の運転もできません。
「元気が出る」ということからエナジードリンクを愛用する人も少なくありません。風邪薬と一緒に飲むと、より早く治りそうな気もしますが、どうなのでしょうか。
「エナジードリンクの主な成分はカフェインなので、覚醒作用や興奮作用で“元気が出る”ように感じる場合があります。これはもともと元気な人ががんばるときに飲むものです。風邪のときは休むことが何よりも重要なので、覚醒や興奮はよくありません。
もしも補助的に飲みたいのであれば、ノンカフェインのビタミンドリンクなどを選ぶとよいでしょう。動物性生薬などが配合されたドリンク剤を、風邪薬と一緒に飲んでも基本的には問題ありません」(鈴木先生)
ちなみに、カフェインは交感神経を刺激するので、取り過ぎると不眠のほか、動悸、頭痛、耳鳴りなどが起こることがあります。カナダ保健省では、カフェインの1日の許容量を400mgとしています。内閣府食品安全委員会によると、コーヒーに含まれるカフェインは100mL中60mg程度。つまりコーヒー1杯で約90mgのカフェインをとることになります。一方、代表的なエナジードリンクの中には、1缶355mL中にカフェインが142mgも入っているものもあるので飲み過ぎには注意しましょう。
新型コロナやインフルエンザなどですぐに受診しなくてもいいのは基礎疾患など重症化リスクがない健康な人の場合です。糖尿病や膠原病などの持病がある人、高齢者、妊婦、乳幼児など重症化リスクがある人は、具合が悪くなったら早めに受診することが大切です。
「いつもは健康な人がまず市販薬で対応するのは大事ですが、風邪だと思っていたらほかの疾患が隠れているといったケースもあります。息苦しい、高熱が下がらない、咳が止まらないなど、症状がひどいときはすぐに医療機関に行きましょう。また、症状が軽くても、3~4日以上たっても症状が治らない場合も受診しましょう」(鈴木先生)
感染症対策では、市販薬によるセルフケアとともに、「おかしい」と思ったときの早めの受診が大切です。